表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/48

仁義なき村長選挙なのじゃ! 5

 順調に選挙活動を続ける中、村長候補オリガはその人気を高めていく。


「オリガちゃん、これお食べ」


「今日もあちこちの家を回るのかい? 小さいのに偉いねえ」


 おじいちゃんやおばあちゃんたちから、たくさんの差し入れをもらい、食糧事情もかなり良い。

 問題は、通りかかる人々は皆、オリガと握手した後、頭を撫でたがることであろう。


「グシオン、なぜに村の者たちはわらわの頭を撫でたがるのじゃ?」


「我が主の背丈が撫でやすいくらいだからではないでしょうか」


「そっか、オリガちゃん、小さいもんねえ」


「わらわも本気を出せば、もっとナイスバディなお姉さんになることができるのじゃぞ?」


 どぶ板選挙の途中、差し入れられたお饅頭をもりもり食べるオリガなのだった。

 甘いアンコがたっぷり入っており、美味しい。


「甘いのじゃー! 至福なのじゃー!」


 甘いものを食べたオリガは、纏う魔力を金色に輝かせる。

 たいへん目立つので、村人はすっかり、甘味を食べてぴかぴか光る幼女のことを覚えてしまった。






 そんなわけで、選挙戦も後半。

 現職村長は前にもまして演説のための集会を開くのだが、明らかに集まりが悪くなってきていた。


「なんだ、何が起きているというのだ!!」


「村長、あの小娘が家を一軒ずつ回って握手してます!」


「わはは、そんなまだるっこしいことをして何になるというのだ。馬鹿な農民どもは、上から言い聞かせてやればそれだけでいいというのにな!」


 村長はまだ、楽観的な様子である。


「しかし人が集まらないのはおかしいな。そうか、あの小娘が妨害をしてるんだな! おい!」


「はい、調べておきました。あいつらの家は、アリアが住んでいる小屋ですね」


「父親が出稼ぎに出ている家か。おのれ、村にたった一人の子供だと思って甘く見ていれば……!」


 めらめらと、筋違いな怒りの炎を燃やす村長。


「お前ら、アリアの家を壊してしまえ! 牛を突っ込ませろ!」


「わかりましたぜ!」


「ガキ相手にも容赦がねえ……。恐ろしい人だぜ」


 ということで、村長からの妨害工作が始まるのである。







「牛だー! 牛が暴走したぞー!!」


 選挙活動の途中、村人の叫びでオリガは事態に気付いた。


「牛とな。確か、牛は畑を耕したり、森を拓く時に使うと聞いておったが……そう言えば村の中に牛がおらんかったのじゃ」


「牛さんはね、村長さんの家にまとめて飼われてるの。この村は何でも全部、村長さんが持ってるから」


「独占状態にあるということなのじゃ! それは不健全なのじゃー」


 オリガが難しい顔をする。

 アリアは、どうしてこの幼女が怒っているのか、よく分からなかった。

 何しろ、彼女が生まれた時からこうなのだ。

 牛も馬も農具も、地主である村長から借りなければ、村人は何もできない。


 そんな、村長の家で飼われている牛が暴走したということ。

 それは普通の出来事ではない。


「何か意図を感じるのじゃ! グシオン!」


「はっ! 牛が走っていく方向は……我らの選挙事務所があります」


「なんじゃと!」


「ええー!!」


 秘書グシオンの分析に、オリガとアリアが驚愕する。


「大変だよ! 私のおうち、古くなってきてるから、牛さんがぶつかったら壊れちゃうかも! どうしよう、どうしよう……! い、急いで行かなくちゃ!」


 アリアが走り出した。


「これは間違いなく、現村長からの嫌がらせじゃな……! あやつめ、手段は選ばぬというわけか! 仁義というものがないのう」


 オリガもアリアに続く。

 アリアよりも小さな幼女の見た目だが、その足はとても速い。

 あっという間にアリアに追いつくと、彼女の腰を抱え上げた。


「きゃっ!? オリガちゃん!?」


「わらわに任せるのじゃ! 何せ、わらわは牛よりも速いのじゃー!」


 少女を抱えた幼女魔王が、猛スピードで村を駆け抜けて行く。

 途中で、爆走している牛たちと並走した。


「ふむ、ここで転がしてしまえば簡単じゃが、牛は村の財産でもあるのじゃ! ここは穏便に行くのじゃ!」


 牛たちの様子はおかしい。

 目が血走り、泡を吹いている。

 何か、興奮する薬草でも食べさせられたのかも知れない。


「解毒の魔法じゃ! そおれ!」


 オリガは走りながら、空に向かって何かを振り撒く動作をした。

 その動きに合わせて、辺りに輝く粉のようなものが出現する。

 それは牛に触れると、体に溶け込んでいった。

 効果は劇的。

 牛たちの興奮が収まっていく。

 目の色は元に戻り、彼らが正気になったことが分かる。

 だが、牛は急には止まれない。


「だめー! ま、間に合わないよう!」


 アリアが悲鳴を上げた。


「黙っておれ。舌をかむのじゃ! では仕方ないのじゃ。牛たちよ、しばらく空に浮かんでおれ! 浮遊の呪文!!」


 オリガは手のひらを上に向けると、何かを持ち上げるような仕草をした。

 それと同時に、全ての牛がふわりと浮かんだ。


「ほれ、もっと上じゃ! もっと! もっと上じゃ!」


 牛がふわり、ふわりと浮かび上がっていく。

 牛たちはパニックになり、足でばたばたを空を掻く。


「そして鎮静の呪文じゃ! ねむれー」


 今度は、何かを掛けるような仕草をするオリガ。

 すると、牛たちの目はとろんとして、あっという間に眠ってしまった。

 場所はもう、アリアの家の目と鼻の先。

 家の空に、たくさんの牛が眠りながら浮かぶという不思議な光景が生まれた。


「オリガちゃん、すごい……! なにをしたの?」


「魔法なのじゃ! わらわ、こう見えても偉大なる魔王なのじゃー!」


 家の前で立ち止まったオリガが、くっはっはー、と笑う。


「すごいすごい! おうちもぶじだよ! あと、あの、オリガちゃん」


「なんじゃ、アリア」


「下ろして~!」


 オリガに担がれたアリアが、足をばたばたとさせるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ