目覚めたら五千年後なのじゃ! 2
封印の洞窟がぐらぐらと揺れた時、村人たちは慌てふためいた。
何しろ、由来はわからないが恐ろしいものが封じられているという洞窟なのだ。
信心深い村人たちは、手をすり合わせて彼らの神に祈った。
ちなみにこれは、オリガが堅焼きケーキを食べて、あまりの甘さに震えた時の揺れである。
そんなわけで、村人たちの注目は封印の洞窟に集まっていた。
そして突如、洞窟の前に出現する幼女魔王と少女。
「うわあー、いきなり出てきた!」
「なんだ、アリアでねえか」
「おじいちゃん、おばあちゃん、こんにちはー!」
「はい、こんにちは」
さっきまでの揺れを忘れたかのように、和やかなやり取りが交わされた。
「……? おんや、アリア、おめえの隣にいる子は誰だべ?」
「はやー、めんこい(可愛い)子だなやー」
「この子はねえ」
アリアが紹介しようとしたら、彼女の隣りにいた黒髪の幼女がむんっと胸を張った。
「わらわはオリガ! オリガ・トールじゃ! 村人よ、安心するのじゃ。わらわがこの村を立て直すのじゃー!」
よく通る声が、村の隅々まで響き渡った。
これを聞いた村人たち、きょとんとする。
「あれまあ、小さい子が何か言ってるべ」
「よそから来た子だべ。村のことを何も知らんがじゃ」
「子供の言うことだ、気にするなや」
反応が芳しくない。
「むう。わらわ、この村がかそ……つまり過疎じゃな? それになった理由が分かった気がするのじゃ」
「そうなの、オリガちゃん!」
「うむ! この村、よそ者に冷たいじゃろ」
「えっ! ……う、うん」
「見た感じ年寄りしかおらんのじゃが、若い衆は街に出るか、出稼ぎに行ってるじゃろ」
「う、うん」
「そして、村の年寄には正常化バイアスが掛かっておる! わらわの角や翼を見てもなんとも思わぬのがその証拠じゃ! ええい、わらわが長い封印の中、力を失って幼い娘の姿になっているから安心しおって……。この姿でも一国を滅ぼす程度はどうということは」
「オリガちゃんオリガちゃん! 戻ってきて!」
思わず自分の世界に入り込みかけたオリガを、アリアが連れ戻した。
村人たちが解散していく。
何人かのおばあちゃんが、アリアとオリガにおやつのお団子をくれた。
「なんじゃこれは」
「お団子だよ。オリガちゃん食べたことないの?」
「無いのじゃ。どーれ、あむっ」
再び、魔力を金色に輝かせるオリガ。
空に向かって叫んだら、口から金色の光が伸びて、雲を貫いて村中を明るく照らした。
「あまああああああいっ!! オダンゴとやらも甘いのじゃ、アリアー!!」
「でしょー。うちの村のお団子ね、中にあんこを詰めるドクトクのお団子なの」
オリガが光っても、動じないアリア。
嬉々としてお団子の解説をする。
ちなみにおばあちゃんたちは、揃って腰を抜かしていた。
幼女が光り輝いて、あまーいとか言いながら口から金色の光線を吐いたら、誰だって普通驚く。
「そうか、そうか……! おい、お主ら、おばあちゃんたちよ。褒めてつかわすのじゃー! なに、腰が抜けて立てぬ? よし、わらわが回復してやるのじゃ! ついでに足腰を十歳くらい若返らせてやるのじゃ!」
オリガがむにゃむにゃと呪文を唱えると、おばあちゃんたちは目をパチクリさせた。
「あれまあ! あたしの腰があんまり痛くないよ!」
「膝もそんなに痛くないわね!」
急にしゃんとしたおばあちゃんたち、立ち上がって嬉しそうにしている。
「この子が念仏唱えてくれたら良くなったわね」
「よく見たら、角とか羽が生えてるし……。もしかしてこの子、ライヤッチャ様の御使いかね……!」
「そう言えば光ったね……!」
「ひええ、ありがたやありがたや」
「ライヤッチャ、ライヤッチャ、ヨイヨイヨイヨイ……!」
おばあちゃんたち、一斉にオリガを拝み始めた。
「ライヤッチャとは何者じゃ?」
「神様だよー。村ではね、ライヤッチャ様を拝んでるの。でも、おばあちゃんたち、オリガちゃんはライヤッチャ様の使いじゃないよー。ねー」
「そうじゃなー。わらわはわらわじゃ。よし、行くぞアリア! 作戦会議じゃ! 村人をその気にさせねば、村おこしなんぞできぬからな!」
「うん!」
二人は連れ立って、アリアの家へと向かうのだった。