コンペに出すのじゃ! 2
「オリガちゃん、お砂糖工場をパワーアップさせるんだね」
「そうなのじゃ! でも、見た目と中身を綺麗にするだけでいいのじゃー。どうせ貴族や役人たちは、お砂糖づくりの細かい工程など知らんのじゃ。それっぽい職人が丁寧に作ってる風をアピールすればいいのじゃ」
「ええ!? だって、お砂糖はおじいちゃんやおばあちゃんがみんなで作ってるのに」
「実際の作業場に観光客が来たら迷惑なのじゃ。見せる用の作業と、本当の工場は隔てておくのじゃ! コンペに出すのは、見せる用なのじゃ!」
「なるほど、限られた範囲ならば、観光用に綺麗に装う事が可能ですな。お砂糖工場見学をパッケージングして、それ自体を体験する商品として売り出すので?」
「そういうことなのじゃ!」
「ほえー」
アリアが感心した。
オリガやグシオンが難しい言葉を使って会話するのだが、それに毎日付き合っていたアリアも、それぞれの単語がどういう意味なのかを少しずつ理解し始めているのだ。
「そうと決まれば、工事なのじゃ! グシオン、資金はどうなのじゃー!」
「昔ざとうの売れ行きのおかげで、職人を雇うだけのお金は手に入っています」
「よしっ、投入なのじゃ! 村のお給料は、しばらく地主の財産を使って持たせられるのじゃ。その間に、地方交付金をもらって村の観光を産業化するのじゃー!!」
「時間との勝負と言うわけですな。かしこまりました! お任せ下さいオリガ様! ……時に、悪魔の力を多少は使っても?」
「お主の力はわらわほどヤバくないのじゃ。存分に使うのじゃー!」
「ははーっ!」
グシオンは華麗に一礼すると、背中に翼を生み出して空へと飛び立った。
これから超高速で州都に向かい、職人を雇うのである。
コンペまでは、そう日にちもない。
それに、地主から取り上げた財産も有限である。
村人たちを安心して食べさせて行くためには、この事業を軌道に乗せる必要があるのだった。
「設計図を作るのじゃ!」
「おー!」
「任せるだよー!」
わーっと盛り上がる村人たち。
ここは、村の広場である。
コンペに出すお砂糖工場を、どういう見た目にするのか。
村人たちを集め、アイディアを求めているのだった。
「若い者たちは、州都で今風の建物をたくさん見てるのじゃ。その経験と、若い感性を合わせて新しいお砂糖工場をデザインするのじゃー!」
「なるほど、おらたちにしかできねえ仕事だべ」
うんうん、と頷くのはタゴサック。
彼は宿舎と作業現場の往復ばかりの生活だったが、時折目にする、州都の最新式の建物は気になっていたのだ。
「お兄ちゃんはあんまり覚えてないでしょ。はーい! わたし、州都では年のせいで仕事ができなかったので、地元の子たちといろいろ見て回ってました! くわしいです!」
エリスの宣言に、おおーっとどよめく村人たち。
州都の建物に詳しい。
これは、年齢関係なく、村人の尊敬を集める能力だった。
「エリス、なかなかやるのじゃー! さすが広報官なのじゃ!」
「エリスちゃんすごーい!」
「えへへ。最近はすっかり、州都でも昔ざとうのキャンペーンガールって思われてます! 今度、アリアちゃんもいっしょにやろう!」
「やろうやろう!」
「えっ、それだとわらわの秘書がいなくなるのじゃ!?」
「オリガ村長さんもやればいいよー」
「その手があったのじゃ……!!」
話がおかしな方向に転がってきた。
「三人とも、話題がずれています。修正、修正」
ライヤッチャの司祭からツッコミが入った。
今この場にいる人間で、気を抜くとすぐ雑談になってしまう会合をまとめられるのは、この司祭だけであった。
自然と、彼がオリガを補佐する司会役になっていく。
「えー、では皆さん。お渡しした石の板に白墨で絵を書いて下さい。これをオリガ村長が判定します。光るものがあった絵を採用するそうですが、部分部分でよいところがあれば、それも採用していくそうです。私たちの力で、村をもり立てて行きましょう!」
「おーっ!!」
村人たちが沸いた。
絵心のあるものから無いものまで、白墨を手にして好き勝手に書き始める。
オリガは彼らの中を、ふんふん、と感心しながら見て回るのだ。
意外なことに、アリアの絵がかなり上手い。
アイディアそのものはお花畑で、お砂糖工場の上に巨大なお花を載せたりしているのだが、とにかく上手い。
「アリア、お主、上手いのじゃ……!」
「えへへ、一人だった時、遊ぶのにお絵かきばっかりしてたから」
技術は我流なのであろうが、明らかにキラリと光るものがある。
「そう言えば、お父さん帰ってこないなあ」
「そうか、アリアの父も州都におったのじゃ。どうしたのじゃー? 今度探しておくのじゃ!」
「うん!」
もしかすると州都で死んでいるかも知れないが、それはそれで自分が復活させるからいいや、などと考えるオリガである。
ちなみに時間を経て復活したものは、アンデッドになる。
魔王的には、人もアンデッドもそう大差が無いと考えるのだ。
一時間ほどすると、村人たちの絵が集まってきた。
上手さではダントツでアリア。
だが、彼女の絵は「わたしの考えた一番すてきなお砂糖工場」過ぎて、現代の建築技術では再現が不可能である。
「エリスのアイディアを骨子にするのが良さそうなのじゃ! お洒落なのじゃー」
「えへへ、どうもです! 真っ白な壁のお屋敷があって、素敵だなって思ってたんです」
「精製したお砂糖の色も白くなるのじゃ。白、いいのじゃー!」
その他、村人たちの絵から、光る部分を見つけ出し、これを記録していくオリガ。
ほどなくしてお砂糖工場の設計図はできあがった。
オリガの指示を受けて、アリアが書き上げるのである。
完成した図面を見て、村人たちはどよめいた。
思った以上に、都会的でかっこいいお砂糖工場の姿がそこにはあったのだ。
まさか自分たちの頭から、これが出てきたとは……!
「わらわは魔王ゆえ、魔界的な建造物には造詣が深いのじゃ。じゃが、それは人間の世界とは好みが違うのじゃ! 人間のアイディアを使うから、人間好みの建物になるのじゃー!」
オリガが得意げに演説する。
村人たちは彼女の言葉に釘付けだ。
だから、誰も気付かなかった。
アリアがこっそり、完成した設計図の屋根に大きなお花を書き込んだことに。




