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エピローグ わらわは町長なのじゃ!

「今まで、一介の司祭を演じながら見ていましたが、驚くことに何の問題もないようです」


 ライヤッチャ教の司祭が、遠くから村長邸を見ている。

 大きくなった村の規模に合わせ、村長邸も拡張されていた。

 屋敷の大きさは二倍、面積は八倍にもなろうか。


「魔王種は星を食い荒らす者。それに対するカウンターもまた、この宇宙には存在している。我が名はライヤッチャ。星を再生する者。ですが……そんな星を滅ぼす害虫と思っていた者が、まさか村を蘇らせるとは……。正直脱帽です」


 司祭……いや、異星の神ライヤッチャは笑った。

 滅亡の縁にあったこの星に、五千年前に降り立った神は、単純明快な教えを広めて人々に希望を与えた。

 そして、再生していく文明を見守っていたのだ。


 やがて、星を滅ぼした魔王が眠る封印に気付いた。

 年々、その封印がほころんで行っていることにも。

 だから、彼は消えゆくスイチー村に滞在することにしたのだった。


 だが、一瞬だけ著しく緩んだ封印に、村の少女アリアが入り込んでしまったのは計算外だった。

 そしてアリアの侵入によって目覚めた魔王が、なんとスイーツにドハマリし、少女の味方になって過疎の村の再生に着手するとは。


「あの村長選挙は見ものでした。彼女は正しく、人としての手段だけを用いて勝ち上がった。そして村の再生。文句のつけようが無い素晴らしい手腕です。彼女へのカウンターとして、あらゆる時代に勇者を転生させていましたが、その必要はなかったのかも知れません」


 後は、どれだけの時を、あの魔王が平穏に過ごしてくれるのか。

 いつまで人間の味方でいてくれるのか。

 ライヤッチャの関心は、そちらに移り変わりつつあった。


「まあ、それでも勇者は念のために転生させておくことにしましょう。連続勤務を強いることはとても心苦しいのですが、宿敵がいた方があの魔王も張り合いがあることでしょうし」


 そんな彼の後ろから、声がかかる。


「ありゃ。司祭様、何をしてるだか? あー、ここからなら村長さんの家が見えるだなあ」


「でっかくなっただねえー」


 村人たちだ。

 そう言えば、これから定例の、豊穣祈願の踊りがあるのだった。


「やあ、お待たせしました。では皆さん、今年も砂糖大根の豊かな実りを願って祈り、踊りましょう! さあ皆さんご一緒に! ライヤッチャ、ライヤッチャ!」


「ヨイヨイヨイヨイ!」


 村人たちの踊りと大合唱が、村中に響き渡る。





 かくして、スイチー村は栄えていく。

 観光を大々的にアピールして、国内での村の認知度を上げる。

 観光以外にも、農作物を作る第一次産業、それを砂糖や加工品にする第二次産業、そして販売する第三次産業までを、一括して村で請け負うシステムを作り上げたことで、利益のほぼ全てが流れ込むようになった。


 仕事は増え、仕事を求めて人が増え、人が増えて需要が増え、需要が増えて供給が増える。

 供給を増やそうと思えば仕事が増えるから、村は拡大するためのサイクルに入ったと言っていいだろう。


 そしてついに……。


「くっふっふー! ついについに、この時がやって来たのじゃ!」


 オリガの前には、近隣の村々からやってきた顔役たちが並んでいる。

 そして、州都からの役人モタンギューの姿も。

 彼も出世して、今では州都の辺境地区を束ねる次長職である。


「ではオリガ村長、こちらにサインを」


「うむっ」


 オリガは用意された踏み台に登り、テーブルの上の書類にサインをした。

 そこに描かれているのは、近隣の村々を統合し、スイチー町とする、というもの。

 幼女村長が書類からペンを離すと、その場がわっと沸いた。


「おめでとうございます! これで、オリガ村長は今日から、オリガ町長です!」


「うむー! 村もスイチー町になったのじゃー!! これで人口は二千人だったのじゃ?」


「オリガ様、人口は二千八百三十六人です」


 グシオンに囁かれ、オリガは頷いた。


「ほうほう、では遠からず、市にも昇格してしまいそうなのじゃー!」


「オリガ町長のお力をもってすれば容易いことでしょう!」


 モタンギューが揉み手をする。

 かつて村の顔役だった者たちも、それに倣った。

 彼らは、自分たちがそのまま、スイチー町の有力者としてスライドできると考えているのだ。

 これまでの慣例では、有力者が一定の権力を持ったまま、引退後も政治に関わることは当然だった。今回も同じような事になるだろうと考えていたのだが……。


「では……選別をするのじゃ。お主らの中で、有用な能力やコネクションを持っている者だけを使うのじゃ! 上に立つものは有能でなくてはならないのじゃ。何しろ、そうでなければ下を使いこなせぬのじゃ」


 オリガが魔王的な笑みを浮かべて宣言すると、顔役たちは皆、パニック状態に陥った。


「そ、そんな! 話が違う!」


「横暴だ! 職権乱用だ!」


「オリガ町長、なんでもしますから!」


「だまらっしゃいなのじゃ!! お主ら、自らの力が足りず、まともな政策も打たずに村を過疎化させて行っていた者たちなのじゃ! それがそのまま町の上層部としてスライド? くっはっはっはっはー!! わらわのへそが熱くて渋いお茶を沸かしてしまうのじゃー! グシオン、後は任せるのじゃ」


「はっ。では皆さん、これから簡単な(簡単ではない)筆記と実務のテストを行います。これらで一定上の点数を取れれば、晴れてスイチー町の新たな役職を与えましょう。落ちた場合もご安心を。退職金を支給しますので」


 顔役たちから悲鳴が上がった。

 結論から言うと、全員退職することになった。





「オリガちゃん、おつかれさま!」


 第一秘書に出迎えられ、新任町長オリガはニコニコした。


「うむ! スイチー町のスタートなのじゃ! 人口が増えたら、やれることも増えるのじゃー! ここからは倍々ゲームなのじゃ。人口はどんどん増えるし、仕事もどんどん増えるのじゃ! 来年には市になってるかも知れないのじゃー」


「へえー、すごいねえ」


 明らかによくわかっていない、第一秘書アリア。

 だが、彼女はオリガのことならよく分かっている。

 大仕事を終えた幼女町長には、今一番必要なものがあるのだ。


「はい、オリガちゃん。お仕事が終わる頃を狙って作っておきました! ケーキです!」


「うわー!! 待っていたのじゃー! できたてなのじゃー!!」


 オリガがバンザイした。

 そして、町長室に設けられたテーブルまで走っていき、お子様用の椅子に飛び乗る。


 ケーキは、二人が初めて出会った時に食べた、携帯用の硬いケーキではない。 

 小麦粉、卵、牛乳、それにたっぷりのお砂糖を使った、ふわふわのスポンジケーキ。

 これに、アリアが抱えたボウルから、大盛りの生クリームを乗せた。


「ふおおおー! まるでケーキの上に雪山ができたみたいなのじゃー!!」


「うふふ、オリガちゃんのおかげで、いっぱい材料を使えるようになったんだよ。だから、お疲れ様のきもちをたくさん込めて作りました! こっちはお茶です!」


「うひゃー! いただくのじゃー!」


 オリガはケーキにフォークを突き刺す。

 引っ張ると、柔らかなケーキは容易に千切れた。

 これに生クリームをたっぷりつけて、頬張る。


「んむー!! 甘いのじゃー!!」


 ピカピカ光るオリガ。

 そして、もぐもぐごくりとやってから、目をぱちくりとさせた。


「でもなんだか、懐かしい味がするのじゃ」


「でしょー。実は味見してね。初めてオリガちゃんと会った時の、あのケーキの味にちかづけてみたの。あれをふわっふわに柔らかくしたかんじ!」


「なんとー! アリア、またお菓子作りの腕が上がったのじゃー!! これは、アリアをますます手放せぬ……!」


「きゃっ、オリガちゃんいきなり抱きついたらびっくりするよう! あ、ほっぺにクリームついてるよ」


 一人であらゆる仕事をこなす、スーパー町長オリガ。

 彼女のエネルギー源は、第一秘書が作るとびきりのスイーツなのであった。

 アリアにほっぺのクリームを取ってもらいながら、オリガは思う。


 この素晴らしいスイーツが尽きない限りは、人間の味方をしてやっても良いな、と。






 のじゃロリ魔王による、最強・村おこし計画 ~おわり~

これにて一応の了であります。

オリガが村長から町長になりましたので!

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― 新着の感想 ―
[一言] 完結おめでとうございます。 人が増えたら統治者側も新しく人選をやり直す。 まあ当然ですよね。 そしてこれからもスイーツがある限り発展し続けていくのでしょうねw
[一言] 連載お疲れ様でした。ラノベ風味SF風味の絵本を読んでるようで、読んでてとても楽しかったです。
[一言] はえ~新年早々サプライズ完結お疲れさまでした!
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