目覚めたら五千年後なのじゃ! 3
「はい、オリガちゃんどうぞ」
アリアに淹れてもらった茶を飲むオリガ。
熱い茶をごくごくと飲み干して、
「フツーなのじゃ」
「お砂糖入れる?」
「入れるのじゃ!!」
今度はお砂糖を匙で二杯。
ぐるぐる掻き回してから飲んだ。
「んんーっ! あまーい! この砂糖というやつは凄いのじゃ! わらわ、砂糖が好きなのじゃー! ……じゃが、この砂糖がもうすぐ口にできなくなってしまうのじゃなあ」
「村がなくなっちゃったらね。わたし、そんなのやだなあ」
「わらわにとっても、砂糖が口にできなくなるのは困るのじゃ! せっかく封印から目覚めて、こんな甘いものに出会えたのじゃ! これ、アリア。この村の問題を言ってみよ」
「もんだい? んー。おじいちゃんとかおばあちゃんばっかりになってるとことか? わたしのお父さんも出稼ぎで、ずーっと帰ってこないし……。畑を継ぐ人がいなくて、なくなっちゃう畑もあるんだよ。あと、卵とミルクもあんまとれなくなってきてるって。よくないこと、いっぱいあるよ」
「問題山積みなのじゃ!! んで、だーれもその問題を解決せんのかのう?」
「んー。村長さんは、このまんまでいいって。えっと、村のホコリがけがれるー、よそもの入れるくらいなら、村はこのままほろびるーって」
「なんじゃそれ!」
「うーん、難しくてわかんないよ」
アリアが困った顔をした。
「そうかあ、お主、まだ子供じゃものなあ。幾つなのじゃ?」
「このあいだ、十歳になったよ。えっとね、難しいことは村長さんと地主さんのお仕事なんだよ。あの人たちは読み書きもできるし……」
「読み書きもできんのか。で、地主とやらは村長に何も言わぬのじゃ?」
「村長さんと地主さんはいっしょだもん。ずーっとそうだよ?」
「なんじゃそれ! じゃあ、村の知識とか財産は、全部そやつが握っておるんじゃないか!」
アリアがまた困った顔をする。
話が難しいとよくわからないらしい。
「えっとね、えっとね。村長さんは、いっつも、せんきょって言うので選ばれるんだよ。でも地主さんの他のひとは、りっこーほってのをしないから、いっつも地主さんが村長さんになるんだって」
「ほうほう。それは誰でも立候補できるのじゃ?」
「うん、村に住んでる人ならだれでもできたと思うよ。お父さんが前に言ってた」
「よーし、よく分かったのじゃ! 村を過疎化させてる原因の一つは、この頭の固い地主村長じゃろう!! こやつを蹴落として、わらわが村長になれば良いのじゃ!」
むふーっと鼻息荒く、立ち上がるオリガ。
ついでにお砂糖入りのお茶をぐいっと飲み干した。
「オリガちゃんが村長さんに!? わわわっ、すごーい!! わたしよりちっちゃいのに、村長さんになれちゃうの!?」
「くっふっふ、こう見えてわらわ、五千歳を軽く越えておるのじゃ! その選挙とやらに挑み、見事村長になってくれようぞー!」
決意の雄叫びをあげるオリガなのだった。
「まずは計画を立てようぞ。アリア、紙、紙はあるか?」
「紙? 使わないし、高いから持ってないよ? どうするの?」
「紙がないのじゃ!? じゃあ、何か書くものが欲しいのじゃ! 計画を記すのじゃー!」
アリアは家の中をごそごそ探ると、木の板を持ってきた。
「えっとね、これ。昔、わたしが落書きに使ってたの。これ、書く用の炭ね」
「おお、助かるのじゃ!! よし、まずは……選挙の日程を調べる! 次に、村人の心をつかむ! そして村長になる! くっふっふ、完璧……完璧なのじゃ!」
「ええっ!? す、すごいオリガちゃん! これ、文字? 文字がかけるの!?」
「うむ、五千年前の魔法帝国共通語じゃがな。それでは、さっそく動くぞアリア! わらわを案内するのじゃー!!」
「ええーっ! もうすぐ夕方だよう! 子供は暗くなった外に出たらだめなんだよ?」
「むっ、そうか。わらわもよく考えたら復活したばかりじゃし、今日は大人しく寝るか」
「そうだよー。あ、隣のおじいさんから分けてもらったヌードルがあるから、今日はヌードル鍋にするね」
「なにっ!! アリア、お主お料理までできるのか!? す、すごい……。あの甘いケーキを作ったアリアの料理、期待できるのじゃ」
「うん、がんばる!」
アリアは腕まくりをした。
そして、オリガに尋ねる。
「甘くしとく?」
「もちろんなのじゃー!!」