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村長オリガ誕生なのじゃ! 2

 投票のやり方は、外からは見えない覆いがされた部屋に入り、オリガなら赤い石を、村長ならば白い石を投票箱に入れる。

 あらかじめ、二つの石は村人に配られており、このやり方ならば読み書きができない村人にも、投票が可能なのだ。


「司祭殿よ。村で読み書きできぬものが多すぎなのじゃ?」


「ええ、私がこれまで巡ってきた村々では、村に寺子屋というものがあり、引退した騎士などが読み書きを教えていたものですが、ここでは地主が、そういうものを受け入れないようにしているようです」


 司祭の眼差しは厳しい。


「私は、(まつりごと)と神の教えは分離すべきとする主義です。だから、この村のやり方に文句はつけない。ですが、ライヤッチャを信じてくださっている方々が、来世ばかりではなく現世でも幸福であれば、これに優る喜びはありません」


「で、あろうの! それが当然なのじゃ!」


 オリガは我が意を得たりと笑みを浮かべる。

 司祭は喉元まで出かかった、(ただ私としては、あなたは村人を幸福にするでしょうが存在そのものを信頼することはできません)と言う言葉を飲み込む。

 明らかに、年齢相応と思えぬ物言いの幼女。

 今も、村長ですら知らなかった選挙法について言及してみせた。


(スイチー村により身近な悪がいるからこそ、彼女は村人たちに受け入れられています。ですが、わずか一週間で彼らを取り込んだ選挙戦術。そして相手の隙を許さぬ言論……。この幼女は危険かも知れません)


 毒を以って毒を制するのか。

 制するのに使われた毒は、猛毒ではないのか。

 神ならぬ司祭には、答えは出せないのだった。


「オリガちゃん、司祭さまおつかれさま! はい、これ! お弁当でおはぎ作ってきたよー」


 アリアがおはぎを差し出してくる。

 投票期間中は、選挙法の決まりとして一般村民から差し入れを受けるわけにはいかないのだ。

 そのため、身内であるアリアの料理が生命線となる。


「うほー! 甘いお弁当なのじゃー!! いただくのじゃー!!」


 オリガが歓声をあげる。

 横では、グシオンが無言で渋いお茶を淹れていた。

 甘いおはぎに渋いお茶。

 至福の一時といわざるを得ない。

 適当な木箱に腰掛け、ニコニコしながらおはぎを頬張るオリガを見て、司祭は(やっぱりただの幼女かな?)と思い直しそうになったのだった。


「オリガ候補は、不安はないのですか?」


「んお?」


 口の周りをアンコだらけにして、オリガが司祭に振り向いた。


「現職村長は青ざめて、あのように緊張した面持ちでいる。ですが、あなたはまるで、勝利を確信しているかのようだ」


「ああ、それは当然なのじゃ」


 幼女は笑う。


「選挙のお作法を知らぬ、惰眠を貪っていた若造は、よりによって上から恐怖を与えて人心を動かそうとしたのじゃ。わらわはそれを、下から受けとめ、希望を与えたのじゃ。わらわ、五千年前にもこのやり方で、一国を落としておるのじゃ。恐怖や力だけではない、優しさでも人はかしずくようになるのじゃ」


(やっぱりただの幼女じゃない)


 司祭は思い直した。

 そうこうしている内に、投票が終わったようだ。

 幕が掛かっている投票箱には、誰も忍び込める隙間などない。

 故に、この選挙は公平に行われているはずだ。


 司祭は幕の中に入っていくと、ずっしりと重い投票箱を持ち出してきた。

 ライヤッチャ教の司祭たる者、常に踊るため、体は鍛え上げられている。

 多少の重量物などなんのそのだ。


「では、開票を始めます」


 オリガ陣営が、村長が、村人たちが見守る中、司祭は箱を開く。

 そして、驚きに息を呑んだ。

 まさか……まさかこれほどまでに、圧倒的だとは。


 取り出され、数えられていく赤と白の石。

 開票が進むたびに、村長の顔色が真っ青を通り越し、真っ白になっていった。


「なんだ……なんだその数は……」


 村長の口から漏れるのは、積み上げられていく石の色に対してではなかった。

 取り出しても取り出してもなくならない、その石の数に対してだ。

 彼が経験した選挙では、ただの一度も、これほどの数の石が投じられたことはなかった。


「厳正なる開票の結果……」


 司祭が厳かに告げる。

 彼も、内心の動揺を抑えきれない。

 それを必死に、表に出すまいとする。


「ばかな……全員が投票したというのか……! それが、それがみんな、一色に……」


 村長の……いや、()村長の唇がわなわなと震えた。


「スイチー村新村長……オリガ! オリガ・トール!!」


 その名が告げられた。

 新たな時代の幕開けを告げる、スイチー村の新村長の名が。

 村人たちから、大歓声が上がった。

 積み上げられた石の色は、136個中、130個が赤。

 白の6個は、元村長陣営の頭数と同じである。


「やったね、オリガちゃん!!」


 アリアはオリガに飛びつくと、彼女を抱きしめてくるくる回った。


「わわーっ、落ち着くのじゃアリアー! 目がまわるのじゃー!」


「やりましたね、オリガ様」


 今日ばかりは、グシオンも主の名を口にして称える。


「ばかな……。ばかな、ばかな……! わしが、わしが村長でなくなるだと……!?」


 元村長は膝をつき、絶望を口にした。


「なぜだ! 一体なにが起こったというのだ、小娘!! 一体お前は、何をしたんだー!!」


 オリガが笑って応じる。


「くっふっふ。選挙なのじゃ。元・村長よ。わらわは、きちんと選挙活動をやったに過ぎないのじゃ? お主はどうか? 貴重な、宝とも言える票田をあたら乱雑に取り扱いはしなかったのじゃ?」


 アリアから開放されたオリガは、くるくる回されてまだふらふらする足で、地面を踏みしめた。


「さあ、村長初仕事なのじゃ! まずは村長の仕事場をいただくのじゃー! 元村長、即刻あの家を退去するのじゃー!!」


 選挙は終わった。

 ここから始まるのは、最強の魔王にしてスイチー村の新村長、オリガによる、聖域なき村改革なのだ……!



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