3.何の肉?
陽光が真上から照り出した、昼。
玄関の扉が数刻振りに開かれる。今帰ったのじゃ。の大きな声と共に勢いよく開かれた扉の音に、ベットを堪能していたグレイは飛び上がり、その行為を誤魔化すかのように文句を垂れる。
「ジジイ何処行ってたんだよ! なんで飯の準備にこんな時間がかかるんだよ!」
「すまんのう、張り切っておったら時間がこんなにも立っておってのう。目当ての魔物を見つけるのに中々時間がかかってしもうた。じゃが代わりに、と言うとなんじゃがグレイが。『ぐるじぃー。美味し過ぎて、腹が破裂しそうなほど一杯食ったのにまだまだ余ってるよ。こんな美味しい肉が腹一杯食べれるなんて俺、師匠の弟子で良かったよ」なんて言って感涙してしまいたくなる程の肉を取ってきたんじゃ」
「腹が一杯になっても、まだまだ余る程の肉なら余程デカイんだろうな」
グレイは玄関から一向に向かってこないシルバーズに近付きながら吐き捨てる。
「分かっておる、百聞は一見にしかずじゃ、こっちへ来て見てみるんじゃ。見たら驚いて腰を抜かすぞ」
シルバーズは身を翻し此方を手招きで呼ぶ。その顔は年甲斐もなくイタズラ小僧の様な顔をしていた。
「はっ、オーク位の肉なら王都でも何回か見たことが––––––」
有る、と言葉を続けようとしたグレイは見上げていた。ログハウスよりも大きく見える肉の塊を。その唖然とする顔をシルバーズは覗き込み、勝ち誇った顔をした。
「これはのう大型のドラゴンでのう。ここら辺に生息しているドラゴンの中で一番美味しいドラゴン。レットドラゴンを取って来たのじゃ。じゃて、グレイは腹が空いている様じゃし、早速自分で好きな分の肉を取ってあの焚き火に当てて焼いて食べながら、これからの事を話すとするかのう」
シルバーズが指差した場所には、グレイが水浴びをしている時にには無かった焚き火が有り、周りには岩が不自然に2つ置いてある。その岩は上の表面が何かに斬られたかの様な断面でツルツルしてた。
「ドラゴンって、マジかよ」
グレイは知っていた。いや、正確には聞いた事があった。ドラゴンは途轍もなく強いと、この肉塊がドラゴンの肉であるかどうかは定かでは無いが、これ程大きな肉は見た事がなかった。ドラゴンじゃないとしてもこれ程までに大きな肉を有している魔物だとすると、強くないとここまで大きく生き残らないだろう。
「ほれっ、ボーっとしてないでさっさと食べるぞ。話したい事も沢山ある事じゃしのう。それに腹が減っておったのでは無かったのかの?」
シルバーズは掌サイズの肉塊を持ちパチパチと爆ぜる音が聞こえる焚き火へと歩いて行く。グレイは素手で肉を引きちぎり、シルバーズの後を追い対面の岩に腰を下ろした。
「これに刺して焼くと良いぞ」
グレイはシルバーズから研がれた木を受け取った。シルバーズは自分用があるのか、肉を刺し地面に突き刺した。肉が丁度火の真上にあたる。グレイも真似し、木を地面に突き刺した。
「さて、これからの事を話そうかのう」
シルバーズは肉から滴る脂が焚き火の中へ落ちる様子を見終わると此方へ視線を動かした。
「グレイ、お主は力が手に入ったら何をしたい?何がしたいのじゃ?」
「俺は、、、」
グレイは考える。何故強くなりたいのかを、弱者は強者に搾取される存在だ。その搾取される側から搾取する側に変わりたい。今迄力で奪い取られて来たものを力で取り返したい。そう思い答える。
「俺は……ただ。搾取される側から搾取する側に変わりたい。俺から物を奪った奴等を力でねじ伏せ、後悔させてやる」
シルバーズは眉根を寄せ悲し顔をした。
「力でねじ伏せてどうするんじゃ? ただ単に、はいはいと相手が従うかのう。 ねじ伏せられる側だったお主はどんな気持ちだったんじゃ? やり返そうとそう思っとるじゃろ。相手も同じ気持ちではないのかのう。そして、また来まてはやり返し、やり返しの堂々巡りではないかの?終わりはいつ来るんじゃ?」
「そんなの俺が一番強くなればやり返される事もない。その為のジジイだろ」
「グレイの考えはわかった。その考え方も含めて師となった儂が正しい道へと導くとしよう。じゃが、まず今日の所は休憩にするかの。明日からはビシバシ修行を始めるからの。明日音を上げぬように、今の内にしっかり休むんじゃぞ。勿論、鱈腹肉を食った後でじゃがな」
シルバーズ自分の棒を持ち、肉を差し出した。その肉を受け取ったグレイは肉を一口頬張ると感涙した。旨さに、久々のご飯に、その両方に。
脂はとても甘くら噛み締めると肉汁が溢れ出てきた。
シルバーズは取ってきた肉を枝にどんどん刺し、どんどん焼いていく。
グレイはお腹が膨らみ過ぎて呼吸が大変になるほどお肉を食べた。