最後の一年
──レベンディス達が居なくなってから
──0日目
木剣が空を切る。たたらを踏むまいと脚に力を込めた、がそれが仇となりシルバーズからの攻撃がグレイの左の手首を打つ。
「──っ」
硬護身だけを使っている筈なのに想像以上の痛みが走り、驚きとともに顔を顰める。手首に意識的に更に魔力を纏わせる。そして、左方に楽しそうに笑ってるシルバーズへと右に握った木剣で振り払う。軽い跳躍で後ろに下がった。
「ちゃんと全身を守らなければいけないのう」
エレナ達を見送ってから直ぐのグレイの言葉は食事を済ましてからと言われ、食事を済ませた後に草原にて修行内容が伝えられた。それはグレイにとってはとても簡単な事であった。
『硬護身だけを使いシルバーズと戦う。制限時間は夕暮れまで』という内容である。
明確な勝利条件はないにしろグレイは痛みの感じないのなら容易だろうという認識であった。だが現に手首に鈍痛が走っていた。すぐにグレイの認識は改められた。が、
「いてぇ!」
またすぐに脛に剣撃をくらい、驚きに目を瞬かせる。
「なんで、硬護身をしてんのにいてぇんだよ!」
すぐに脛を打ったシルバーズに剣を振るうが、そこにはもうシルバーズはいない。
「それはのう、きちんと纏うことが出来ていないからじゃのう。ムラがあるのじゃよ。魔力に」
「ムラ?」
「そうじゃ、魔力がきちんと纏うことが出来ていない所があるんじゃよ。しっかりと意識をするのじゃ。でなきゃ、もたなくなる、ぞ」
シルバーズの打ってくる剣撃を迎え打とうとするがグレイの剣だけが風を切り、シルバーズの剣撃はグレイの腹を打った。だが、想像していた痛みは来ず。グレイは笑顔になる。
「ジジィがべつに魔力にムラがある場所が分かる訳じゃねぇんだな」
「どうじゃろうな?」
シルバーズはグレイの発言の返答を濁らせ、それに答える事なく修行を続けた。
シルバーズは力を調整していた。現在のグレイの硬護身の魔力ならばシルバーズの攻撃はやすやすと通ったであろう。だが、まだムラのあるグレイに硬護身を突破するほどの痛みを与えた場所が魔力の少ない場所であったら直ぐに重傷を負ってしまう。今回の修行の意図はそこであろう。ムラの出やすい場所に気付かせるという。
──1日目
「昨日の怨みぃ!」
グレイは攻煌神体になった状態でシルバーズに斬りかかった。魔力が身体中を巡り、拍動がいつもよりも早く鳴り。身体に熱を帯びる。
上段から繰り出されるグレイの攻撃をシルバーズは焦る事なく腕を上に挙げ、前腕で受け止めた。硬質な音がなった。
「なんじゃ? 儂に気を遣わずにもっと本気で打ってきても良いのじゃよ」
「気なんか遣ってねぇよ。このクソジジィ!」
「ほれ、儂は木剣もいらないのじゃ」
「なめやがって!痛がれやジジィ!!」
シルバーズは木剣を放り、無手になった。グレイは何度も何度もシルバーズに木剣を当てた。鉄を鍛錬するような硬質な音が空気を震わせる。それに混じるのはシルバーズの苦鳴ではなくグレイの荒い呼気であった。シルバーズは一歩も動いてはいなかった。
今日は昨日とは少しだけ違い『攻煌神体だけを使いシルバーズと戦う。制限時間は夕暮れまで』という内容であった。グレイはその内容に喜び意気揚々とシルバーズに斬りかかったが、実際はそこまで容易ではなかった。
「もう終わりかのう? 」
「まだに決まってるだろ!」
呼吸を整える為に暫し止まっただけでシルバーズがそう訊いてきた。グレイは余裕綽々な態度のシルバーズに苛立ち、再び斬りかかる。魔力を意識して増やし、熱くなる身体を無視して勢いよく振り下ろした、力の限り。
「儂は動かぬ的では無いぞ」
シルバーズは半歩ずれてグレイの木剣を避ける。木剣はシルバーズに当たらず地面へと勢いよく当たった。地が抉れ砂が舞った。
「ほれ、攻撃もできるぞ」
直ぐそばにあるグレイの横顔をシルバーズはパチンッ、とデコピンで弾いた。威力のない音だけが小気味好い澄んだものだった。
「ほれ、ほれ? ほれ」
グレイは怒りに任せて木剣を振るうが、ことごとく回避されその度に空振りの烙印のようにデコピンが打たれた。
「うぜぇー!黙って倒されろやジジィ!!」
「ホッホッ、では、止まるとするかのう」
シルバーズがやっと止まりグレイの攻撃が当たった、がやはりシルバーズにとっては痛みの伴うものではなかった。グレイの剣撃を涼しげな表情で受け止め、デコピンを決める。そんな日になった。
──3日目
3日目は休みになり、グレイは泥のように半日眠っていた。チビは楽しそうにグレイの近くを這い回り、グレイの上に乗ったり指を甘噛みしたりなど眠っているグレイを玩具のように遊んでいた。
──4日目
「ほれ、じっとしてたら攻撃されるぞ」
本日はグレイの予想通りの『魔法刀身だけを使い、シルバーズと戦う。制限時間は夕暮れまで』という修行内容であった。
それはグレイが苦手だから使ってこなかったものでもあった。
魔法刀身は文字の如く魔法を剣に纏わせて使う技である。その為には硬護身などとは違い、魔力を魔法に変換させてその魔法を使わないといけないという、グレイにとっては苦手なものであった。
魔法のコントロールは魔法の得意な魔法使いの得意とするもので、魔力のコントロールとはわけが違っていた。
「──っ」
意識を集中して魔力を魔法に変えるここまではまだ容易なものであった。しかし、魔法を木剣に纏わせようとするのが至難の業であった。
魔法の形を変える形状変化は中級魔法を使う魔法使いがするものである。そのためグレイはファイヤーボールなどの初級魔法が出来るが形状変化は得意ではなかった。
シルバーズの木剣をくらった痛みで意識が魔法から外れ顕現した水魔法が霧散した。得意な魔法の属性は人によって変わり、魔力の消費量や魔力のコントロールの難易度が上がる。グレイは炎属性は得意だが水属性は苦手であった。その為グレイの苦手を克服する練習の意味と木剣に纏わせることを失敗しても良い水魔法になっていた。
何度、魔法を顕現させてもシルバーズの横槍により意識が削がれ技を放つまでには至らない。
「だぁあーー!うっとしいわ! 今集中してるだろ!」
「ホッホ、お主が集中すれば敵が止まるなどむしの良い話じゃな。ほれ、足が動いてないのう」
「いってぇな! 足ばっか狙い始めてるんじゃねぇよ!」
グレイはこの日魔法刀身を一度も使うことなくシルバーズに叩かれまくった。
──??日目
修行が続いた。
それは空が灰色になった日も
大きな雨粒が降りしきる日も
雷鳴が轟き世界を震わせた時も
全てを焼き尽くす太陽が燦々と輝く日も
森の葉が寒そうに葉を落とした時も
世界が銀世界に変わった日も……。
── 一年後
ピンク色の綺麗なサランピアの花が咲き誇る時に修行が終わった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。少し駆け足に物語を描いてしまった感は否めないのですが。これでグレイの修行は終わりを迎えました。
そして、本当にあと数話で第1章が終わります。投稿を始めて一年とちょっとになりますが、大変長らくお待たせしました。次の投稿は16日には間に合うと思います。
そして最後に、毎度遅筆な私の作品を読んでくださりありがとうございました。本当に嬉しく思っております。
以上、長くなりましたがこれで後書きを終わらせて頂きたいと思います。今後ともよろしくおねがい致します。




