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世話になった

一部修正 ※2021年9月10日

「これが今日の給金だよ」


 仕事を初めてから八日目の夜、グレイは仕事を上がりタイミングで本日の給料がいつものように支払われた。ラミィが笑顔で渡してきた硬貨の枚数は先日よりの少し多かった。


「おっ? なんか多くねぇか。間違えてんじゃねぇよ、あぶねぇぞ」


「私が間違えるわけがないよ」


 グレイは多い硬貨を返そうとするが、受け取ろうとしない。


「どう数えたって昨日よりも多いじゃねぇかよ」


「これであっているよ。今日まで頑張ったね。今日で完済し終わったんだよ。おめでとう」


「は? え、だって10日かかるんじゃなかったのか」


「それは、予想だよ。それ以上にグレイが頑張ってくれたからね。もし明日から泊まるとしたら、客としてきな、安くするからさ」


 豪快に笑ってそういい終わると直ぐ仕事に戻った。


「本当か、……その、世話になった」


 グレイは頭を下げた。グレイの行動に驚いて目を丸くして、仕事の手を止めた。


「驚いた、そういえば初めて聞いたね、明日は雨が降りそうだ」


「うるせぇ!」


 グレイは気恥ずかしそうに頬を淡く染めて照れ隠しをした。


 〆〆〆


 次の日グレイは朝、少し遅くに宿を出た。


 矛と縦がぶつかっている場面を切り取った看板を大きく掲げている冒険者ギルドの前にグレイはいた。それは大きな町であるだけにギルドも大きくほかの建物より頭一つを優に超えていた。


 グレイは門前に立って看板を見上げた、最初この町に来た時と同じようにフードを被り、チビを潜ませている。


 チビはとても不機嫌でいた、この七日間チビはあの『ワイバーンの泊まり木』から一度も出ていないからなのか、ルルがチビを見ていない間に食べ物を持って行っても、何も話そうとせずにご飯を食べるだけだった。もうずっとである。


 そのチビが今日返される時にも大変であった。ルルがごねたのである、ラミィが最後説得して返してもらえたが、瞳に涙をこらえて、嫌がる様は、何も悪いことをしていないはずなのにグレイの心に罪悪感の種がまかれた。


「世話になった。またな」


 グレイはギルドに向かって歩き出した。


 メアリーの方は昨晩と早朝にもうすでに話をしてあった。


「おめでとうございます! そうですか、10日で居なくなってしまうかとも思っていましたが、8日でですか」


 満面の笑みを浮かべて祝福してくれたと思うとメアリーは一転して陰りを顔に浮かべ俯いた。そして意を決したように顔を上げると尋ねた。


「いつ、この町を発ちますか」


「それは、まだわかんねぇな。ギルドの換金の結果によるな」


「なら」とメアリーは言いづらそうに言葉を発する。


「身勝手で申し訳ないですが、明日、ギルドに行く前に修行をしてくださいませんか? 無理なら大丈夫ですけど」


 最後までメアリーは強くなるため頑張っていた。だからグレイは出来るだけ強くさせようという思いを抱いた。そのため返事は「無理なわけねぇだろ。最後かもしれねぇからって気を抜くんじゃねぇぞ」


 グレイは泊まっている部屋に戻り、もう何度も見た天井板の木目を眺めた。シルバーズの元を発った時には想像していなかったような出来事が起こり、この都市にとどまることとなったが、グレイは悪い気分でもなかった。もとより王都の学院には一年後入学すればいいのだから、とグレイには焦りもなかった。


「ジジイならどうするんだろうな」


 ただ一つ、グレイの心に煮え切らない案がまっさらな思考に色を残す。


 次の日、チビをルルから引き取る前にグレイは今後1人では出来ないであろう魔力の循環を感知させる修行を行った。その時グレイはあの話を持ち出した。


「強くなったら報告すると言ってたけど、どうだ強くなった感じはするのか?」


 メアリーは目を瞑り自身を流されている魔力をしっかりと感じようとしていたが、話しかけられたことにより諦めたのか、目を開き答えた。


「そのー、……わからないですね。私、強くなってますか?」


 手を握り締めたり、開いたりしながらメアリーは自身の変化を確かめる。手には宿場の娘らしからぬ潰れたマメが痛々しくできていた。


「おめぇは、強くなってるよ」


 喜ぶメアリーにグレイは「けど」すぐ言葉を続ける。


「体力も魔力操作もまだまだだ。魔力操作を一人でコントロールするのは難しいが、体力作りは俺がいなくても出来るから、しっかりやっとけよ」


「そうですね。でも、残念です」


「なにが残念なんだ?」


「私、グレイさんが居なくなってしまう前に自分が強くなったことを証明したかったんです」


「そう焦るんじゃねぇぞ、強くなったと言ってもおめぇはまだ弱いんだ。だけど、このまま修行を続ければ、いつの間にか強くなっている気がするんだぜ。ジジィの弟子の俺が教えたんだ。強くならなかったら俺がおめぇをもう一度修行を付け直してやるぜ」


「グレイさん」


「まぁ、本当は最後の日はゴブリンを十匹倒して終了って形にしようと思ってたんだけどな。いろいろとな理由があってな」


「ゴブリンですか、分かりました。目安としておきます」


「……」


 グレイは昨晩、考えていたことをメアリーの決意の宿った瞳を見て、話すことを止めた。


 このような会話を早朝、カウンターに座り。グレイがメアリーの左肩に掌を置き魔力によって体調を崩さぬように微量な魔力を時間を置いて何度も流す間に話し終わっていた。


 扉を開き中に入るとエールの匂いが鼻腔を殴る。ムワッとする湿度の高そうな空気がグレイの頬を撫ぜ、逃げるように外へ出た。


 真正面に設えた木材のカウンターに受付らしい人が数人立ち、そこに力こそが全てだと考えていそうな筋肉を発達させた男どもが疎に並んでいた。そこに混じるローブを纏った男達ははからずも小さく見える。


 4人ほどが囲えそうな丸テーブルがいくつか置かれているが、殆ど埋まっている。しかし、エールを飲んでいるものはいない。


 グレイがそう立ち止まって辺りを眺めていると、後ろから人が入りってきたため、軽い衝撃が背を押しグレイは蹈鞴を踏む。


 こんな所に立ち止まんなよ、とぶつかってきた男は苦言を呈しカウンターに並んだ。


 グレイは眦を釣り上げて、何か言おうとしたが問題を起こしてはいけないという、ラミィの言葉とシルバーズの力を誇示してはいけないと言う言葉を思い出し、握った掌を緩めた。

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