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村の産業は何なのじゃ? 4

「オリガ村長、昔ざとうが売れるかどうかも分かんねえのに、袋を作っちまっていいのかい?」


「構わぬのじゃ! むしろ、売れたのが分かってから作っていては間に合わないのじゃ! 増産するのじゃー!」


「へ、へい!」


 多くの村人たちを動員して、昔ざとうのパッケージを作る砂糖工場である。

 今は、工場の前に作業用の大きなバラックを作って、そこに出戻りの村人たちが詰めかけている。

 みんなで、藁を編む要領で昔ざとうの袋を作っているのだ。

 これに、薄く削った木の皮に昔ざとうのイラストを書いたものを縫い付ける。


 絵を描く担当は、出戻りではない。

 州都から、希望を抱いて新天地にやって来た青年だ。

 ウェーブがかった髪と、高い鼻で、自分が彩色したポンチョを纏っている。

 自称芸術家、ネスコ。


「どうなのじゃネスコ! 仕事の進み具合は!」


「これはこれはオリガ村長! もっちろん! 芸術家たる僕にとって、この仕事はとてもエキサイティングで退屈しないよ!」


「同じ絵をたくさん描くのは大丈夫なのじゃ?」


「ふっふっふ、これを見てよ村長。版画の技術を応用して、木の塊に彫り込んだ絵にインクを塗りつけて、こうして押すのさ!」


「まんま版画なのじゃ」


「似ているかも知れないけどね! 薄い板の形とハンコの形を合わせているから、誰でも正確に押せるのさ!」


「ほう! お主が作ったのじゃ? 器用なのじゃー」


「芸術家たるもの、手先が器用じゃないとね! たくさん同じ形のを作ったから、これで大量生産できるよ! 効率化もバッチリさ!」


「お主、多分進む道を間違ったのじゃー。芸術家よりも工業関係向きなのじゃ」


「僕は芸術家だよ!?」


 ということで、順調に仕事が進んでいく。

 もともと、農閑期には藁を編み込み、帽子や夏用の履物と言った道具を作っていた村人たちである。

 袋に関しても、すぐに要領を覚え、作業速度がアップしていた。


 数日が過ぎ、かなりの量の袋が完成した頃合い。

 商人たちを引き連れ、グシオンが意気揚々と帰還した。


「お帰りなのじゃー!」


「お帰り、グシオンさん!」


 迎える、オリガとアリア。

 グシオンを初めて見るエリスは、緊張した面持ちでぺこりと会釈した。


「只今戻りました、オリガ村長。アリアさん。そして、新顔ですね」


「エリスです! えっと、広報官っていうのをさせてもらってます! 今はまだ、読み書きの練習ばっかりですけど」


「なるほど、活躍を期待していますよ」


 グシオンが微笑みながらエリスの肩を叩く。

 エリスは、ちょっとぽーっとなった。


「なんでエリスはぽーっとしておるのじゃ?」


「オリガちゃんは分かんないかも知れないけど、実はグシオンさんってイケメンだからね」


「そうなのじゃ?」


 ひそひそ話をする、村長と第一秘書。

 第二秘書はエリスとの会話を終えると、二人に向き直った。


「昔ざとうの評判について報告をしてもよろしいですかな?」


「構わぬのじゃ!」


「では……。昔ざとうですが、予想通りの大ヒットです……! すぐさま、用意した分は売り切りました。キャッチコピーを、現地で雇った芸人に読み上げさせたのが聞いたようです」


「ほうほう! やるものなのじゃ!」


「でも、なんでグシオンさんの文を読んだだけで売れるのかな?」


 首をかしげるアリア。


「アリアさん。人間は、どうということのない物からも、ドラマを感じ取る生き物なのですよ」


「どらま?」


「例えばアリアさんが、雨上がりの日に、この柵の上でカタツムリを見たとします。柵の上にはなぜか木の枝が乗っていて、カタツムリは枝をよじ登るところでした。これを見てどう感じますか?」


「えっと……カタツムリがついたまま、枝をだれかがここに持ってきたのかなって。カタツムリはそれに気付かなくて、枝の葉っぱを食べるのにむちゅうなんだなー、おなかすいてるんだなーって」


「そう、それです。今、アリアさんは誰に言われることもなく、カタツムリがここにやって来たという物語を作ったわけです。それと同じことが誰の頭の中でも起きる。ただ単純に昔ざとうと言って売るよりも、どうしてこれが昔ざとうなのか。どういう物語を持ったお菓子なのかが分かると……売れるのです。人間は、その食べ物ばかりではなく、それに付随する物語も一緒に食べているのですよ」


「物語を食べる!」


 そこで、グシオンを連れて行った商人が会話に加わった。


「いやあ、グシオンさんには助けられたよ! ディエスには性悪の役人がいてね、たまに賄賂を要求してきたりするし、断ると嫌がらせをしてくるんだけど……グシオンさんが相手をしたら、そいつがコロッと物分りのいいやつに変わってさ。おかげで賄賂も払う必要なく、昔ざとうは完売で、オマケで俺が持っていった商品も売れて、大儲けさ! あの昔ざとう、まだあるの?」


「もちろん! 今度はパッケージも用意してあるのじゃ!」


 胸を張るオリガに、グシオンは手を叩いて称賛した。


「さすがは我が主。あらかじめ、新たな商品を用意していて下さるとは」


「くっふっふ、わらわはグシオンを信じておったのじゃ!」


「オリガ様……!」


「あっ、グシオンさんがちょっと泣きそう!」


「アリアちゃん、そこはそっとしておいてあげようよ!」


 ということで、用意した昔ざとうはパッケージごと、全て商人に買い取られて行った。

 今回は、広報官としての仕事をなすべく、エリスが商人と同行する。


「じゃあ行ってきまーす!」


「えっ、俺はエリスのおまけなんだべか!?」


 少し不満げなタゴサックも一緒である。


「タゴサックくんは、エリスちゃんの護衛! エリスちゃん、初仕事がんばってね! 村のこととか、お砂糖のことをよく知ってるエリスちゃんなら、昔ざとうも上手にせんでんできると思うの!」


「うん、がんばる!」


 第一秘書と広報官は、堅く両手を握りあい、成功を誓う。


「キャッチコピーの読みを徹底的に覚えて、読み上げを鍛えたのじゃ! 期待しているのじゃー!」


 二人の間にオリガが入ってきて、下から手を重ねてくる。


「うん、オリガ村長、わたしがんばるね!」


「その意気なのじゃ!」


 かくして、昔ざとうの第二陣が旅立つ。

 地主から取り上げたお金が減るばかりだった村に、初めて大きな収入がもたらされ、村長はホッと一息。


「さて、次なる仕事なのじゃ」


「こんどは何があるの、オリガちゃん?」


「物事は上手くばかりは行くまい、なのじゃ! 何事も、成功を妬んだり、上手く行っているところから甘い汁を吸おうとする輩が出るものなのじゃ! そろそろ、そういう輩も出てくるのじゃー!」


 オリガの宣言と同じくらいの頃合い。

 村を目指してやって来る一団がいた。

 それは、州都から来る役人たちである。


「村長が変わったと聞いたが、果たしてどんな人物なのか……。こちらと村との蜜月関係は、保って欲しいものだなあ」


 腐れ役人の臭いがぷんぷんするのであった。

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