冬がやって来るのじゃ! 3
ある朝のこと。
「ううー、さむいさむい」
綿入れをもこもこに着込んだアリアが、村長邸の外に出て日課の掃き掃除をしていた。
木々にはほとんど枯れ葉も残っておらず、未だに青々としているのは針葉樹だけ。
秋の頃と比べれば、掃除もずいぶん楽になった。
「今日もすぐ終わりそうだね。どうしようかな。お父さんのお仕事みにいこうかな」
アリアが思案していると、その手の上にふわりと落ちてくるものがある。
「あっ」
空を振り仰ぐと、白く曇った頭上から、ふわりふわりと舞い降りてくる。
「雪だ!」
いよいよ、雪が降り出した。
本格的な冬の始まりである。
ディエス州は、ニテンド王国でも北部に位置する州。
冬ともなれば、見渡す限り一面は雪に覆われる。
まだ降り始めだし、雪は粉雪。
サラサラとした雪は地面に落ちれば、すぐに溶けて消える。
降り積もることはないのだが……。
「オリガちゃん! 冬の準備だよー!」
アリアは村長邸に飛び込んでいった。
これまで、村中で冬のための準備をしてきた。
ここからは、冬に食べるものを確保するための準備になる。
「何をするのじゃ?」
トコトコとオリガが外に出てきた。
その背中には大きな籠を背負っており、収穫した野菜などが土付きのままでどっさりと載せられている。
「あのね、えっとー野菜っていって、雪の下の地面の中に、お野菜を埋めておくの」
「なんと!」
「そうするとね、冬になってもお野菜を掘って食べられるんだよ」
「なるほどなのじゃ。人間の知恵なのじゃー」
「あとね、こうやって取っておいたお野菜は、すっごく甘くなるの」
「な、なんとー!!」
大変びっくりするオリガ。
甘いと聞いては、この作業に本腰を入れねばなるまい。
彼女はアリアと二人、せっせと野菜を埋める作業に励むのだった。
やがて、空から振る雪がその量を増してくる。
こうなると地面が冷えて、雪も簡単には消えない。
積もる雪になるのだ。
「おうい、村長ー。ありゃ、越冬野菜作ってただか! 野菜のおすそ分けにと思っただども」
尋ねてきたのは農夫のヨサークである。
「おおヨサーク! いつもありがとうなのじゃー!」
「なんもなんも。この村だとな、あちこちで育ててる野菜が違うから、越冬野菜もみんな違うだよ。冬さなったら、みんなで野菜を取り替えっこしたりして楽しむだよー」
「ほうほう、冬にもそんな楽しみがあるのじゃー」
「んだー。冬だば、野菜も砂糖大根も育てられねえだからなー。だども、家さ籠もって内職ばっかりしてたら気が滅入るべ。今年からは、新しい村長さんができて、村も風通しが良くなっただからな! 冬だって楽しまねば!」
「うむうむ、その意気なのじゃ! そうか、やはり冬は村が元気を蓄える期間なのじゃ。春になれば本番なのじゃ! この期にじっくり休んで、春の村おこしに備えるのじゃー!」
「んだな!」
「となれば、内職は村おこしに関係したものが良いのじゃ。わらわ、あとでグッズを考えておくのじゃ。村はみんなでこのグッズを作るのじゃ! 内職で物を作って売らなくても、交付金でお金があるのじゃ。冬でもお給料は出すのじゃー!」
「おおー!」
ということで。
越冬野菜を昼過ぎまでに埋め終えたオリガは、続いて冬の計画書を作り始めるのだった。
「アリアいるー?」
「いるよー」
オリガが計画書作りに入り、アリアが暇になった頃合い。
エリスが村長邸にやって来た。
「アリア、醸造所見学にいかない? お父さんの仕事場、ずーっと見てなかったんでしょ」
「うん、そうだけど、ほら、子供はお酒のんだらだめでしょ? だから行ったらだめかなーって」
「ばかねー。見るだけなら大丈夫でしょ!」
「そっか! でも、エリスはなんで見学にいきたいの?」
「それはね、うちのお父さんとお母さんが言ってたんだけど、村の酒飲みがどんどん醸造所に集まってるんだって。昼間から飲んでる人がほとんどいなくなった! って言ってたから」
「へえー!」
スイチー村にも、酒飲みは多くいる。
ちびちび酒を飲みながら農作業をする者もいれば、仕事はそこそこ、あとはずーっと酒を飲もうとする者もいる。
ちゃんと仕事をしない者は、見回りに来たオリガにしばかれ、魔法で完全に酒を抜かれる。
酩酊状態を愛する酒飲みは、そんな恐ろしいことをされないよう、酒を飲む前に全力で仕事を終えるようになっているのだ。
だから、夕方にはあちこちで、酒飲みがぐでんぐでんになって転がっていたりする。
これからの季節、外で酒を飲んで転がっていると死ぬ。
これはスイチー村の社会問題にもなっていたのである。
「オリガちゃん、見てきていい?」
「良いのじゃ! コゴローの仕事ぶりを見てくるのじゃー!」
「はーい!」
許可をもらったアリア。
エリスと連れ立って、醸造所にやって来る。
そこはまさに異世界だった。
醸造所の周りには、無数のバラックが立ち並び、酒飲みたちが居並んで酒を飲んでいる。
それがみんな、妙に真面目くさった顔をしているのがおかしい。
「どうだべ」
「うーん、甘みが足りねえだな」
「ばっか、辛口がいいんでねえか」
「おらは甘いのが好きだからなあ」
「これは香りが飛んじまってるんでは?」
酒飲みたちが、喧々諤々と酒の味、香り、旨味、のどごしなどについて意見を戦わせている。
アリアは、こんなに真剣な酒飲みたちを見るのは初めてだった。
「おお、アリア! 見に来たのかい? 入れ入れ、外は寒いだろう」
醸造所の扉から、コゴローが顔を出した。
「はーい!」
アリアとエリスが屋内へ招き入れられる。
ついでに、酒飲みたちが入ってこようとして、
「お前らはだめだ。作りかけの酒を飲んでしまうだろう! ちゃんとレポートを作って提出したら新しい酒をやる」
コゴローに叱られて、すごすごとバラックに戻っていった。
なるほど、これは酒飲みたちを利用して、酒の品質を上げていく試験場なのである。
多種多様な酒飲みの意見を得て、村の地酒を改良していくのだ。
酒飲みたちに与えられる報酬は、彼らの意見が反映された酒であった。
「ひえー、お酒臭いったら! よくみんなおとなしくしてるわねえ」
「ねー。それにすっごく真面目な顔してたよ。よっぱらってるのに」
顔をしかめるエリスと、不思議そうな顔のアリア。
彼女たちにコゴローが説明をした。
「都会の酒飲みと違って、うちの村の酒飲みは、オリガ村長を選んだ選挙に参加した人たちだろ? 村のことを考えているっていうのが底にあるんだよ。自分の酒好きが、村の名産品のお酒を作る役に立つと思ったら、真剣になるだろう? それに、これからの季節は内職くらいしか働くことがない。暇な時間はこっちに来て、バラックでみんなと一緒に寒さをしのいで酒を飲む。これはこれであいつらの娯楽なんだよ」
「へえー」
「冬は、楽しいことあんまりないもんねえ」
「そういうこと。外で酒を飲んで凍死されるより、こっちで集まって酒を飲んでる方がいいんだよ。さあ、お酒づくりを見ていってくれ。においで酔っ払わないようにね」
「はーい!」
二人はいいお返事をして、お酒造りを見学し始める。
そしてその頃、醸造所の外では、酒が切れた酒飲みたちがお替りおくれ、の大合唱をし始めているのだった。




