表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/48

冬がやって来るのじゃ! 3

 ある朝のこと。


「ううー、さむいさむい」


 綿入れをもこもこに着込んだアリアが、村長邸の外に出て日課の掃き掃除をしていた。

 木々にはほとんど枯れ葉も残っておらず、未だに青々としているのは針葉樹だけ。


 秋の頃と比べれば、掃除もずいぶん楽になった。


「今日もすぐ終わりそうだね。どうしようかな。お父さんのお仕事みにいこうかな」


 アリアが思案していると、その手の上にふわりと落ちてくるものがある。


「あっ」


 空を振り仰ぐと、白く曇った頭上から、ふわりふわりと舞い降りてくる。


「雪だ!」


 いよいよ、雪が降り出した。

 本格的な冬の始まりである。


 ディエス州は、ニテンド王国でも北部に位置する州。

 冬ともなれば、見渡す限り一面は雪に覆われる。


 まだ降り始めだし、雪は粉雪。

 サラサラとした雪は地面に落ちれば、すぐに溶けて消える。

 降り積もることはないのだが……。


「オリガちゃん! 冬の準備だよー!」


 アリアは村長邸に飛び込んでいった。

 これまで、村中で冬のための準備をしてきた。

 ここからは、冬に食べるものを確保するための準備になる。


「何をするのじゃ?」


 トコトコとオリガが外に出てきた。

 その背中には大きな籠を背負っており、収穫した野菜などが土付きのままでどっさりと載せられている。


「あのね、えっとー野菜っていって、雪の下の地面の中に、お野菜を埋めておくの」


「なんと!」


「そうするとね、冬になってもお野菜を掘って食べられるんだよ」


「なるほどなのじゃ。人間の知恵なのじゃー」


「あとね、こうやって取っておいたお野菜は、すっごく甘くなるの」


「な、なんとー!!」


 大変びっくりするオリガ。

 甘いと聞いては、この作業に本腰を入れねばなるまい。

 彼女はアリアと二人、せっせと野菜を埋める作業に励むのだった。


 やがて、空から振る雪がその量を増してくる。

 こうなると地面が冷えて、雪も簡単には消えない。

 積もる雪になるのだ。


「おうい、村長ー。ありゃ、越冬野菜作ってただか! 野菜のおすそ分けにと思っただども」


 尋ねてきたのは農夫のヨサークである。


「おおヨサーク! いつもありがとうなのじゃー!」


「なんもなんも。この村だとな、あちこちで育ててる野菜が違うから、越冬野菜もみんな違うだよ。冬さなったら、みんなで野菜を取り替えっこしたりして楽しむだよー」


「ほうほう、冬にもそんな楽しみがあるのじゃー」


「んだー。冬だば、野菜も砂糖大根も育てられねえだからなー。だども、家さ籠もって内職ばっかりしてたら気が滅入るべ。今年からは、新しい村長さんができて、村も風通しが良くなっただからな! 冬だって楽しまねば!」


「うむうむ、その意気なのじゃ! そうか、やはり冬は村が元気を蓄える期間なのじゃ。春になれば本番なのじゃ! この期にじっくり休んで、春の村おこしに備えるのじゃー!」


「んだな!」


「となれば、内職は村おこしに関係したものが良いのじゃ。わらわ、あとでグッズを考えておくのじゃ。村はみんなでこのグッズを作るのじゃ! 内職で物を作って売らなくても、交付金でお金があるのじゃ。冬でもお給料は出すのじゃー!」


「おおー!」


 ということで。

 越冬野菜を昼過ぎまでに埋め終えたオリガは、続いて冬の計画書を作り始めるのだった。

 




「アリアいるー?」


「いるよー」


 オリガが計画書作りに入り、アリアが暇になった頃合い。

 エリスが村長邸にやって来た。


「アリア、醸造所見学にいかない? お父さんの仕事場、ずーっと見てなかったんでしょ」


「うん、そうだけど、ほら、子供はお酒のんだらだめでしょ? だから行ったらだめかなーって」


「ばかねー。見るだけなら大丈夫でしょ!」


「そっか! でも、エリスはなんで見学にいきたいの?」


「それはね、うちのお父さんとお母さんが言ってたんだけど、村の酒飲みがどんどん醸造所に集まってるんだって。昼間から飲んでる人がほとんどいなくなった! って言ってたから」


「へえー!」


 スイチー村にも、酒飲みは多くいる。

 ちびちび酒を飲みながら農作業をする者もいれば、仕事はそこそこ、あとはずーっと酒を飲もうとする者もいる。


 ちゃんと仕事をしない者は、見回りに来たオリガにしばかれ、魔法で完全に酒を抜かれる。

 酩酊状態を愛する酒飲みは、そんな恐ろしいことをされないよう、酒を飲む前に全力で仕事を終えるようになっているのだ。

 だから、夕方にはあちこちで、酒飲みがぐでんぐでんになって転がっていたりする。


 これからの季節、外で酒を飲んで転がっていると死ぬ。

 これはスイチー村の社会問題にもなっていたのである。


「オリガちゃん、見てきていい?」


「良いのじゃ! コゴローの仕事ぶりを見てくるのじゃー!」


「はーい!」


 許可をもらったアリア。

 エリスと連れ立って、醸造所にやって来る。


 そこはまさに異世界だった。

 醸造所の周りには、無数のバラックが立ち並び、酒飲みたちが居並んで酒を飲んでいる。

 それがみんな、妙に真面目くさった顔をしているのがおかしい。


「どうだべ」


「うーん、甘みが足りねえだな」


「ばっか、辛口がいいんでねえか」


「おらは甘いのが好きだからなあ」


「これは香りが飛んじまってるんでは?」


 酒飲みたちが、喧々諤々(けんけんがくがく)と酒の味、香り、旨味、のどごしなどについて意見を戦わせている。

 アリアは、こんなに真剣な酒飲みたちを見るのは初めてだった。


「おお、アリア! 見に来たのかい? 入れ入れ、外は寒いだろう」


 醸造所の扉から、コゴローが顔を出した。


「はーい!」


 アリアとエリスが屋内へ招き入れられる。

 ついでに、酒飲みたちが入ってこようとして、


「お前らはだめだ。作りかけの酒を飲んでしまうだろう! ちゃんとレポートを作って提出したら新しい酒をやる」


 コゴローに叱られて、すごすごとバラックに戻っていった。

 なるほど、これは酒飲みたちを利用して、酒の品質を上げていく試験場なのである。

 多種多様な酒飲みの意見を得て、村の地酒を改良していくのだ。


 酒飲みたちに与えられる報酬は、彼らの意見が反映された酒であった。


「ひえー、お酒臭いったら! よくみんなおとなしくしてるわねえ」


「ねー。それにすっごく真面目な顔してたよ。よっぱらってるのに」


 顔をしかめるエリスと、不思議そうな顔のアリア。

 彼女たちにコゴローが説明をした。


「都会の酒飲みと違って、うちの村の酒飲みは、オリガ村長を選んだ選挙に参加した人たちだろ? 村のことを考えているっていうのが底にあるんだよ。自分の酒好きが、村の名産品のお酒を作る役に立つと思ったら、真剣になるだろう? それに、これからの季節は内職くらいしか働くことがない。暇な時間はこっちに来て、バラックでみんなと一緒に寒さをしのいで酒を飲む。これはこれであいつらの娯楽なんだよ」


「へえー」


「冬は、楽しいことあんまりないもんねえ」


「そういうこと。外で酒を飲んで凍死されるより、こっちで集まって酒を飲んでる方がいいんだよ。さあ、お酒づくりを見ていってくれ。においで酔っ払わないようにね」


「はーい!」


 二人はいいお返事をして、お酒造りを見学し始める。

 そしてその頃、醸造所の外では、酒が切れた酒飲みたちがお替りおくれ、の大合唱をし始めているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ