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2.自己紹介

「ここは……何処だ?」


 身体を上半身だけ起こした少年は周りを見渡すと、木で作られたログハウスみたいな部屋に居ることがわかった。


どうして此処に居るのか覚えていない少年は熟考した。


無学であるが故に巡らせる考えは何か気持ち良いものに自分が寝転がっているということに熟考してしまっていた。


ギシギシと体重をかけるとフワフワと押し返してくるこの感触はあのおじさん二人の右のナイフのおじさんが言っていたベッドという物ではないだろうか。


おじさんが云うにはベッドには魔法がかけられており一度寝たら二度とベッド以外では眠れなくなり、二度寝をしなければ起きられないという。


恐ろしいものだと聞いた。魔法の強い物だと三度寝をしなければ起きられないとも云われてるらしい。


少年はその事を思い出しこれがもしかの有名なベッドだとしたら。そう思い少年は掛けられていたふかふかの掛け布団から足を出そうとしたがーー出られない。


少年は初めて感じるふかふかの掛け布団の温もりという魔法によって出られなくなっていった。


昨日はあれ程、外の風が気持ちいいと思っていたのに……昨日?、、、外の風?


「ああああぁぁぁぁーー思い出した!! クソジジイが勝手に連れて来やがったんだ」


  少年は急いで部屋から出ようとした。あの老爺は絡みづらく人の話を聞かないからだ。


見つかる前にとっととこの部屋が出て行こうと布団から飛び出し扉へと向かった。


  動き出した足は止まりくるりと静かに反転し最後にと、掛け布団を思い切り抱きしめ後ろ髪引かれる思いでベットとは反対側ある扉へ手を掛けた。


  少年が引くよりも早く扉が開き、此方へ扉の木の板が思い切りぶつかった。


「おはようさんじゃ! 起きるのが遅いのじゃ、野犬とやらは!!早速朝飯を準備するぞい!!」

 

老爺は扉の前で伸びている野犬に向かって


「はて? まだ眠っておったのか。となるとあれは寝言じゃな。あんな煩い寝言じゃったらスラムでも夜は誰も近づかないであろうな! ホッホッホ!しかも寝相が悪いときた、あんな朝早くにあの場所で出逢ったのは寝相が悪かったからじゃったんじゃな」

 

老爺は大仰に笑い、扉を閉めた。


  「ジジイ、許さねー」


扉にぶつけた鼻と額を擦りながら、ぶつぶつと恨み節を吐く。


少年は窓から出ることに決め、ベッドの隣にある窓を覗いた。見える景色は少し奥に木、木、木。右手の奥を見てみても木、木、木、左手の奥を見ても木、木、木しか無い。

 

窓を開けようと押したとて、引いたとて開く気配がない。もちろん横にスライドさせようとしても開かない。

 

「よし、壊すしかねぇーな。窓は高価だって話を聞いた事があるから気がひけるが、拉致ったのはあのジジイだ。ぜってぇー謝ったり、弁償なんてしねぇ」


 少年には高価な窓硝子を弁償できる程のお金を持った事は無いが、そこはお愛嬌と云うものだ。


乱れた息を整え、右足を窓硝子へと蹴り上げた。ガンっと音が鳴り。


少年は自分の足の指を抑えた。


「いって〜〜〜」


窓硝子は割れる事も傷付く事もなかった。


窓硝子を蹴った音で気が付いた白髪の老爺がやってきて、再び勢い良く扉を開けた。


「おはようさんじゃ!!今度こそしっかりぱっちり起きとるかのう?!」


朝から元気100%の老爺を少年は睨みつけていた。


「かってにこんな所に連れてきてどう云うつもりだジジイ。俺はあんたの弟子になるなんて一言を言ってねぇぞ」


「ホッホッホ、野犬とやらは強く成りたくは無いのかの? 」

 

老爺は静かに問いた。


「強くなりたいに決まってんだろ」


 老爺は少年の返答に満足げに笑い。再び問う。


「強くなるためにはどうしたら良い? 学べば良いじゃろう。誰に学べば良いのじゃ? 儂に習えば良いじゃろ。こんな好待遇な環境他に何処にあるのじゃ?」


  少年は考えた。確かにこの老爺は強かった、メシも食わせてくれるとも言っていた、強くなるための師がいてお腹いっぱい迄食べれるご飯があるこんな環境を求めようとしたらどれだけ大変かなんて、無学な少年でもわかった。


「そんな環境……他には無い」


「そうじゃろう、そうじゃろう」


  老爺は深く何度も頷た。


「さて、じゃあ野犬とやらの弟子入りが決まったは良いが、ずっと2つ名で呼ぶのは面倒じゃのう。まずお主の名前でも決めるかのう何か希望はあるかのう?」


  少年は自分の名前なんて正直どうでも良かった。呼ばれる事など無いに等しいのだから。


「なんでもいい、ジジイが決めて」

 

少年は投げやりに頼んだ。


「そんなんで良いのかのう?一生連れ添う名前だと云うのに」


「なんでもいい、兎に角腹が減った」


「そう急かすな、急かすな。今、儂がお主の為に考えてやるからな。うーん」


  老爺は少年の周りをぐるりと回る。すると老爺が鼻をつまみ。


「お主、やはり臭うのう。家の裏に井戸があるから水浴びをして来たらどうじゃ」


「俺は腹が減って倒れそうなんだ。名前より、水浴びより飯が食いてぇー。契約違反だぞジジイ」


  「それを言うならお主じゃて、師をもっと敬うのが弟子の務めじゃろ?それに大体じゃな。自分の名前を決める。大事な事じゃというのに何でも良いだの、飯はまだかなど云うてな。もっと真剣に考えたらどうなんじゃそれにーー」


「ああー、わかったわかった。水浴びしてくるからパパッと考えとけよジジイ。名前なんて意味の無いものなんだからさ」


老爺はそんな事ないぞと少年の居ないベットに向かって話しかけ続けて居た。


少年は嘆息してそして悩む。強くしてくれるのは有難いが何が目的かが一向に分からないのだ。弟子が欲しいなら市民でも、商人でも、貴族の三男という省かれた者も一杯いるだろう。もしこの老爺がこの世に名を馳せている程の強者だったら貴族の長男でも弟子としてとることが出来るだろう。


考えれば考えるほど思考は停滞する。態々スラム出身の名も無き子を弟子にするなど、少年の学のない頭では理解出来なかった。学のある者でも理解し難い事なのかも知れない。


  少年は部屋をでてまっすぐ向かった突き当たりの扉を開くと草原が広がって居た。


辺りを見渡すと少年はログハウスのすぐそばに有る井戸に気付き地下水を汲みあげた。


久しぶりの水浴びを堪能し、濡れた髪を乾かす為に首を振る。


まるで犬の様な仕草で水気を取った。


ついでに着ていたボロいローブと中に着ていた服を洗った。


  少年が着る服が無くスッポンポンで部屋に戻ると老爺はまだ考えていた。


「ジジイ、服貸してくれ!」


老爺はぶつぶつ呟いていたが此方を見やると、呟くのを辞め返事をする。


「おおっ、そうじゃった忘れておった。確か小さいサイズの服はあっちの部屋にあったはずじゃて。そうだイフクはどうじゃろうか最初に儂から渡した物じゃて。いや、少し安易過ぎるかなのう?名前など呼んでく内にどんどん馴染んでくるものじゃて。あながち良いのかも知れぬな」

 

「いや、もうなんでも良いから早く決めろよ」


  服を取ってきた老爺が少年に服を渡すと、少年が急かす。


「また、急かしおって。急かしたって良い名前など出てくるーー」


老爺は少年の髪を見て止まった。


「お主、髪色は黒ではなかったのか?」


少年の薄汚れた黒色の髪は行水により本来の色味を取り戻していた。

 

「おう、ジジイ、俺の髪色は灰色だぜ。久々の水浴びで汚れが落ちたみてぇだな」


「良し、決めたのじゃ。お主の名前はグレイ。グレイじゃ」

 

老爺は嬉しそうに笑って決めた。

 

少年はこれでやっと飯が食えると共に喜んだ。


「これでやっと飯の時間だよな」


「そうじゃな、何時もならもっと早い時間から飯の準備をするのじゃが今回は少し急がないといけないのう」

 

老爺は窓から見える太陽の位置を確認してから。じゃが、と言葉を紡ぎ話し始める。


「まだ、儂の自己紹介をしておらんかったなのう。儂の名はシルバーズ、ただのシルバーズじゃ。今迄は自己紹介をしておらんかったからジジイと呼ばれても咎めんかったが。師と弟子になったんじゃ儂を師匠と呼んでも良いのじゃよ」

 

少年––––グレイの顔を覗き込み、老爺––––シルバーズはニマニマと問いかける。

 

「そんなことより、はやく飯食いてぇー」

 

グレイはシルバーズの自己紹介をそんな事という一言で片付け、飯を要求した。

 

シルバーズはそんなことと一蹴されたことを深く落ち込み、部屋の端でのの字を描き始めた。

 

「はやく飯食わせろよジジイ」

 

グレイがそんなの御構い無しだと言わんばかりにシルバーズを呼ぶ。


  シルバーズは頬を叩き気合いを入れた。


「良し、飯の準備をするから待っとくのじゃぞ。今日は、お主が儂の弟子になった記念日と名前が決まった2つの記念日じゃ。張り切って準備をしようかのう」

 

そう言うとシルバーズは部屋から出て、家からも出て行き。数刻、家に戻る事は無かった。

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