わらわが村長なのじゃ!
「厳正なる開票の結果……」
開票担当をつとめている、ライヤッチャ教の司祭が宣言する。
彼の前には、136枚の投票用紙。
スイチー村全員が、次なる村長と定めた者の名前を書き記していた。
並んでいるのは、恰幅のいい初老の男、現村長。代々の地主であり、代々の村長でもある。
村の利権を貪ってきていたが、これといった活動や村の活性化にも無関心だったため、今日の村の過疎化を招いてしまった張本人である。
もうひとりは、なんと年端もいかない少女。
いや、幼女と言っていいだろう。
サラサラストレートの、カラスの濡れ羽のような美しい黒髪。
そして闇夜を閉じ込めた宝石のような、漆黒の瞳。
唇はふっくらピンク色で、お肌はもちもち。
頭の両脇からは、紫色の角がくるくる巻かれて生えている。
なんと、次期村長の座を掛けて選挙戦を争ったのは、この幼女なのだ。
開票所の前で、居並ぶ村人たちが固唾をのむ。
年寄りが多い。
若者はみな、出稼ぎに行くか、都会に移住してしまったのだ。
スイチー村は過疎の村。
このままでは未来がない。
だが、誰もがどこか諦めていた。
このまま村が無くなってしまってもいいと思っていた。
それがどうだろう。
開票所に熱い視線が注がれている。
これまで形式的でしかなかった村長選挙だ。
投票率が50%を切ることも珍しくなかった。
だが、今回の投票率はどうだろう。
「ばかな……全員が投票したというのか……!」
現村長が呻く。
そんな投票率、彼の父親の代も、祖父の代ですらありえなかった。
一体何が……何が起きているというのだ。
「次なる村長が決まりました。発表いたします!!」
ライヤッチャ教の司祭が声を張り上げる。
会場に緊張の糸が張り詰めた。
「スイチー村新村長……オリガ! オリガ・トール!!」
それは、角を生やしたこの可愛らしくも、威厳に満ちた幼女の名前。
オリガ・トール。
その名が、歴史に現れた瞬間がここ。
スイチー村村長選挙……!
「やったね、オリガちゃん!」
「やりましたね、オリガ様」
オリガを称える民衆の中、駆け寄る茶色い髪の少女は、第一秘書のアリア。
もう一人、深紫の髪をしたスーツのイケメンは第二秘書のグシオン。
「ばかな……。ばかな、ばかな……! わしが、わしが村長でなくなるだと……!?」
村長の地位から追放され、がっくりと崩れ落ちる前村長。
「なぜだ! 一体なにが起こったというのだ、小娘!! 一体お前は、何をしたんだー!!」
前村長の叫びを聞き、オリガは笑った。
「くっふっふ、では教えてやろう、前村長。魔王の戦い方……魔王の選挙術というやつをな……!!」
魔王オリガ・トールは語りだした。
スイチー村の歴史に残る、この選挙に繋がる物語を……!