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交付金と秋祭りなのじゃ! 3

 祭りが始まった。

 屋台や出店が出るような、都会の祭りとは違う。

 地方の、神を奉じることを目的とした意味での祭りである。


 それでも、長らく村では行われていなかった、娯楽の場なのであった。

 大太鼓が設置された村の広場で、若い衆が笛を吹き鳴らし、小太鼓を叩く。

 あちこちには、木彫りのライヤッチャ像が立てられて、この祭りが誰のためのものなのかを伝えてくる。


「賑やかなのじゃー! だけど、まだ店なんかがないのじゃ。来年には、これを州都から屋台もやって来るような大きな祭りにするのじゃ!」


 祭りに繰り出したオリガは、そう決心するのだった。

 彼女が道を行くと、村人たちが話しかけてくる。


「村長! 今日はおめかししてるだな!」


「オリガ村長、可愛いだよー!」


「くっふっふー! この日のためにあつらえた一張羅なのじゃ!」


 本日のオリガの服装は、真っ黒なドレス。

 袖口や襟元から、真っ白でウェーブがかかった布地が覗いている。

 全身のポイントごとに、真っ赤なリボンがされている。


「やはりわらわの気合の入れ方も分かってしまうようなのじゃー」


「そうだねえ、オリガちゃん本当にかわいいもん」


 無邪気に伝えて、幼女村長の気分をさらに良くするアリア。

 彼女も、特別な服を着ていた。

 オリガほどではないが、凝ったあつらえの活動的な純白のドレスである。


「でもこのお洋服すごいねえ。こんなにひらひらしてるのに、とっても軽くて動きやすいの」


「それはそうなのじゃ。わらわが魔界から取り出した生地を魔力で編んでおるのじゃ。ドレスそのものに守護と強化の魔法がかかっておるのじゃー!」


 実際、このドレスは最高位の魔法の鎧に匹敵する性能を持っているのだが、この場は村の秋祭りである。

 そんな性能は必要無い。

 だがこれらのドレスは、性能はともかくとしてとにかく見た目がいい。


 かくして、二人は村のあちこちを歩き回る。

 途中、赤いドレスを着たエリスも合流して、三人娘で村中を練り歩いた。


 今日ばかりは、勤勉な村人たちも働くのをやめ、祭りを楽しむことになる。

 気が付くと、三人娘の後ろには村人たちが続いている。


「やあ、お三方。今日は一段と華やかですね」


 そこへ現れた、ライヤッチャの司祭。


「おあつらえ向きに、皆さんもおそろいだ。ではここで、一つ、ライヤッチャ様へ祈りを捧げましょう!」


 彼が宣言すると、村人たちがうわーっと沸いた。


「皆、ノリノリなのじゃー!」


「では村長、参りましょう! 皆様、ご唱和ください! そして踊りましょう! ライヤッチャ、ライヤッチャ!!」


「ヨイヨイヨイヨイ!」


 踊り狂う村人たち。

 これはライヤッチャ神に捧げられる、敬虔(けいけん)な祈りなのである。

 ちなみにライヤッチャ神は世界で広く信仰されている神ではあるが、生きている間はあまり加護らしきものをくれない。

 死後に救済して、魂を救う神なのである。


「死後の救済を行う神に、よくぞ皆熱狂できるのじゃー」


「それはですね、村長。ライヤッチャ様の教えは、とにかく分かりやすいんですよ。それに、死んだら一括処理で救済してくれる事がはっきりしています。彼が所有する天国はとにかく広いので」


「詳しいのじゃー」


「司祭ですから」


 二人が傍らで話をしているのは、定例である祈りが終了したからだ。

 あとはフリータイムで祈ることになる。

 これこそが、お祭りの真骨頂である。


 あちこちで、めいめい勝手にライヤッチャ、ライヤッチャ。

 老いも若きも、ヨイヨイヨイヨイ。


 踊りつかれたら適当にその辺で休んで、元気な者は踊る。

 そのうち大太鼓に取り付いた者が出てきて、景気よく叩き始めると、いよいよ祭りに勢いが出てくる。


「みんなー! おはぎだよー!」


「お茶だよー!」


 アリアとエリス、そして村の婦人会の人たちが大量のおはぎとお茶を運んでくる。

 ここでティーブレイクなのである。


「くっふっふー。今回のおはぎはな、なんと、わらわがあんこを作ったのじゃー!! 心して食べるのじゃー!」


「へえー、村長が!」


「そりゃあありがてえだ!」


「寿命が延びちまうだなー」


 わはは、と笑いながら、村人たちはおはぎをほお張る。

 いつも通りの美味しいおはぎだ。

 だが、今回は味以外の何かが違った。


「!?」


「な、なんだべこれは……!?」


「力が……力が満ちてくるだよ……!」


「うおおー! 一晩中だって踊り明かせるだー!!」


 力尽きていたはずの村人たちは次々に立ち上がり、元気だった若者たちはさらに元気に。

 村祭りのボルテージは、歴史上かつて無かったほどに盛り上がった。

 響き渡るライヤッチャライヤッチャ、ヨイヨイヨイヨイ。


「……オリガ村長、これは一体……?」


 司祭は驚いているようだ。

 幼女村長はこれに、笑いながら答えた。


「あんこを作っている間中、わらわは『おいしくなあれ、おいしくなあれ』と念を込めていたのじゃ! わらわのパワーがめちゃめちゃにこもっているのは当然なのじゃー!」


 そう。

 魔王オリガが、思念と魔力を注ぎ込んで本気で作ったあんこなのである。

 これは即ち、伝説の霊薬エリクサーに匹敵する効果を持っていた。

 さらに、身体と精神に200%程度の強化(バフ)がかかる。


 スイチー村は今この瞬間だけ、世界最強の村であった。

 そして、得られた世界最強を、ライヤッチャに祈る踊りのためだけに費やす。


 村祭りはまだ終わらない。


「盛り上がっているようですな」


「おお、グシオンではないか。首尾はどうなのじゃ?」


「もらって参りましたよ、地方交付金。これで勝ったも同然と言えるでしょう」


「でかしたのじゃ! 村はいよいよ大きくなるのじゃー!!」


 村人たちが踊りまくる中、オリガの高笑いが響くのだった。

 ちなみに、オリガがあんこを作ることはこの後、禁止になった。

 お祭りの後、村人たちみんながとんでもない筋肉痛で動けなくなったからである。

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