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5.朝食戦争

「おっはようさんじゃ!!グレイ。今日も修行に勤しむぞい」


 バンッと音と共にこれまた勢い良く開けられた扉。今しがたの音によって目が覚めたグレイは寝ぼけ眼で、睨む。


「ジジイ、勝手に入って来たんじゃね!!昨日話したばっかだろ!」


  昨日、山の中を駆け回る修行を終えたグレイは肉を食べ、シルバーズと話をした。そこで、ここの部屋をグレイの部屋として使っても良いと言う話をしたばかりであった。


「此処をお主の部屋として譲ったがこの家は儂の家じゃて、いつ、儂が弟子の部屋に入ろうが良いであろう。それとも今は入っちゃいかんかったかのう。グレイも見たところ年頃じゃてな」


  シルバーズは詭弁を押し通しニマニマと笑い出す。その顔に憤りを覚えたグレイは殴りかかる。


「ジジイ、テメェぶっ殺す」


  ひょいひょいと簡単に避け、パシッとグレイの拳を簡単に掴み。


「やっぱりまだまだじゃのう。パンチの振りは大振りじゃし持久力も、力もまだ弱いのう」


  そう言った。

 

  うるせぇー、と思い切り拳をシルバーズから外そうと振り上げると意図も簡単に外れた。


  行き場の失くした力は身体を後ろに引っ張りたたらを踏んだ。


  「良しっ、今日の修行は決まったわい。早速修行じゃ、と言いたいところじゃが、先ずは朝食を食べないとな」


  シルバーズは昨日はつい忘れてしまっていたからのう。と呟きながら、グレイの部屋を出て行った。外へは向かわず右手の通路を通り何処の部屋に向かった。


  シルバーズを追いかけると、4人ぐらいが座れる椅子が2つとその間に大きな机があった。

 

  それ以外に特に物がないこの部屋は殺風景であったが、グレイの部屋はベットしか無いこれまた殺風景な部屋であったため違和感は無かった。

 

  机に並べられている食事は豪華で、色とりどりの野菜や胡椒のかかった肉などがあった。スラムではお目にかかることのできない白パンも。

 

  グレイは逸る気持ちを抑えて、先に席に着いていたシルバーズの対面に座る。


  木の棒が二本落ちている。木の棒の形は特徴的で右側から左側へと細くなっていた。しかも、ご丁寧に揃えられており。細くなっている木の下には四角い石が置いてあった。


  グレイは訝しんでその棒を見るが、飯と関係ないと考え肉を素手で取ろうとしたその手をパシッと弾かれ、グレイは睨む。


  「グレイよ今までは素手で食べても良かったも知れぬが、修行中は道具を使って食べて貰うぞ」


  シルバーズは自分の目の前にある。木の棒を持ち上げ此方に見せる。


  「じゃあ何で飯を食えば良いんだよ、ジジイ」


  グレイは視線を巡らせ、フォークとナイフを探す。いくら、何時も素手で食事をしてたとはいえフォークやナイフ、スプーンなどの道具は知っていた。スラムの近くにあった食堂で見たことがあったからだ。


  「ほれっ、儂が今持っている物じゃよ。お主の前にも置いてあるじゃろ」

 

  だが、あろう事かシルバーズは此方に掲げて見せている木の棒2本が飯を食う道具だと言っているのだ。此方を馬鹿にしているに違いない。


  グレイは青筋を立てながら目の前にある木の棒を2本とり、シルバーズの目先まで突き出した。


「こんな細い木の棒って切れで、飯が食えるわけねぇだろ。馬鹿にすんじゃねぇ」


「最初はみんなそう思うじゃろうな。じゃが、慣れれば使い易いぞ」


  そう言うとシルバーズは箸で黒胡椒のかかった肉を掴み口元へ運ぶ。ほら、こんな風に食べるんじゃ、とお肉を食べながら言う。

 

  グレイは口に唾液を溜めながらその様子を見ていた。

 

  胡椒は少し高価な嗜好品であり。その胡椒をふんだんに使っている肉の薫りが此方にまで香ってくる。


  グレイは胡椒など食べた事はないが、その食欲をそそる薫りは垂涎ものであった。


「どうやって持つんだよ!?」


  早く飯を食べる為に素直に教えを請うグレイを、シルバーズは飯の事だけは素直であると頭の隅に置いておくことにした。


  臥薪嘗胆、破竹の勢いで箸の使い方を覚えるグレイ。


「じゃ、食事の前に挨拶をしようか」


  試しに肉を掴もうとしていたタイミングでシルバーズが言った。


「挨拶?」


「そう、飯を食べる前のお祈りのようなものじゃ。手と手を合わせてじゃな。ご飯を作った者、命を頂いた食材に感謝を込めて言う言葉じゃ」


  シルバーズは手と手を合わせて、いただきます。と会釈をしながら言った。


  グレイも見よう見まねで真似をし、急いでご飯を食べ始めた。


  「儂も急いで食べないと無くなってしまいそうじゃな」

 

  「あっ、それ俺が狙ってた肉だぞ。返せよ!」


  「何を言っておる、お主はもう沢山食うたじゃないか、現にその口の中にも箸にも肉があるじゃろ! この食いしん坊の弟子め!!」


  机の上は肉の取り合いの戦場と化した。


  一向に減っていない色とりどりの野菜に気付き、シルバーズが言う。


「グレイよ、お主先程から野菜の方には箸が進んでない様に見える。若いお主がしっかりバランス良く栄養を取らないといけないであろう。儂はもう歳じゃて、栄養など要らぬ耄碌の身、じゃから儂がしっかりと肉を食おう」


  肉の入っている皿を此方がに引き寄せるシルバーズ。するとグレイが、皿を止める。


「おいおい、ジジイ。何かおかしくないか? 俺はジジイと云う『師匠』が居なくなってしまうと悲しいからなぁ、しっかり栄養のある野菜を食ってくれ。俺は箸の練習としてこの肉が丁度良い重さだからな」


  シルバーズは恨めしげに。


「初めて『師匠』と呼ばれたのに全く感動がわかないのう。じゃがな、こんな辺鄙な所じゃ手に入れるのが一苦労な胡椒をこんなに使っている料理は儂も久々じゃからな、譲るわけにはいかないのじゃ」


「俺だって胡椒のかかった肉を食うなんて始めてだ!!」


  あーだこーだ言い合っていると肉の脂でコーティングされていた皿に指が滑り、力の拮抗していた皿が空を舞う、上に乗っていた肉も空へ飛んで行く。茫然自失と舞っていた肉を見ていると。


  「やっぱりその諦め癖は利点でもあり、欠点でもあるのう」


  シルバーズが空を舞う肉を器用に箸で掴みながら言う。


  そして左手で皿を掴むと、机の上に置き。肉を戻すかと思いきや、そのまま肉を頬張るのだった。


  その姿を見ていたグレイからは悲痛の叫びが響くのだった。


  「さて、ご馳走さまじゃ。この言葉が食事終わりの挨拶じゃよ」


「クソジジイ、飯の恨みは飯で晴らすからな!!ご馳走さま!!」


  やはりご飯が関係すると素直になるグレイをシルバーズは笑いながら、楽しみにしておるぞ。と笑った。


「くそー、馬鹿にしやがって」


  「ほらほら落ち着くのじゃ、少しお茶を飲んで落ち着いた後修行しようかのう」

 

  そう提案するのだった。

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