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コンペに出すのじゃ! 3

「昔ざとう売れてる! 追加で頼む!」


 いつも村にやってくる商人が、今日は慌てた様子だ。

 荷馬車だって、普段は一台のところを三台も引き連れている。


「ほうほう、売れておるようなのじゃ!」


 オリガが顔を出すと、商人が猛烈な勢いで駆け寄ってくる。


「いたいた! 村長、昔ざとう売れてるよ。値段が普通の砂糖よりちょっと安いせいもあるだろうけど、お客がみんなこの商品を覚えちまうんだな。今まではどこの砂糖がいい、なんて話はなかったが、今は昔ざとうを名指しで来るんだ」


「うむうむ! 人は、商品の名前なぞという味気ないものではなく、物事を物語にして覚えるものなのじゃ! グシオンが作ったキャッチコピーは、まさしく昔ざとうに物語をくっつけて売ることになるのじゃ!」


「いや、参ったよ。で、よその店も商品にそういうのをつけて売り始めているんだけどさ、やっぱり昔ざとうが売れ行きが良くてな」


 オリガと商人が話し込む脇で、村人と、商人の使用人たちが商品を運び出していく。

 パッケージングされた商品を荷台に山盛りにし、崩れないように布で覆って縛る。


「こういうものは、先に市場を開拓した商品が一番有名になるのじゃ! 今も、昔ざとうのキャッチコピーを新たにする試みをしておるのじゃー! それだけでは無いのじゃ? こっちに来るのじゃ」


 オリガが得意げに手招きしてくる。

 この幼女村長が自信たっぷりなのはいつものことなのだが、今日はそれに加えて、人に何かを見せたくてたまらない風である。


「一体なんだっていうんだ?」


 連れて行かれた商人、砂糖工場の前で、度肝を抜かれた。


「ええっ!? ま、真っ白な豪邸!? なんでこんなものがスイチー村に!! それで屋根に書かれたでっかいお花は!?」


「くっはっはー! あれこそ、スイチー村の村おこし計画第二弾なのじゃ! 体験を売る、見学できるお砂糖工場なのじゃー!! 自分でお砂糖を作る体験もできるのじゃ! 作ったお砂糖は専用の袋に詰めて持ち帰れるのじゃー!!」


「自分で砂糖を作る……!?」


 商人が目を見開く。


「そ……そんなことができるのか!?」


「できるのじゃ! 村人が指導員になってやり方を教えるのじゃー」


「だが、そんなことをしたら、みんな勝手に砂糖を作って売れなくなるんじゃないか?」


「砂糖大根は広い土地が無ければ作れないのじゃ! 育てるにも、専門知識と決まった手順があるのじゃ! 州都では無理なのじゃ」


「スイチー村のマネをして砂糖を作る村が出るかも……」


「砂糖を精製して商品にするには、こういう工場が必要なのじゃ! 後から砂糖大根を育てて工場を作ってなんていう、時間もお金もたくさん掛かることはすぐにはできないのじゃ。できたころには、スイチー村は新しいことをしているのじゃー!」


「万全ってわけか。さすが村長だぜ。……で、この砂糖づくり体験というのも、商品に物語をくっつけることに繋がってるんだな?」


「その通りじゃ! お主、飲み込みが早いのじゃー!」


「そりゃあ長年、行商人で食ってるからな!」


 くっふっふ、わっはっは、と笑い合うオリガ村長と商人なのだった。


「しかし、あの屋根のお花がいいな。真っ白な豪邸じゃ、俺みたいな庶民はちょっと気後れしちまう。だが、あのお花で全体の感じが柔らかくなって、親しみやすくなってるな」


「ほう、そうなのじゃ!? アリアに後で教えてやるのじゃ!」


 オリガは意外そうに目を丸くして、次には微笑んだ。 

 その後、商人は実際に、砂糖づくり体験をした。

 自分が普段食べている砂糖が、いかなる手順で生み出されたものなのかを知り、感心する商人。


「最後は自分で作るのを手伝った砂糖で、お菓子を作ってくれるわけか! こりゃあすげえ……!」


 おはぎを食べながら、商人は感激した。


「こいつは売れるぞ村長! 商品じゃない。この体験ってのを売ることができるぞ! 普段なら、どうすりゃいいのか頭を抱えちまうが、あんたらにはキャッチコピーがあるからな」


「うむ! またイカスのを考えておくのじゃ! じゃが、まずはこの工場でのお砂糖づくりを、州都の交付金コンペに出さなければなのじゃ!」


「おお、あれを狙ってるのか! 審査が相当厳しくて、コンペで受かる村や町がない年もあるって言うからな。だが……こいつは行けるかも知れないな!」


「くっふっふ、期待して待っているのじゃ! 砂糖づくり体験に、さらに箔をつけて売り出してやるのじゃー!!」


「期待してるぞ村長! あんたならやってくれる……! 何か俺に手伝えることがあれば何でも言ってくれ!」


「お! そうなのじゃ? ではな、お主、この道をもっと行き来しやすいようにするために、道を整備する職人を集めて欲しいのじゃ……」


「ふんふん、なるほどなるほど……」


 ここからは商談。

 意気揚々と商人は帰っていき、オリガも満足そうに、むふーっと鼻息を吹き出すのだった。


「オリガちゃん、嬉しそうだねえ」


 お茶を差し入れるアリア。

 これに、幼女村長は頷いた。


「着々と村おこしの階段を上っているのじゃ! コンペを通る前提で、次々と策を打っておる! あとは、本番を待つばかりなのじゃー!」


「だいじょうぶかな。だいじょうぶだよね!」


「もちろんなのじゃ!! 審査員どもめ、一泡吹かせてくれるのじゃ! くっふっふっふっふ! くっはっはっはっはー!」


 高らかに、幼女魔王の笑い声が響き渡るのだった。


 ところで、オリガは一つだけ、商売とは関係ない依頼を商人にしていた。

 それはアリアの父親探しである。

 州都中に通告した、村おこしの宣言。


 州都にいる限り、これを知らないはずはない。

 だが、アリアの父は戻ってこなかった。


「骨になっていても構わぬのじゃ。持ってこよ!」


 もはや死んだこと前提で、アンデッドとして復活させる気満々のオリガなのであった。

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