異世界モンスターに正拳突き!!!!!!
崩れゆく崖の向こうに見たこともない長さの牙が円形に立ち並んでキョウジにおそいかかろうとしていた。
うああああああ!
衝撃で舞った砂の匂いと周囲の瓦礫。元、橋の木片。それらと共に主人公は谷底に落ちていっていた。
とはいってもあの牙から逃れる事ができない限り、このデスフリーホールを五体満足の状態で終えることさえできない。
助けてくださああああい涙
谷間にキョウジの弱々しい叫びがこだまする。
まったく、しかたないわね。
旅人のネルは軽く舌打ちをしながらも、スリンガーを片方は馬車に片方は落下している怪物の餌めがけて放った。無論、直に当てては餌が飛び散るので生き餌として回収できる様ワザと角度を外してある。
くるくると主人公の周りをロープが周回していく。
当の本人は方向感覚も平衡感覚も失われ、水の中でもがくがごとき、ジタバタっぷりである。
ネルは慣れた様子で衝撃に間に合う様に口元で呪術を唱えていた。
…宙の精霊よ、我に従う……。
見た目では人一人を片手で持ち上げるには小さく痩身に思えるネルだが、魔力の生成が間に合い、いつもそうする様に軽くロープを引っ張った。
キョウジふっきん!
ロープを引っ張る直前に少女はそう叫ぶ。
生きるか?死ぬか?と空中でもがいている少年にとっては謎の言葉が耳に届いたので腹筋?と聞き返そうと言葉を口に出した時。
腹筋?グフッッッ!!!
怪物に齧られた衝撃に等しいロープの締め付けがキョウジの腹部を襲った。
そこから天高くネルを支点に逆バンジーをし、無事元いた馬車に乗りこむことに成功するキョウジ少年。渓谷の赤い怪物の遠吠えが響き渡った。
ちょっと力加減間違えちゃったかも。
ネルは軽く飛び自分も馬車に乗り込むと一息つく間も無くネルはキョウジを見てそう漏らした。
ネルちゃんキョウジくん大丈夫でした?
馬車を運転していた整備士のリヒトが丸いメガネをかけ直しながら荷台に顔をのぞかせた。
イッテーーーーー。
キョウジは自分が生きていることを馬車の荷台で実感しつつ。衝撃でぼやけた目を近くで立っている少女に向けた。
肩の高さに切りそろえられた綺麗な白い髪が風に揺れ。胸の曲線が運動のあとで息に呼応する様に収縮している。そして逆光でもわかる大きな瞳がこちらを向いて心配そうにしていた。その光景を密かに神々しいなと感じるキョウジ少年なのだが、なかなか視線をそらさないので。心配してくれているのだ。とおもって、少し嬉しい気持ちになっていると、ネルはペロっと舌を出して可愛い顔でごめんと謝った。
ん?
あ…、あ、あ。キョ、キョウジくん
あ、リヒトさん、危ないところでした、橋が崩落して、僕は死んだと思ってしまいました。逃げ切れたというかネルとリヒトさんのおかげで、僕はタダ落ちてただけなんですけどね。まぁとりあえずこうして、死なずに済んだんで、ありがとうございます。
じゃ、じゃなくて…それ。
ドゴッ!!!!!
うわっ!!!!
何か中型犬くらいの生き物が急に荷台に落ちてきたのでリヒトは奇声をあげて隠れていった、キョウジは追っ手かと思って体を起こそうとするがなぜか体制を立て直せない。
そうこうしていると、いつの間にかネルの足元にぶつかって、キャ!っと少女の様に驚くキョウジであったが、見るとネルはヤっちゃったという顔をしていた。
キョウジ。アレ、キョウジの脚
え?
ネルのさした方を見ると懐かしいというか自分の下半身がそこに横たわっていた。
そして自分が今、上半身だけである事に気づいた。
ネルはテヘペロをした。
テヘペロじゃない。
ブシューーー!っと自分の体から血が噴き出し始め意識が薄らいでいった。
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