6.筋肉マッチョの魔法使い
「さて、今日する修行はのう」
腹を満たし、お茶休憩を済ませたシルバーズは表の草原にグレイと共に立っていた。陽光は真上近くから降っていてもうそろそろお昼になる頃だった。
「今日の修行は何すんだよ。また森に入って走るのかよ」
「それも良いが、今日はお主に力の使い方を教えようと思うてな」
「なんだよジジイ、俺が弱いって言いたいのかよ!!」
グレイは立ち上がり、シルバーズに詰め寄る。別段罵るつもりは無かったシルバーズはグレイをなだめる。
「落ち着くのじゃグレイよ。別にお主を弱いと言っておる訳じゃないんじゃ」
じゃあどういうつもりだ。と詰め寄るグレイを草の上に座らせ、話し始める。
「お主は知らぬと思うが。儂は剣神の高弟でな、剣神の選んで下さる後継者3人の中の一人なのじゃよ!!」
胸を張って大仰に云う。だがグレイは無反応であった。その様子に落胆するシルバーズ。
「やっぱり知らぬか。儂の名前を聞いてもピンと来ていない様子から、もしやと思っておったんじゃが。その予想が当たるとは、今では吟遊詩人が歌っておって他国でも有名なのじゃがな」
「それでジジイ。その後継者が何を教えてくれるんだ?」
特に気にすることなく、グレイは話を促す。シルバーズは吟遊詩人の歌を懐かしむように目を細めていた。
「そうじゃった、そうじゃった。今日する修行はのう、魔法じゃ!!」
「魔法?」
魔法––––魔法とは、自身の身体の中にあるオドによって生産される魔力と大気中に存在する自然魔力を自身のオドによって変換させて作った魔力によって、形成され顕現したものである。
魔法というものは意図も簡単に覚えられるものではない。魔法学校に通ったり、家に伝わる魔法を伝承したりして魔法に触れ、長い間修行をしてやっと覚えられるものだったからだ。
「そうじゃ魔法じゃ。儂達剣神の弟子は、魔法も教えてもらっておったんじゃ。じゃから少しだけじゃが使えるぞい。“フャイヤーボール”」
シルバーズの掌の上に燃え上がる火の玉が顕現する。大きさは10センチぐらいで、あのスラムの魔法使いよりサイズが小さいが熱気は遥かに上回っていた。
背後にある立ち木に掌を向け射出した。放たれた魔法は勢いよく飛んで行き。狙った木にぶつかり爆ぜた。
周辺の木を巻き込む程の威力だった。余波によってグレイの長い髪は背後へと流れた。
「やり過ぎちゃったのじゃ」
グレイの方へ振り返り笑うシルバーズだが、魔法が消えても燃え広がる炎をみて、慌てたように魔法を唱えた。
「“ウォーターウェーブ”」
“ウォーターボール”よりも難易度が高く魔力消費量の多い魔法で火を鎮火した。
「なんで力の使い方と魔法が関係あるんだよ。魔法使いが怪力なんて話聞いたことねぇぞ」
「儂も魔法使いが怪力なんて話はあまり聞かぬのう。じゃが、いない事もないぞ」
「どういうことだ?」
「剣闘士が魔法を覚え。魔法使いと名乗る場合とかかのう」
「それは、純粋な魔法使いじゃねぇじゃねぇか!」