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冒険者登録するまでが長い

冒険者登録するまでが長かった。


 まず、裏路地から大通りに出るまで問題は何もなかった。それは結果として、ここが一番、時間が短く楽であったことを思い知るのだが、その時のグレイがそんなことを思っているわけがなかった。


 スラムの住人はグレイの後ろに歩くリストレインとレヴェルには視線を向けるが、彼らに声を掛ける者もいなかった。それをグレイは心底残念がった。 ここで絡まれ、それをグレイがさっそうとやっつけて、その姿をみたレヴェルがリストレインと同じように尊敬するだろうと考えていたからであった。


 道中、わざとらしく何も入っていないように見える。溜息を吐き、ケンカを売ってくるような奴がいないかと見渡したが、誰もかもグレイが向くと首が痛くなりそうなほど勢いよく顔を動かし、視線を合わせようとはしてくれなかった。


 グレイの計画が容易く打ち砕かれ、何事もなく表通りに出た。


 まず始めの問題として服の調達で一悶着が生じた。


 グレイは周りの騎士に姿が見られぬようにと警戒しながら歩き、その後ろをリストレインとレヴェルが親ガモについてくる子ガモのようにしっかりと付いていた。その姿に気付いた住人の大半は横目で見ながら関わらぬようにと近づく者はいなかった。


 すぐ近くにあった雑貨屋が目に入った。開け放たれた店の前に出された台の上に乱雑に置かれた麻の服が置いておるのを確認するとグレイは近づいた。


「いらっしゃい……」


 店の中で他の客と会話していた店員らしき中年のおじさんは、グレイの後ろにいるリストレインとレヴェルを認めると快活に挨拶していた相貌をあからさまに迷惑そうな相貌へと変化させた。


「一番安そうなこれでいいか? お金は他の物にかけてぇからさ」


 グレイはそんな態度の変化に慣れているとばかりに反応せず、グレイが麻で作られた着色も装飾もない、ただの服の形をした一番安そうなものを選んで指して訊いた。二人は怒りを堪えているような、悲しんでいるような、悔しがっているような複雑な感情を押さえている表情でおじさんを見ていたが、グレイに声を掛けられ、服を見ると特に意見はない様子で黙って頷いた。


「これをくれ」


 グレイがそれを指し示し声を掛けるが、それを聞こえていないとばかりに無視をし、先ほど話しかけていたお客に商品の紹介を始めた。


「奥様、これなんていかがでしょうか。リネンで作られましたこの服はこれからの季節にピッタリになること間違いないでしょう。この生地のさわり心地、絹に負けず劣らずの滑らかさでございます。さらにこの色鮮やかな色合いはまさに奥様にピッタリでございます」


「いくらかしら」


「こちらは銀貨七枚と銅貨三枚になります」


 グレイが声をさらに掛けるが、どちらもグレイの声や存在などを空気のように関心を示さず、居ないものとして会話を続ける。


「すこし高いわね。……でもまぁ、私は払えるけどね」


 頬に手を当て悩む女性の指にキラリと光る指輪が嵌っていた。それには小さな淡い空色の鉱石が付いていた。女性はチラリとグレイ達を憐むように見て、小さく鼻を鳴らした。お前らには払えないだろと心の中で嘲笑っているのが簡単に分かった。


 この女にはリストレインの腰に付けた硬貨の入った巾着が見えてないのであろうか、それとも硬貨を持っている筈はないと考え、この巾着を中身をガラクタだと勘違いしているのであろうか。


 グレイの無視されて苛立ち始めたため鋭く険しくなった瞳が女性の瞳と意図せず、交差した。すると女性は短い悲鳴を上げ、すぐさま視線を逸らしてしまった。


「どうされましたか?」


 中年のおじさんはグレイが女性の視界に入らないように身体を間に移動させた。


「ま、また今度買いに来るわね」


「あ、お客さん」


 おじさんはグレイを横目で睨むが、それを気にする素振りを見せず、グレイは鼻を鳴らした。


「それで、これはいくらだ?」


「……」


 再度訊ねたが、客の逃げられる原因となったグレイにさらに煩わしさを覚えたおじさんはグレイが指し示した麻の服を掴み畳み始めた。早く出ていって欲しいというあからさまな意思表示だ。そんなことに屈しないグレイは他の麻で作られた服を指し示し、再度問おうとするがそこでリストレインに止められた。


「なぁ、もういいよ」


 リストレインはグレイのローブを引っ張って言った。レヴェルも何も言わないが二人は最初から期待をしていなかったというような諦念の色が浮かんでいた。


「そうだな」


 グレイがそう言うと中年のおじさんがやっとかと言わんばかりに細くした横目でグレイを見た。そこでギョッとした。


「他の店でもっといい服を買うか」


 グレイが大銀貨を取り出したからであった。そんな額の硬貨を持っていると思っていなかったおじさんは驚きのあまり目を見開いて止まっていた。そんなおじさんのあほ面を眺めたことで溜飲の下る思いをしたグレイはミントを噛んだ時の爽快感のような気分を味わいながら、リストレインたちを連れて出ていった。


 この大まかな流れを靴の売っていた雑貨屋でも行われていた。


「それでここに来たわけか」


 男は突然再び押しかけてきたグレイの話す話の顛末を聞き終わるとリストレインとレヴェルを見た。2人がスラムの住人であるこを聞いていた男は、他の人のようにリストレインらを特段毛嫌いをしれいるという様子は見られない。その話の中心人物であったリストレインらは展示されている武器の僅かにある光にさえ反射する光沢に興奮したように二人で話していた。


「話を聞いたって、どうしてここに来たのかわからねぇが。ここは子供の集まる場所じゃない。とっとと帰りな」


 相変わらず覇気のない気だるげな様子の男は手を払う仕草をする。


「別にいいだろ。誰も集まってねぇんだし」


「舌の良く回る餓鬼だ。それで、まさかここに来た理由は服と靴を買ってきてくれとかじゃないよな」


「そのまさかだって言ったらどうする」


「ここは武器屋だ。俺がそんなことをする義理はない」


「そこをなんとかならねぇか?」


「無理だ」


「じゃ、それは一旦保留にするとして。武器を売ってくれ」


「武器なら今日売ったばかりだろ、って言うのも少しわざとらしい勘違いだよな。そっちの二人にか。まだおめぇよりも小さいじゃねぇか、そんな奴に剣なんて持たしてどうするつもりなんだ」


「どうもしねぇよ。ただ自分の身を守るにはいい武器が必要だろ」


「そいつらを使って金稼ぎでもするのか?」


「そんなまどろこっしいことをする必要はねぇよ。だって、俺の方が早く稼げるんだからよ。こいつらに武器を買うのはこいつらが自立して、いまの生活から抜け出せるようにするためだ。だから、これで買える出来るだけいい武器を二つくれ」


 男は差し出された巾着の中身を確認すると、入口の入ってすぐ左の角に並べられた武器を指さした。


「気に食わない出来の作品だけを置いてあるが、なまくらというわけでもない。あそこから好きに選べ」


 男はそう言うと巾着を置いたまま、奥へと引っ込んで行った。


 グレイはリストレインとレヴェルに声を掛け、武器選びを始めた。


 並べてあるのは剣や斧、槍にハルバートにガントレット、弓などのどうしてこれが気に食わなかったのかわからぬほどしっかりとした武器であった。


「なぁ、ほんとにこの中から選んでもいいのか? 後からすっげぇ額の請求がくるんじゃないのか、そしたら、それが払えない俺たちを捕まえられる。あ、最初から武器屋と組んで俺たちを騙そうと──っいて」


「馬鹿なこと言ってねぇで、さっさと選べ」


 心配そうに話しかけてきたリストレンは自分で話していくうちに、腑に落ちたと自分の考察を話し始めグレイに一発殴られた。


 本気で話しているわけではないことはもうグレイには分かっていた。だから、本気で殴ったわけではなかった。


 傍から見れば三人兄弟の二人がじゃれているようにも見える。それほど警戒している雰囲気はなかった。


 レヴェルは武器が好きなのか、色々な武器を眼をキラキラと光らせ吟味していた。武器を持ってみては自身が魔物と戦う姿を想像し、頬を緩ませ、戦闘の姿勢を作る。戦い終わったあとは総じて武器を掲げて見せた。このパターンしかないらしい。


 リストレインは少し興味があるという具合で、レヴェルのように興奮している様子ではなかった。


 暇すぎたグレイはいつの間にか眠っていた。どこか森を思わせる武器屋の暗さはグレイにとってはとても心地が良かった。


 誰に起こされるわけでもなく目覚めたグレイはあくび一つし、伸びをしてボキポキと背骨が鳴らした。


「もういいか」


 と声を掛けても返答がなかった。グレイは慌てて周りを見渡したがリストレインらはいなかった。

最後まで読んで頂きありがとうございます。


『夏休み毎日更新ウィーク』6日目になりました。明日が最後ですね。

この企画を考えた時に途中でへたらないかなと考えていましたが、ギリギリ持ち堪えました。


ブックマークもPVも嬉しい事に増えまして、ずっと競馬中継を観ている人のように「行け行け」と増えるPVを応援していました。そんな私の作品をこれからもよろしくお願いします。


では、また明日

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