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景色

作者: ののこと

 これまでの景色と、これからの景色と


 空に満ちる夢は鮮やかに。

 海を満たす心は穏やかに。


 常に注視している訳でも、別段軽んじている訳でもなく。

 意識外に常在が前提となっていたのだろう。

 感謝こそすれ、特別な感動を覚えることはなかった事。


 唐突に傾斜し、歪みが生じる。

 それこそ幾度となく起きてきた事象に、此度もやり過ごすだろうと。

 半ば予定調和のように通り過ぎる事を、祈るように楽観した。


 深い歪みは不可逆に。

 叱責も嘲笑もない浸食は、これからも続くはずの日常の装いを踏みつける。

 希望に縋る表情は諦観と混じり、ただゆっくりと鈍らせる。


 やがて視せた一つの終幕。

 非日常の忙殺と色彩の消滅を、真正面から向き合う事への逃避に使用した事。

 恐らく生涯の辛苦に繋がって然るべきで、それはわかっていた事。

 周囲の誰もが背負って然るべき。

 それでも自身が担うべきは最たるものでなくてはならない。


 小さな隙間にできた二人だけの空間でみた、心を沈めた彼女の表情。

 声に発するのであればきっと、言うべき事は決まっていたのだろう。

 みえない心の距離を感じて発せられた言葉は、歪めて妄じた続きをみせつける。


 一つ、二つ。

 走者に体のいい一方的な物言いは、望むのならそれでも良いと静者は黙認する。


 きっと最期まで、自身の心からの謝罪はないだろう。

 心からの謝罪は軽薄で、むしろ今ここにいる傲慢を暗然に被せて見せつけるようで。


 だからこそ、大義を染み込ませた勇往邁進を。

 あやふやな自己意義の専制を鮮やかに。


 払った犠牲の極大を、心から見つめるあなたに届くように。

 どれほどの矮小と惨状を発現し、その鎮静に労するものなのか。

 それを経て尚、失星の辛苦が永遠の諦観を招くと叫ぶ。


 どこまでもそこにいて。

 どうしてもそこにいて欲しくて。

 静寂の慟哭は、それすらも自己満足に溺れてゆく。


 見通す先の景色は幻想で。

 見渡す先の景色は荒寥で。


 主軸にさえ傍観を交える途方の暮れに、それでも問いかける言葉を想う。

 問い、癒し、導く。

 頗る妄じた彼の発声は、恐ろしい程に実声として投げかける。


 恐怖を抱くその心は変わらず。

 あくまでいつも通りに心底案ずる優しい眼差しを映し、虚脱の平穏を得る。


 妄言の真偽に是非はなく。

 圧倒する全ての不足に、せめて小さな手土産を。

 進んだ先の再会に、咲かせる花を少々持って。


 互いの労いで始まって、ぎこちなく動き出す会話。

 どれほどの年月がその初月を導き出すのか。


 まだまだ時期尚早と叩き出す声。

 叱咤に色濃く混じる望外の深い親愛は、目覚めの溜涙に強く映される。


 望遠と余白の残る静かな朝。

 心慮故の慈愛に満ちた怒声で起きた朝。

 真逆の夢現はあまりにも得難いものを浮き彫りにする。


 譫言のように口をついた返事。

 送り出された自身はいつまでも子供で。

 これからの旅程を隈無く楽しむ事、それが何よりも喜びに繋がると信じて踏み出す。


 必ず帰るから、心配しないで待っていて下さい。

 それじゃ、いってきます。

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