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大銀貨払えば暴力 可

 グレイは一番空いている列に並び、自身の番を静かに待った。


 ちらほら、垢抜けない少年がこれからの冒険に胸を高鳴らしているようで目を輝かしていた。


 グレイはこれからの冒険よりも、王都に向かうための現金を魔石で換金する為に来ている為、冒険の高鳴りよりも、魔石がどれだけの価値になるか、ということの高鳴りだった。


 ──これで、たりねぇなら。また世話になるか。


 グレイはお金の稼ぎ方を覚えたため、気持ちはお金持ちであった。自身で稼いだ大銀貨の星のような輝きを掌に乗せて眺めた。


 前の人がはけてグレイの番がきた。煌く金色の長い髪の中に通った鼻筋と形の良い整った眉毛、小さな口に少しキツネ目のような切れ長な目をした女性がいた。


「本日はどのようなご用件でしょうか? 冒険者登録ですか? ご依頼ですか? それとも依頼達成の報告でしょうか?」


 定型文を流れるように口から出した女性は作り上げていたかのような笑顔を張り付け、話す。


「冒険者登録」


「はい、わかりました。冒険者登録ですね。少々お待ちください」


 女性はそういうと下の引き出しから数十枚の紙を取り出し、グレイの顔を見ながらその紙に描かれた顔を見比べていた。もう何度も見ている紙であるためか、見ているか、見ていないのかわからないような速さで紙を右から左へと流していく。


「はい、大丈夫ですね。一応確認をしますが、犯罪歴ありますか?」


 何十枚にもなる紙をカウンターの板で端を調え、引き出しにしまいながらグレイに訊ねた。当然、グレイはないと答えようとしたが、「な──」と言った瞬間に女性はすぐに


「はい、ありがとうございます。ではあちらでこちらの紙をご記入ください」といって四枚の紙をペンと一緒に渡し、丸テーブルの方を目線で示した。


「……魔」


 グレイは魔石の換金について尋ねようとするが、後ろの男が苛立ち気に声を出した。


「ッチ、終わったならさっさとどけよ。これだから新人は」


 グレイはカッと怒りで顔が赤くなった。眦がつりあがり、拳に力がこもるが、はっと今はまだ(・・・・)冒険者じゃないから、と思い返し、熱のこもった息を吐き出し、気を落ち着かせるようにした。懐のチビは不機嫌な態度を取りながらも心配そうにグレイの顔を覗いている。


「……魔石を売るにはどこに行けばいいんだ?」


「魔石ですね。魔石などの魔物の素材の買取はどこのカウンターでも対応できますが、お急ぎの場合は左奥の専用カウンターをお使い頂くと早く済みます」


 グレイの怒りを押し殺した気迫の宿る表情を持ってしても、女性は表情を変えなかった。女性にグレイは「ありがとう」とさらに笑顔を深めた。すると女性は面白い物でも見たように噴き出しそうになった笑みをこらえた。


 そしてグレイはこの場からすぐさま移動しようとした時、後ろの男が鼻でわらい、周りに聞かせるように大きな声で話した。


「おいおい、新人は礼儀もしらないのかよ。待たせてすみません、だろうが」


 何も言わないグレイに調子に乗ったのか、その冒険者の男が指でグレイの頭を押した。グレイの頭は草のように前に垂れた。


「おい、びびって声も出せねぇのか?」


 「新人を虐めんなよー」「恒例の洗礼か?」周りの冒険者からもヤジや下卑た笑い声が飛ぶ。周りにいるグレイと同じような年齢の冒険者たちの態度は三者三様だ。心配そうにグレイを見てる人もいれば、同じようなヤジを飛ばす者もいる。他にも我関せずと、グレイの方を見ないようにする者などいた。


 グレイは笑顔を仮面のような笑顔を付けた。こめかみが痙攣のように動く。


 グレイは貰った紙を急いでその場で書き上げた。名前、出身地に、年齢、使う武器に師匠の名前などのさまざまな情報を。三、四枚目は一、二枚目と同じ内容とであったため、すぐに書き終わった。


「……これで、冒険者になったよな」


 怒りで声が震えた。


「すみません。登録料金の大銀貨一枚が必要になります」


 グレイが並んでいる時に眺めていた大銀貨を懐から引っ張り出すように取り出した。


「あとの説明は……まぁ、あとで致しますね」


女性は、もうこちらに背を向けているグレイに聞かせる気もない、諦めたような声音で告げた。


「おい、てめぇさっきから黙って聞いてればいい気になりやがって」


「おっ、なんだ? やる気か?」


 溜まりに溜まった怒りは歯止めの効かない土砂崩れのようにゆっくりとエンジンがかかる。振り返り見た見た冒険者は若さなど感じさせない汚い不精ひげを生やした顔に、乾いた血の跡の残る袋を腰に吊るした30前半の男であった。醜穢に歪めた笑みのその男の腹にグレイの握り絞めた拳が放たれた。


「なんの騒ぎだ! こちらにいらっしゃるお方を知っていてのことか」


 張り上げられた声にピンと空間が張った。誰もがその声の発生源に視線、姿勢が向き。偶然にもグレイの冒険者に放った拳は空虚を切った。


 グレイも忌々し気な視線を声を発した者の方に向ける。人垣の間から見えるのは紺青の髪に空色の大きな瞳をした青年であった。誰もがそちらに視線を向けていることから、その男が先ほど声を発した人物であることが理解できた。


 その男のすらりと伸びた手足は筋が通っているかのように鋭さを感じさせる。そしてピンと伸ばされた服の上からも見える筋肉質なその腕が伸びた先の掌が示すその先には少年が腕を組み偉そうに立っていた。冒険者の誰かが、「リュー様だ」と言った。その大きくないその言葉に耳を動物のように動かし耳ざとく聞くと偉そうに顔を上げ、大きく一度鼻息を荒くした。


「そう、僕の名はリュー・コロン、このコロンの都市を治めるリーファン・コロンの息子である。して、この騒ぎはなんだ?」


 コロンと名乗った茶髪の少年は見下すように周りを睥睨し、その瞳を避けるように冒険者は顔を動かす。


「何でもありません。ただいまギルド長に話を通しますのでしばしお待ちください」


 グレイの担当をしている女性ではない女性がリューと名乗る少年に頭を下げ、そういうとカウンターの奥へ走って行った。


 辺りは、空気が無くなったかのように静かになった。その静けさで目立たぬような小さな声で受付の女性は話しかけてきた。


「グレイさん、こちらとしましても領主のご子息さまがいらっしゃる前で戦闘をされますと、ギルドの印象が悪くなりますので、どうか、おとなしくしていてください」


「あと、ゾランさん。あなたもⅮ+の冒険者なら、いまこの場での戦闘が今後の冒険者人生にどんな影響が生じるか分かりますよね」


 そして、グレイの後ろにいるゾランというおっさんに圧の纏った釘を刺した。


「ふっ、命拾いしたな」


 女性に怯んだ様子を見せたがゾランは、先ほどの調子を取り戻し、捨て台詞のようなものを吐き近くの冒険者と会話を始めた。次第に周りも会話を始めた。


「グレイさん大変でしたね。よく我慢していただきました。まぁ、手を出さなくて正解でしたよ。彼はⅮ+の冒険者ですからね」


「っ、触んじゃねぇよ」


ふわりと自然な仕草でグレイの手を握る女性の手に驚き、顔を真っ赤にして振り払う。「初心なんですね」とからかうような笑みを浮かべた。

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