役人との交渉なのじゃ! 2
席……という名のゴザに座ったモタンギューだが、服の裾が床についていないかどうかが気になって仕方ない。
連れてきた、彼の従者や護衛たちも、それぞれゴザに座って居心地悪そうにしている。
そこへ、まだ成人していないであろう、茶色い髪の少女が現れた。
少女らしからぬ、ビシッとした正装をしている。
「こんにちは! えっと、数は……いち、にい、さん……」
モタンギューたちを指差して数えていく。
「五人だね。オリガちゃんとグシオンさん、わたしで八人! じゃあ、お茶をいれてくるね!」
「頼むのじゃー!」
「あ! あと、お茶うけはどうしますか?」
モタンギューはここで、少女が自分に話しかけているのだと気付いた。
「お……お茶請け? どういう種類があるのだ!」
「おはぎとケーキです」
「おはぎとケーキ!!」
あまりのギャップに頭がクラクラした。
「わらわはどっちも!」
「私はケーキをいただきましょう」
オリガとグシオンは、躊躇なくお茶請けを決める。
モタンギューの後ろでは、彼の部下たちがひそひそと相談を始めた。
とりあえず、おはぎとケーキを二個ずつ頼み、シェアすることにしたようである。
「わっ、私もどっちもだ!」
モタンギューは慌てて答えた。
優柔不断だなどと侮られでもしたら大変だ。
「はぁい」
少女は笑顔で答えて、奥に引っ込んでいった。
「……村長」
「なんなのじゃ」
「あれはあなたの小間使いですか?」
「わらわの第一秘書じゃ」
「第一秘書!!」
モタンギューの頭がまたクラクラした。
オリガの横にいるグシオンは一体何なのだ!? こちらが秘書では無いのか?
「私は第二秘書です。アリアさんの方が先輩なのですよ」
グシオンの説明を受けて、もう倒れるかと思った。
モタンギューの常識外の話ばかりされる。
「ごほんっ」
気を取り直すため、咳払いをするモタンギュー。
村にやってきてから、ずっと会話の主導権を握られっぱなしだ。
これではいかんと、歴戦の腐敗役人は思ったのである。
「では早速本題に入ろうと思うのだが……オリガ村長。こちらへの届け出が遅れているようですね」
「うむ! 村おこしで人手が出払っておったし、わらわが陣頭指揮を取っておったからの! 人手を割いてそちらに書類を届ける暇がなかったのじゃ! 許すのじゃ! この間商人が来たから書類は渡しておいたのじゃー!」
「商人任せ!! そ、そんな大事な書類を自分で届けようとは思わなかったのですか!」
「うむ! それよりもわらわが村で、村おこしに精を出す方が今は大事なのじゃ! 形式的な書類仕事など、一番効率的な方法で体裁を整えてやっつけておけばいいのじゃー!」
モタンギューはひっくり返るかと思った。
なんと身も蓋もない事を言うのだ。
その形式的な仕事をする上で、やったのやらないの、形式はどうだのと、マウントを取り合うのが彼ら役人の常であったからだ。
それをこうも身も蓋もなく言われてはたまらない。
「で、ですがね。これには長い伝統があるので、きちんと形式を守ってもらわねば……」
言外に、村長が直々に届けに来て、役人たちに挨拶回りをせよ。
そして担当役人に賄賂を渡せと、モタンギューはほのめかした。
それに対して、オリガはきょとんとした顔をした。
「それはおかしいのじゃ。わらわはきちんと形式通りにやっておるのじゃ! のうグシオン」
「はい。町村運営法によれば、村長就任の書類は一年以内の期日までに、役所に届けること、とあります。規定の封蝋がしてあればよく、他に条件はありません」
第二秘書グシオンが、すらすらと、今や形骸化している……だが、形式を重んじる役人だからこそ無視できない、町村運営法なる法律を諳んじてみせる。
モタンギューの額から、どっと汗が吹き出した。
目の前のこの二人を、自分が見誤っていたことに気付いたのである。
この者たちは、ぽっと出の幼女村長と美形秘書ではなかった。
何者にも侵されざる国の法を熟知し、その形式通りにかっちりと作業を進め、明記がない部分に関して自由に解釈して執務を行う……。
今までの村長とは、格が違う相手だったのだ。
「それで、書類は届いたのじゃ? 信頼できる商人を使ったのじゃ。届いていると思うのじゃー」
「はあ、届いてます」
モタンギューの後ろで、書類を担当する部下が答えた。
モタンギューは内心で、「このおバカー!!」と叫ぶ。
今、腐敗役人は交渉のカードを一枚失った。
ちなみにモタンギューも部下も、一瞬前、グシオンの目が怪しく輝いたことには気付いていなかった。
少しだけ、交渉相手を友好的にするグシオンの魔力なのである。
おかげで部下は、素直に答えてしまったというわけだ。
「ならばよかったのじゃ! この話は、ここで終わりなのじゃ」
オリガが、純真無垢そうな笑顔で宣言する。
これには、モタンギューの部下たちはぽーっとなり、一発でハートをやられてしまった。
可愛い子供の笑顔には、みんな弱いものなのである。
(恐ろしい……! なんて恐ろしい相手だ……! 私がこれまで担当してきた村長たちの中で、一番の手練だぞ、この幼女……!!)
モタンギューは笑えない。
気を抜けば、今回の会合は終始、オリガ村長に主導権を握られて終わってしまう。
それでは、賄賂にありつけないではないか。
「で、では、次の話題に……」
「待つのじゃ」
モタンギューが切り出した話題を、オリガが制した。
「なっ、何を」
「お茶にするのじゃ!」
そうオリガが宣言すると、グシオンが音もなく立ち上がった。
彼は奥に向かい、アリアと二人で人数分のお茶とお茶請けを運んでくる。
「お待たせしましたー!」
彼らの前に小さな布が敷かれ、その上にお茶とお茶請けが用意される。
お茶は淹れたてでとても渋い。
そして、お茶の渋味を存分に活かせるよう、とてもとても甘いお茶請けのお菓子がそこにはあった。
お砂糖の名産地、スイチー村の本領発揮である。
このティーブレイクもまた、村からのアピールである。
村長オリガの攻勢は続く。




