変異種
20年㋅7日 ※通常のワイバーンを追加しました
枯れ木の燃え爆ぜる音がする。その音に同調するようにタマゴの焼ける音が大きくなった。
「スゲー、いい匂いだな!」
グレイはログハウスから出てきて熱された石の上でタマゴを焼いているシルバーズに声を掛ける。フワフワな白身の上に大きな卵黄が光り輝く。
焚き火のそばには串焼きがいくつも並んでいる。肉から滴る透明な肉汁が垂れて燃え盛る炎に落ちる。ジュッと音を立てて消えた肉汁。
タマゴと串焼きの甘い匂いが辺りを包む。
「そうじゃろ、この匂いが食欲をそそるんじゃよ」
「早く食べようぜジジイ! 腹が減りすぎて家にある魔力草を食べちゃいそうになっちまいそうになったぜ」
お腹を抑え腹が空いてるアピールする。その姿を真似するようにグレイの頭の上に乗っているチビワイバーンはお腹を抑え、弱々しい鳴き声で空腹をアピールする。
真似するチビワイバーンの仕草とグレイを見たシルバーズは白く伸ばされた無精髭を撫でて笑みを浮かべる。
「そのまま食べればよかったのにのう、残念じゃわい」
「残念じゃねーよ、あれを食った後なに食ったって美味しく感じなくなっちまうじゃねーかよ」
シルバーズの対面に置かれた石に座りながら、食わなかった理由を言う。
すると、シルバーズもその苦味が苦手なのか仕切りに頷く。
「まぁ、苦手でも食わないと魔力保有量は上がらぬからのう」
「ジジイもあの苦味苦手だったのか?」
グレイの問いかけに今朝食べた魔力草の味を思い出したのか顔を顰める。
「と、得意ではないのう、昔から良く飲まされていたのじゃがなかなか慣れなくてのう、よく剣神様に隠れて捨てていたのう」
昔のことを語るその顔はいたずらっ子が自分の武勇伝を自慢するような顔だった。年に似合わない無邪気な笑顔を浮かべていた。
「だから、剣神の弟子の中で魔力保有量が少ないんだな」
グレイの的確な指摘にシルバーズの目は泳ぐ。先ほどの笑顔は消えて決まりの悪そうな顔を浮かべ顔を逸らす。
「そ、そうとも言えるじゃろうな」
大粒の冷や汗が頬をつたう。珍しいシルバーズの動揺。
「やっぱり俺、後から魔力草食ってくるわ」
「それが良いじゃろうな……。魔力が多すぎて困る事は少ないが魔力が少な過ぎて困る事は多いからのう」
囁き、問うように放った言葉はグレイにではなくシルバーズ自身に言っているようであった。
「そうじゃ、晩御飯を食べる前に一つ儂からも聞いても良いかの? そのチビワイバーンの事なのじゃが」
グレイの頭の上にへばり付いているチビワイバーンへ視線を送り、話題を変えた。
「このチビワイバーンは今日取ってきたタマゴの中から生まれたんだぜ。なにかおかしいのか?」
「おかしいもなにも不思議な点が多いのじゃよ。孵化するには早過ぎるし、鱗の色もここ周辺に生息しているワイバーンとは違うのじゃよ」
「たしかに、そうだったな」
グレイがこのログハウスから見ていたワイバーンのそのほとんどが緑色をしていた。グレイはへばり付いているチビワイバーンを頭から引き剥がし、観察する。
まだ柔らかい銀灰色の鱗が全身をお覆い尽くしており。前脚には突いたら破けてしまいそうな薄い飛膜が胴体まで伸びていた。
体長の大半を占める長い尾。
そして、
「この小さい翼って付いてる意味あるのか?」
背中にちょこんと可愛いく乗っかっている翼があった。
「そうなんじゃよ、その翼はワイバーンの背中には通常存在せんのじゃよ。さらにここ周辺に存在するワイバーンにグリーンやレッド、ブルーなどのワイバーンと数の少ないポイズンやサンダー、アイス、ロックなどのワイバーンは知っとるのじゃが銀色のワイバーンは初めて見たのじゃよ」
「じゃあ、こいつはワイバーンじゃねぇのか?」
グレイはチビワイバーンを膝に乗せてチビワイバーンの前脚を上げたり下げたりしながら聞く。
チビワイバーンはその動きが、楽しいのかこそばゆいのか嬉しそうに「キュアア、キュア」と鳴き声をあげる。背中の羽もパタパタと気持ちと同調するかのように動いた。
「そんな事は無いと思うのう、多分あれじゃろうな」
シルバーズは思い当たる節があるのか考えるのをやめてチビワイバーンを珍しそうに眺めた。一所懸命に動く小さな翼にシルバーズの広角が上がった。
「あれってなんだよ、一人で納得してねえで教えろよ」
「変異種または異形種、特異種などと様々な呼び方で呼ばれている個体じゃな。通常種にはない特徴を持っておりその特徴は千差万別らしいのじゃよ。見た目の醜い特徴だけ持っているものや、能力として特徴的なものを持っているものなどさまざまなものがおるじゃな」
「凄ぇじゃねーかチビ! で、こいつの能力はなんなんだ?!」
グレイはチビワイバーンを頭上で振り回して喜ぶ。チビワイバーンの視線はクルクルと回り定まっていない。
そのままチビワイバーンをシルバーズへ突き出す。シルバーズはグレイのチビワイバーンにたいしての行動を優しく窘める。
「それは、わからんのじゃよ先天性変異種のほうじゃからの。後天性変異種ならばある程度予想がつくのだがのう」
「先天性? 後天性ってなんだ? なにが違うんだ?」
「先天性は生まれた時から変異種である個体でのう。後天性は何故かわかっておらぬが、その地に生息している個体が更に自分が住みやすいように自身を変異させることがあるのじゃよ。環境適応変異ともいわれておるが、その後天性変異ならある程度予想できるじゃろう? じゃが先天性は手がかりがないからのう皆目見当がつかないのじゃよ」
「そうなんだな、楽しみだな」
シルバーズに窘められて気を付けているのか。頭にゆっくりと乗せた。
背中を撫でる。
すると小さな腹鳴がグレイの頭上から鳴る。可愛らしい小さな音だ。その音に続くようにグレイのお腹も鳴り響く。
「すまんのう、ちと話が長すぎたのじゃようじゃの。話は食べながらにするかのう」
串焼きをグレイへと渡して、恥ずかしそうに頭を撫でた。グレイは‘“いただきます”と受け取った串焼きを一口頬張り、ハフハフと口の中の熱を逃がす。
食べ終わると串焼きを指で千切り、アチチッ、と言いながら手を振り掴んでいる小さな肉を冷ます。冷めた肉はチビワイバーンに差し出し、チビワイバーンは嬉しそうにかぶりついた。
「さっきの話の変異種のことで面白い話があるのじゃよ」
グレイは肉を一心不乱に串焼きを頬張り、咀嚼中にチビワイバーンにお肉を分けていた。
聞いていないようにみえたグレイだが、なかなか話を始めないシルバーズに視線で促す。
「まぁ、なんじゃ、食べながらでも聞いていればよいのじゃよ。儂も食べながら話すでのう」
串焼きを一つ取る。
「変異種じゃが、魔物や生き物だけじゃない人間にもいるのじゃよ」
串焼きを口に入れ咀嚼をする。だが咀嚼音は何一つ聞こえなかった。
「魔眼や加護などが、そういわれておるのう」




