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コンペに出すのじゃ! 4

 コンペのやり方は、二段階だ。

 まずは州の役所に規定の書類を提出しに行く。

 この時、書類は紙であっても羊皮紙であっても、板であっても粘土板であってもいい。


 役所では、提出者が担当役人にプレゼンを行う。

 そこでまず第一審査。


 次に、役人が書類を提出した村にやって来る。

 そして現物を見て、プレゼンとの齟齬などを確認する。

 これが二段階目。


 これらの審査を経て、地方交付金の配布は決定されるのだ。


「ということで! わらわたちが直接赴くのじゃ!!」


「おー!」


 オリガの宣言に、アリアとエリスが拳を突き上げる。

 横でグシオンが、上品に「おー!」と言いながら同じポーズをする。


「アリアちゃん、グシオンさんってすてきよね」


「エリスちゃん、グシオンさんがこのみなの? おうえんしちゃう」


「えっ、えっ、ほんとう!? ど、どうしよっかなー」


「そこ! 女子トークしている暇はないのじゃ! これは村の生き残りをかけた真剣勝負! わらわたちのプレゼンに全てがかかっているのじゃー!!」


 瞳にめらめらと、炎を燃やす幼女魔王。

 かくして、村長一行は州都へと旅立った。 

 普段ならば、馬車を使ってのんびり移動するのだが今回は違う。


「時間を節約するのじゃ。片道一日など使っておれぬのじゃ! 移動魔法なのじゃー!」


 オリガが空に指先を向けて、くるくると回す。

 するとそこに黒い穴が空いた。


「きゃっ、吸い込まれるー!」


 アリアが悲鳴を上げた。 

 穴は一行を吸い込むと、すぐに閉じてしまった。

 そして、州都の門の前に再び開く。


 ぽんぽんっと、一行は吐き出された。


「ついたのじゃ! グシオンの記憶を読み取って、それを頼りに移動したのじゃ!」


 実は魔法的に、大魔法とも呼べるような代物を行使しているのだが、魔法が衰退した時代の人間であるアリアとエリスには分からない。


「オリガちゃん、やっぱりすごいねえ」


「ひょえー、便利! でも、こんなすごいのが使えるならいつも使えばいいんじゃない?」


「それはならぬのじゃ。馬車を使ってお金を得ている者がおるのじゃ。馬だってそのために飼われているのじゃ。わらわが全部かわりにやってしまったら、そういう仕事をしている人や馬はどうなるのじゃ? 路頭に迷うのじゃー」


「あ、そっか! お仕事はなくなっても、人はなくならないもんね!」


 ハッとするエリス。 


「人間はゆっくり進むのがいいのじゃ。急に進んだって何もいいことはないのじゃー。急速に魔法科学を発展させたので、旧人類は星辰の彼方からわらわを呼び込んでしまい、滅ぼされたのじゃ! ゆっくりがいいのじゃ」


 うんうん、とオリガはうなずく、

 少女たちも、半分も話が分からないなりに、オリガの言うことはもっともだなあと納得するのだった。


 突然やって来た幼女村長に、州都の入り口を警備していた兵士たちは困惑する。


「ええ……。スイチー村の村長? 君が?」


「そうなのじゃー! これが証明書なのじゃー!」


「……ほんとだ。オリガ・トール村長って、届け出も出てる……」


「マジかよ……。あの村、幼女が村長やってるのか」


 色々衝撃を受けたらしい兵士たち、それでも、きちんと決まりは守っているということで、オリガたちを通してくれた。

 さらに、一応はスイチー村の代表としてやって来たということで、役場までの案内を出してくれる。


 事前に商人に頼んで、プレゼンに訪れる旨を連絡していたオリガである。

 役場はきちんと、アポイントの時間を空けて待っていた。


「本当に幼女だ」


「角のついた幼女だ……」


 オリガが姿を見せると、役場がざわつく。


「モタンギューさん、本当のこと言ってたんだな」


「金に目がくらんで幻まで見えるようになったわけじゃなかったんだ……」


 オリガはトコトコと、役場の中を横断していく。

 目指すのは、モタンギューと他の役人たちが待つ、会議室である。

 木製のパーテンションで区切られたそこには、既に七名の役人が集まっていた。


 堂々と入場するオリガ。

 やはり、どう見ても幼女の彼女の姿を見て、役人たちがどよめいた。


「幼女だ」


「幼女だ」


「明らかに幼女だ」


「モタンギュー君、これは一体」


「彼女は幼女に見えますが、なかなか大した政治家ですよ」


 一人、モタンギューだけが余裕の笑みを浮かべている。

 オリガは、見た目だけなら祖父ほどの年齢であろう役人たちを、悠然と見回した。


「グシオン、レジュメを配るのじゃ」


「はっ」


 てきぱきとした動作で、幼女が連れてきた秘書が、役人たちに資料を配る。

 何を始める気か。

 役人たちは、幼女村長の挙動を見守った。


「では、これより我がスイチー村のプレゼンを行うのじゃ! お主らの開くコンペの中で、一際印象深くなるであろう我が村を、よく覚えておくがよい!!」


 そして、伝説のプレゼンが始まった。




 そして伝説のプレゼンが終わった。

 脱力状態になる役人たちである。


「なにがあったんだろう」


「とちゅうから、うわーとか、ひえーとか聞こえてきたよね」


 会場には入れず、外でお茶とお菓子をもらって待っていた少女たちは想像をたくましくした。

 そして、きっとオリガ村長が凄い発表をしたから、役人の人たちがびっくりしたのだろうと結論づけた。


 スッキリした顔で、会議室から出てくるオリガ。

 その後ろには、グシオンとモタンギューが続いている。


「そういうわけなのじゃ。視察の方もよろしく頼むのじゃ、モタンギュー」


「ええ、それはもちろん」


 モタンギューが、事情を知らずに見ると、裏のありそうな笑みを浮かべる。


「して、オリガ村長。例の物は……」


「くっふっふ、しっかり覚えておるとは、お主も抜け目がないのじゃ」


「いえいえ、村長こそ」


「くっふっふー」


「ふふふふふ」


 二人は笑いあった。

 そっと、横合いからグシオンが包を差し出す。

 モタンギューはこれを受け取り、そそくさと開いて相好を崩した。


「これこれ……!! これが欲しかったのです」


 そこにあったのは、山吹色に輝く……芋餡のお菓子であった。


「スイチー村でごちそうになってから、部下たちがうるさくてですな。我も我も、甘いお菓子が食べたいと」


「上司も大変なのじゃ」


「まあ、これも根回しというものですな。感謝しますぞ村長。ちなみにこれは、賄賂ではなく個人的な贈り物ということで……」


「もちろんなのじゃ。わらわは村の実力で、交付金を掴み取るつもりなのじゃー!」


 ということで、プレゼンは終わった。

 後は、村への役人たちの来訪を待つばかりなのである。


 その前にひとつだけ。


「ちょっとやっておくことがあるのじゃ」


 オリガがアリアに告げた。


「なあに、オリガちゃん」


「お主の父親の居場所が分かったのじゃ。迎えに行くのじゃー」


「お父さんの?」


 風雲急を告げる……ような、告げないような。

 そのような展開が待っているのだ。

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