雪解けが始まるのじゃ! 3
道の上に残った雪は、ほぼ解けた。
残るのは、積み上げられた道端と田畑にのみ。
いよいよ春がやって来る。
「建材こっち、こっちだー!」
「いやあ、しかし大したもんだ。こんなでかい建物を春までに作っちまうんだろ? 村一つが出せる金額じゃないぜ」
「それがよ、見た目は村だが、砂糖の販売でえらく儲かってるらしい。新しく就任した村長がやり手だそうでな。村長選挙の後から、この村は生まれ変わったみたいになったとさ」
「へえー。上が変わるだけで何もかも変わったりするものなんだなあ」
雑談をしながら作業に勤しむのは、州都からやって来た大工たち。
彼らが作っているのは、村にやって来た人々が宿泊するための大型施設だ。
州都にある名物旅館、『フィット屋』の分館なのだとか。
完成の暁には、支配人から従業員まで多くの労働者が州都から送り込まれることになっている。
食材などなどは、村の物を使う。
村長オリガが提唱した、地産地消計画のためだ。
これによって、村人たちは砂糖大根だけでなく、今まで自分たちのために作っていた野菜を販売用に増産することになっていた。
「金が動いてるねえ……。まるで、村一つをまるまる作り変えようとしてるみたいだぜ」
「実際そうなんだろうよ。見ろよ、村の連中の顔。あんな生き生きとして働いてる。やればやるだけ、金になるんだろうな。あー、俺もこの仕事が終わったら、しばらく村に厄介になってみようかなあ。絶対、大工仕事が次々来るだろ?」
「だよなあ」
「差し入れでーす!」
職人たちに声が掛かった。
下の方に、華やかな一団がやって来ている。
村の女の子たちである。
職人たちは歓声をあげて降りていった。
おやつの時間なのだ。
女の子たちは、第一秘書アリアに率いられた差し入れ部隊である。
甘いお菓子と渋いお茶を用意して、現場を回っている。
村の中央に、差し入れ部隊専用の作業所が設けられ、そこでは常にお茶とお菓子が用意されているのだ。
午前と午後の二回、彼女たちが届けてくれるお菓子とお茶は職人たちの大きな楽しみとなっていた。
「いやあ、この現場、今まで働いてきた中で一番楽しいわ。可愛い女の子の手作りお菓子に熱いお茶を飲めるとか、最高だわ……。……お菓子、手作りだよね? 裏でおっさんが作ってるとか……」
「わたしが作ったんだよ!」
職人の一人に聞かれ、アリアが胸を張って答えた。
うんうんと頷く差し入れ部隊。
このうち数人は村の娘たちだが、残る多くは近隣の村から働きに来た娘たちである。
彼女たちにとって、自分と変わらない年齢ながら村長の第一秘書となったアリアは、憧れの存在なのだ。
そして、この憧れの存在は自ら率先して動き、見事な手付きでお茶を淹れ、美味しそうなお菓子を作る。
少女たちのお茶淹れ、お菓子作り技術はどんどん上がっていっていた。
「そうかあ……! お菓子が何倍も美味しくなるぜ!! うひょお、今日はあんこ付きのお団子か! しかもこれ……もちもちしてる!?」
「他所から仕入れた、米粉というのを使ってみたんです! お団子、こっちも変わった食感でおいしいでしょ」
「美味い!」
職人たちが笑顔になる。
「じゃあ、おやつ休憩が終わったころに容器をもらいにきますね! お仕事がんばってください!」
「がんばってください!」
アリアの言葉に合わせて、少女たちが唱和する。
職人たちが、ほっこりとした笑顔になった。
ちなみに差し入れ部隊が少女たちばかりなのには理由がある。
大人たちは皆、これからたっぷりと必要になる食材を確保するため、畑の拡張や新しい野菜の導入に忙しいのである。
「さあみんな、行くよー! 作業所にもどってお茶とお菓子を補給! それで、次はねえ……」
差し入れ部隊が忙しく動き回っている。
そこへ現れたのは、時の人。
村長オリガである。
どこから見ても、黒髪ロングに巻き角を生やしたドレス姿の幼女。
しかし、今や押しも押されぬ名物村長なのだ。
過疎の村を立て直し、それどころか町へと昇格する勢いで拡大させた、やり手村長の名は国中に知られるようになっている。
小さいながらも、カリスマに満ちた彼女の登場に、差し入れ部隊の少女たちは息を呑んだ。
村長自らがやって来るなんて、これは一体……。
「アリア」
「なあに、オリガちゃん」
「お腹がすいたのじゃ! 今日のおやつをもらいに来たのじゃー!」
その口から、見た目相応の言葉が出てきたので、少女たちは脱力してしまった。
オリガは山程のお団子をもらうと、もぐもぐ食べつつ、「甘いのじゃー!!」と叫んでピカッと光る。
光る原理はよく分からないが、小さな女の子が実に美味しそうにお団子を食べるので、差し入れ部隊はほっこりとした。
「それでアリア、周りの作業の進捗はどうなのじゃ?」
「うん、みんな頑張ってるよ。旅館は予定よりも早くできそう。日にちが短く作れたら追加のお金が出るって分かって、みんな張り切ってるみたい」
「うむうむ! 日給じゃと、どうしても引き伸ばしがちになるのじゃ! それでは春に間に合わないのじゃ。じゃが、急ぎすぎて手抜きをされても困るのじゃ! これからわらわが抜き打ちチェックに行くのじゃー!!」
「おつかれさま、オリガちゃん! 他のお仕事はもう終わったの?」
「もちろんなのじゃ。そして雑務はグシオンに任せてきたのじゃー! わらわはこれから、夕方まで村のあちこちをチェックして回るのじゃ!」
疲れ知らずの村長オリガ。
日々の激務をこなしつつ、精力的に見回りを行い、村人や職人たちに声を掛けて回る。
影では、商人や州都の有力者たちから、鉄の女……ならぬ鉄の幼女と呼ばれ始めている。
「それから、村の境界線を広げるのじゃ! 村を囲む柵をぐっと広げる事が決まったのじゃー! またまた忙しくなるのじゃ!」
「そっかあー。体には気をつけてね、オリガちゃん」
「うむ! アリアのお菓子があれば、わらわは無敵なのじゃー!」
くっはっはー! と笑うオリガ。ニコニコ微笑むアリア。
この二人を見て、差し入れ部隊の少女たちは思った。
(なんか夫婦みたいだなあ)




