仁義なき村長選挙なのじゃ! 1
朝。
朝食のオートミールを、文句も言わずもりもりと平らげるオリガ。
とにかくよく食べる。
アリアが目を丸くすると、あっという間に食べ終わったオリガが宣言した。
「今日から選挙活動を開始するのじゃ! まずは立候補じゃな! あとは秘書、秘書が必要なのじゃ!」
「ひしょ?」
耳慣れない単語にアリアが首を傾げる。
「うむ! 色々、主を手助けする者じゃな。執事とかに近い!」
「ええ……わたし、そうゆうのはできないと思う」
「うむー。アリアはまだ、読み書きもできんしな」
「ふにゃ」
目を潤ませるアリア。
「安心せよ! お主にはわらわが読み書きをおしえてやろう! 魔法帝国語じゃがな! それとは別に秘書を召喚する。わらわが従えていた、72の悪魔のうちの一体で……」
オリガはぶつぶつ言いながら、目の前の空間に光り輝く魔法陣を呼び出す。
「きゃ! なにこれ、すごい! ……あ、オリガちゃんお口にオートミールついてるよ」
幼女魔王の口を拭いてやりながら、アリアはオリガが操作する魔法陣をじっと見る。
「ふむ、ベリアルとマルコシアスは出張中じゃな。まあ、こやつらは良かろう。とすると、見た目と能力のバランスなら、こやつじゃな! いでよグシオン!」
オリガが悪魔の名前を呼ぶ。
すると、魔法陣が紫色に変わった。
それは強い光を放ちながらぐるぐると回り、やがて中心から、何者かが出現した。
紫のローブを着た長身の男だ。
「偉大なる主、オリガ・トール様の召喚に応じ、馳せ参じました。我が名はグシオン! 地獄の大公爵!」
「ご苦労! あと、テーブルから降りよ!」
オリガが告げると、グシオンはハッとした。
「これは行儀の悪いことをしました。失敬失敬」
グシオンは床に降りると、懐からハンカチを取り出し、テーブルの上を拭いた。
「グシオン、お主を呼んだのは他でもない。わらわは村長選挙に立候補するのじゃ! そして村長になり、村おこしをする!」
「ほうほう……!! あの最大最強の魔王、オリガ・トールが村長選挙に……!! スケールが大きいのか小さいのか分かりませんな……!!」
「甘いもののためじゃ」
「得心しましたぞ。オリガ様は食べること大好きでしたからな」
オリガとグシオンが喋っていると、アリアが不安そうに、オリガのドレスの裾を引っ張った。
「あの、オリガちゃん。この人は?」
「おお、こやつはグシオン。わらわのしもべじゃ。あと、これからは秘書じゃ。おいグシオン、そのような野暮ったいローブなど脱ぎ捨て、TPOに合わせた姿になれ」
「かしこまりました、我が主よ」
グシオンが跪くと、彼が纏っていたローブが変化する。
するすると縮んで、まるでマントのようになる。
その下から現れたのは、深い紫色……ともすれば黒く見える礼服姿の、眉目秀麗な青年である。
髪も瞳も紫色で、その容姿には怪しい色気が漂っている。
「悪魔グシオン。これより、オリガ様の秘書として仕えましょう」
「うむ! これで頭数は揃ったのじゃ! これから立候補に行くぞ!」
「わわ、かっこいい男の人になっちゃった! え、オリガちゃん、今から行くの!?」
「そうじゃ! 善は急げというからのう! ほれ、アリアがこの食べ物を食べ終わったら行くぞ! これ、ベタベタしててどうかなーっと思ったけど、砂糖をかけると甘くて美味しいのう! やっぱり砂糖は正義なのじゃ!」
「オリガ様、甘味に出会ってしまわれましたか。ははあ」
訳知り顔のグシオン。
そして、すっかりやる気のオリガを見て、アリアは大急ぎでオートミールを口に含むのだった。