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理解の出来ない変人を信用してねぇが、騙されてやる

「ああ、そうだn……」

 

 グレイはこのまま変化の無い状態では埒が明かないと流す魔力を増やした。するとリストレンの身体から力が抜けた。グレイはすぐさま肩を掴み、支えることで、リストレインは倒れることはなかったが、身体が重力に抗うのをやめたようにズルズルと地面へと崩れていった。


「おい! 大丈夫か?」


「リスト?!」


 グレイが声を掛けるが、反応はない。チビを乱暴に起こし、腹に付けた。チビの驚く泣き声が上がったが、レヴェルの耳には入らなかったようで、リストレインに近づく。グレイは急いでリストレインを横に寝かせ、魔法巾着を漁った。先ほど買ったポーションがまだあったからであった。


「テメェ何しやがった? ゲホッゲホッ」


 リストレインの様子を見たレヴェルはグレイに掴みかかるが、咳き込み、苦しそうに顔を歪め、辛そうな表情で手を放し蹲った。


 咳は止まらない。


 グレイは眼の前に起こった惨劇に慌てることはないが、動揺はしていた。乱暴に掴み出したポーションをレヴェルに差し出し、すぐさま二本目のポーションを取り出した。


「落ち着いて、これをゆっくり飲め。わりぃがおめぇに構ってる暇はねぇ」


 レヴェルはポーションを受け取り、少量ずつ飲んでいく。すると、呼吸が次第に楽になっていくのを感じ、深い呼吸を何度も繰り返した。


 グレイはリストレインにポーションを流し込みながら横目にレヴェルの確認をした。レヴェルが落ち着いたことを把握するとリストレインに集中した。


 ポーションを飲ませる前からリストレインの呼吸は正常であったことにグレイの動揺は緩和されていた。リストレインの顔色は悪いものでもなかった。


 グレイは人に魔力を流すことの危険性を知った。


「たぶん大丈夫だ。さっきは悪かったな、苦しそうにしてたのに、ポーションを渡すだけしか出来なくてよ」


「さっきのはリストには黙ってろよ」


 グレイの詫びの言葉を流しリヴェルは圧をかけるように言った。ただ、そんな子供の圧に怯えるほど弱い訳のないグレイはその態度にいつものように苛立ちげに言い返すのではなく。レヴェルをおちょくるような返事をした。


「なんだよ、俺に助けられたのを気にしてんのか?」


「ちっげぇよ。リストに心配を掛けたくねぇだけだ。ぜってぇ、テメェに助けられたことなんか気にするもんか。ていうか、そうなったのも結局テメェのせいだったじゃねぇかよ。最初からこうやって俺たちを殺す気だったんじゃねぇのか?」


「そんなわけねぇだろ、そうならポーションなんて高価な物テメェらに使うかよ」


 レヴェルは疑念の目をグレイに向けて、考えられるグレイの思惑を口にした。グレイはその邪推を一蹴し、空になった瓶を見せる。


「どうだか? 信用を勝ち取るための方法かもしれねぇだろ」


 それでも尚、信じられないといった様子のレヴェルは疑念の眼差しをグレイから解かない。グレイの行動を一足一挙動すらも見逃さぬようにと、眼球がせわしなく動いていた。


「そうかい、そんなこと言っていいんだな。じゃぁ、テメェには魔力流してやんねぇ」


「いらねぇよ、そんなもん。リストみたいに殺されかけるかもしれねぇからな」


「ダメだ」


 寝言を漏らすような息のたっぷりと含まれた声が制止した。目も開けられておらず、力のこもっていないその声は2人の耳にしっかりと届いていた。


「リスト! 大丈夫か?」


 リヴァルはリストレインの顔を覗き込む。


「大丈夫だ、俺はどれくらい気を失ってたんだ?」


「少しだけだ。気分は?」


「普通だ」


 グレイが訊くとリストレインは眼を開き、寝起きのような気だるげな声で答えた。


「それは良かったぜ、本当に焦ったからな。それで、どうなったんだ」


「突然、感じていた違和感が形になって、身体全体に広がったのが分かったんだ。わかったっと思ったら、視界が回り始めて、気分が悪くなって、そしてさっき気が付いたんだ」


「じゃ、分かったんだな」


「わかった、確実にな」


「なぁ、リスト。ダメってなんでだよ。こいつ信用できないぜ、ポーションを俺たちに一本ずつ使いやがったんだ。ぜってぇ裏があるに決まってる」


 リストレインの身体を揺すり、注意をグレイから引き離そうとする。しかし、その願いとは裏腹にその言葉を聞いたリストレインはグレイに申し訳なさそうな顔をした。


「すまねぇ。また、返す物が増えちまった。俺たちのために高価なポーションを使ってくれて本当にありがとうな」


 立ち上がろうとしていたが、グレイがそれを押さえて止めたため、寝転がりながら謝辞を伝えた。レヴェルは謝ることねぇよ、ぜって裏があるに決まってると言いながらさらに揺すった。リストレインはレヴェルの方を見て、笑いかけた。レヴェルはやっとグレイじゃなく自分の言っていることを聞いてくれると思い、グレイの怪しいところを列挙しようと口を開きかけたが、その口はリストレインの言葉を聞くと、閉口した。


「それで、レヴェルはなんでポーションを使ったんだ? なぁ?」


 レヴェルは最初ははぐらかしたが、詰め寄るリストレインに観念して吐いた。


「レヴェルの命まで助けてくれて本当にありがとう」


「でも、こいつが魔力を流さなかったらならなかっただろ」


「俺が頼んだことだ、それに魔力が分かった。気を失うだけでわかるなら十分だろ。ほんと、何を返したらいいかわからねぇよ」


「心配するな、なんも見返りなんて求めてねぇよ」


「レヴェル。これを聞いても、裏があるように思えるか?」


 納得いっていないレヴェルに言い聞かせるように、しっかりと眼を見て話した。


「よーく聞け、魔力を感知出来れば、俺たちは強くなれるぞ。俺たちはここから出れるんだ。俺一人で出ることだってできるんだぞ、俺はレヴェルと一緒に行きたいと思ってる。レヴェルはどうだ?」


「俺も、そう……思っているけどよ。けど、おかしいだろ。そんなに簡単に強くなれるんなら、みんなやってんだろ。怪しすぎるよ、こんなの」


「じゃあ、見返りを求める。それなら、怪しくねぇだろ」


 グレイはあっさりと付け加えた。


「それでも怪しいに決まってんだろ、……けど、なんだよ。その見返りってのはよ。金か?」


 レヴェルはまだ怪しいと思っていたが、リストレインが実際に魔力が分かったと言っているこの状況で、自分だけ魔力が分からずに、リストレインと一緒に外に行くということが出来なくなってしまうのは不味いと思い、渋々と話を進めた。


 グレイはそんなのいらねぇよと言って首を振って、唸りながら思案をし、やっと絞り出していった。


「……いつか、俺が、腹減ってたら、何か食い物をくれ、とか?」


「なんで訊くんだよ」


 レヴェルは訥々と考えながら話し、しまいには疑問符を付けて話し終えたグレイにかみつく。当のグレイは心底、興味なさそうにいいっ切った。


「見返りなんて正直なんでもいいんだよ」


 レヴェルは何も言えず、ただグレイの真意を探るように瞳を見た、何が目的かどうかわからない行動に裏があるのではないかという考えを確信にすることも否定にすることも出来なかった。


「わかった、俺たちが返せるようになったらその時の最上級の飯を奢らしてくれ」


「俺はまだ決め──」


「信用しろとは言わねぇよ。けど一度、騙されたと思ってやってみろよ。別に損はねぇはずだからよ」


「……わかった、わかったよ。騙されといてやるよ。けど、信用したわけじゃねぇからな」


「それでもいいぜ、リストレインだって俺のこと完璧に信じているわけでもねぇからな」


 リストレインはゆっくりと頷いた。


「正常だよ、正常。おめぇらの反応はここじゃ正常だ。ほら、やるぞ」


 グレイはレヴェルの引き寄せ、魔力を流した。先ほどのように強く流すことはせず、ゆっくりと注意しながら流した。


「わかった」


 数分間何もしゃべらず集中していたレヴェルはそう言い終わると、グレイから離れた。


「ほんとか、やっぱレヴェル天才だな」


 自身よりも早く魔力を理解した弟を我がことのように喜び、褒めたたえる兄リストレインは誇らしげに笑うレヴェルを相手し終わると、ゆっくりと立ち上がり、グレイに礼を述べた。頭を下げた。


「気にすんな、出会ったのも何かの縁だ。それに、これから魔力操作を習得出来るようになるか、ならねぇかはおめぇら次第だ。俺がこれからおめぇらに出来ることはねぇからよ」


「グレイはいつまでここにいるんだ?」


「今日、……いや、明日だな」


「そうか、いろいろありがとう」


 グレイは思案しながら答えた。そしておもむろに腰に魔法巾着から少し余裕のある袋を取り出し、そこから硬貨を出し始めた。硬貨に目が引っ張られている二人をよそにグレイはそれを他の袋に入れ始め、それが両方が同じくらいの分量になると片方をリストレインの前に差し出した。


「これは」


 中身は見ていて知っていたが、確認のためリストレインは訊ねる。レヴェルはその硬貨の量に、生唾を飲み込み、逆立ちしても理解の出来ない変人に出会ったかのような目でグレイを見た。


「この金で武器を買って、冒険者登録でもしてこい。服や靴も買ってこい。それだけ買うと腹一杯の飯は難しいと思うがそれでも好きな飯でも買って食え」


 リストレインはそのずっしりと質量を感じる袋を持ち上げ、受け取りを拒否した。それは、欲望と申し訳なさの狭間で揺れ動き、差し出す右手はそのことを表すかのように揺れていた。


「もらえねぇよ、こんなに色々なことをしてもらって、さらに金まで」


「ありがとう」


 そう言って、頭を下げたのはレヴェルであった。リストレインがグレイに頭を下げた時以上に深いお辞儀で礼を言い、リストレインの差し出した右手を止めた。


「リスト、貰っとこうぜ。どうしてこんなにしてくれるのかわからねぇけど、もう色々してもらってんだ、騙されてるなら、最後まで騙されとこうぜ。それに金がなきゃ、冒険者になれねぇし、冒険者になれなきゃ、力があっても町の中には戻れなくなくなっちまう」


「そいつの言う通りだ。貰っとけ」


 リストレインは長く、深く頭を垂れた。レヴェルも続けるように頭を下げた。グレイは気分よさそうに頷いた。


 人からこれほどまでの礼を貰ったことのないグレイの気分は臨界点を突破する勢いで急上昇していた。だからだろうか、あげるつもりのなかった硬貨を渡したことも、リストレインのこの後発した言葉に鷹揚と返事をしてしまったことも、すべて、慣れない尊敬や賞賛の情を向けられたことが原因なのか、それとも過去の光景の人物にリストレインを勝手に投影してしまっていたのか、返事をしたあとのグレイには考える時間はなかった。


「グレイ、これから冒険者登録する準備を一緒にしてくれねぇか?」


「いいだろう、──っ」


リストレインの発した言葉が脳で咀嚼され、ちょっと待てとグレイが止める前にリストレインは拳を握り喜んだ。


「やった、これでお金が取られる心配がなくなったぜ。良かったなレヴェル」


「そうだな、お願いする」


「……わかった」


 渋々といった様子で返事をするグレイだが、自身があげた硬貨が取られる危険性があることを聞いた瞬間、グレイの眼光がきらりと光っていた。

最後まで読んで頂きありがとうございます


『夏休み毎日更新ウィーク』5日目になりました。

もう終盤ですね。更新ストップしないように頑張ります。


昨日は総合評価200になりとても嬉しかったです。


この物語が少しでも面白いと感じましたら、ブックマーク、感想、評価して頂けると嬉しいです。


では、また明日

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