仁義なき村長選挙なのじゃ! 6
「襲撃は失敗みたいですね」
「空に牛が浮かんでたとか……」
「あの幼女、何者なんだ」
村長の家では、若い衆が集まって話をしている。
酒の肴に、村では何があったとか、俺が何をしたとかそういう話をするのだが、今日の彼らの顔は浮かない。
村長命令で行った妨害が、失敗してしまったからだ。
奥の間では、村長が苛立ちを隠す様子もなく、一杯飲んでは怒鳴り散らし、物に当たっている。
「なんだ! なんなんだあのガキは!! おかしなことをしおって!! あんな奴に、わしの村をやるわけにはいかん! この山も川も、畑も牛も馬も、何もかも全部わしのものなんだ!! 祖父の祖父の時代から、ずーっとそうだったのだ!!」
村長が叫ぶ。
こうも怒りに任せた酒では、味が分かろうはずもない。
近くの街から呼び寄せた、お酌担当の女性も怯えている。
若い衆も、村長の癇癪が怖くて話しかけられずにいた。
大変空気が悪い。
そんな時である。
扉をノックする音が聞こえる。
もう、いい時間である。
外は暗く、明かりを持たねば歩き回ることなどできはしない。
「なんだ、こんな時間に」
ノックの音は、妙に響く。
家の奥で怒鳴り散らしていた村長にも聞こえるほどだ。
「おい、見てこい」
村長は若い衆に顎で指図した。
「へい」
扉に向かう若い衆。
「誰だってんだ。まさか、物取り……? そうかもしれねえ」
慌てて、入り口の脇にある、薪割り斧を手にする若い衆。
そっと扉を開いた。
「誰だ、こんな夜に」
隙間から誰何する。
すると、鈴の転がるような愛らしい声が答えた。
「わらわじゃ! 次期村長、オリガ・トールじゃ!」
一瞬、呆然とする若い衆。
何を言われたのか理解できない。
そしてすぐに、常識的な考えが浮かんでくる。
「いや、ガキがこんな時間に出歩いたら危ないじゃねえか。家に帰れ」
「ほう、お主、案外常識的なのじゃ! では、事が起こったらお主には情状酌量をしてやるのじゃ。まあ、いいから開けよ」
「開けられねえよ。村長さんが許さねえよ」
「それは困ったのう。わらわは、全ての家を回って清き一票の訴えをしておるのじゃ」
けろりと言ってのける幼女の声に、若い衆は目を剥く。
全ての家ということは、村長の家にも来るということなのか!
正気か!?
ここは対立候補の家だぞ!!
「埒があかんのじゃ。入るのじゃー」
呑気な声が聞こえた。
誰が開けるか、と扉を締める若い衆。
だが、扉はびくともしない。
それどころか、凄まじい力で、こじ開けられていく。
「う、うおお!? うおおおおお!!」
全力で扉を抑えようとする。
だが、止まらない。
まるで何の抵抗も無いかのように、扉は全開に開け放たれた。
扉に手を掛けているのは、笑顔のオリガである。
「な、なんだ……なんだってんだ今の力は……!」
全力を出してなお、軽くあしらわれた若い衆。
荒い息を吐きながら、恐れを込めた目でオリガを見る。
「村長! いるのじゃ? わらわが挨拶回りに来たのじゃー!」
家の奥で、どたばたと音がする。
「なんだと!? おい、てめえ! なんでこいつを家に入れやがった!」
顔を出した村長が怒鳴る。
だが、疲労困憊の若い衆はまともに答えられない。
その様子に、ただ事ではないと察した村長。
「おいお前ら! このガキを叩き出せ! 痛い目を見せてやれ!!」
「へい!」
わらわらと、村長の家に居候する若い衆が集まってきた。
その中には、近隣の街で食い詰めたごろつきも混じっている。
この選挙戦のために、武力として雇い入れたのである。
「なんだ、こんなガキか!」
「へっへっへ、楽勝だなあ」
オリガの見た目で、すっかり舐めきった若い衆。
この幼女を取り抑えようと、じりじり迫ってきた。
「我が主よ、ここは私が……」
「よい、グシオン。ここは格の違いというものを教えてやらねばなのじゃ。くっふっふー」
オリガが不敵に笑う。
そして、若い衆を睥睨した。
成人男性の腰くらいの背丈しか無い、幼女の視線である。
だが、この場にいる若い衆は、とても高いところから見下されているかのような錯覚を覚えた。
「な、なんだ、今の感覚……」
「こいつが何かしたのか!?」
「ええい、やっちまえ!」
その掛け声とともに、襲いかかる若い衆。
だが、オリガは不敵に笑ったまま、こう告げた。
「“ひれ伏すのじゃ”」
その言葉と同事に、全ての若い衆は地面に叩きつけられた。
気付いた瞬間には、全員が土下座の姿勢でオリガに頭を垂れている。
「!?」
異常な状況である。
これを見ていた村長は、驚きのあまり目を見開き、口をぱくぱくとさせた。
「なん……なん……」
「仮にも魔王として、この世界を手中に収めかけたわらわが、今回はルール通りに戦ってやっているのじゃ。お主もルールを守らねばいけないのじゃ」
ひれ伏した若い衆の間を、悠然と歩むオリガ。
呆然と佇む村長に向けて、手を差し出した。
「握手じゃ。村長。わらわに、清き一票を」
そう言って笑うオリガ。
まさに、その姿は魔王なのである。




