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震えるほどの威圧

  「ポーションは要りますか?」


  ポーションを紫髮の男が瓶を振り、揺れる紅の液体を見せてくる。


  「––––––っ」


  グレイは回らない舌を動かし呻く。


「おやおや、これは大変だ」


  軽薄な口調でグレイの口元にポーションを入れて流し込むがグレイは上手く飲み込めず、口から垂れ流れた。


「しっかり飲まないと治りませんよ」


  グレイを抱きかかえ、ゆっくりとポーションを飲ませる。


  チビワイバーンはグレイに抱きついたままグレイを守るように紫髮の男を睨んでいた。


  「そんなに睨まなくても大丈夫ですよ。何もしてませんからほらっ、あっ––––」


  何もしていない事を証明するために挙げられた両手は抱えていたグレイを地面へと落としてしまった。


  ガンっと鈍い音がなり、グレイは渋い顔で呻き声をあげた。


  「失礼、でも私は悪くありませんよ。そこのちっちゃなワイバーンが私の事を疑ったから無実を証明するために手を離しただけですよ。もちろん他意はありませんよ」


  紫髮の男は微笑を浮かべたままグレイに弁明するが痛みに苦しむグレイの耳には入って来なかった。


  ––––熱い。


  何故かグレイの身体は熱を帯び、次第に呼吸も荒くなった。


  「おやっ、もう効き始めましたか。やっぱり若いと早いですね」


  紫髮の男の言葉はぼやけるているように言葉とは認識できず音として脳へと入ってくる。


  ––––苦しい。


  動かぬ身体の中で骨と骨が接触する部分を無理矢理溶接しているような熱と痛みが身体を支配する。


  「キュア! キュア! キューー!!」


  様子のおかしいグレイをチビワイバーンは察し、その原因であろう紫髮の男へと可愛らしい咆哮をあげる。


  そんな姿を笑顔を崩さぬままゆっくりと膝を払い立ち上がって見下ろす。


  「そんなに威嚇しないで下さいよ、先ほども言いましたが何もしてませんよこのポーションのせいでなっているんです」


  空になったポーションを警戒を解かないチビワイバーンに見せて。本当ですよ、と言葉を続けた。


  「このポーションは自身の魔力による自己再生を早める効力が入っているんですよ。通常、魔力草の入っているポーションが一般的で魔力草の魔力で身体を治すのですがこのポーションは自分の魔力または魔力が足りない場合は自然魔力をオドで急速に自身の魔力に変えて治すのですよ。今回は後者のようですね」


  熱と痛みとは裏腹にぼやけていた視界は定まり始め、認識されなかった言葉も鮮明に脳が理解出来るようになってきた。


  だから、聞こえた。


  紫髮の男の言葉が。


  「それにしても可哀想ですね、こんなに傷を負っていても助けに来ない人のもとで修行をしているなんて」


  「––––ちげぇ」


  検討違いな事を呟き、ワイバーンの元へと向かおうとする紫髮の男はグレイの呻き声とも取れる声に振り返り気味の悪いほど変わらない笑みを浮かべた。


  「ダメですよ、無理をして喋るのは。治るものも治りませんからね」


  「ちげぇんだよ」


  「何がですか?」


  紫髮の男は小首を傾げグレイを見る、流れた髪が今まで隠れていた左眼を晒す。


  右眼は、髪色や魔石と同じ紫色ではなく草葉を連想させるような淡い翠色であった。


  「俺が勝手に無茶したんだよ、ジジイはかんけぇねぇ。勝手に悪く言うんじゃねぇよ」


  紫髮の男の両眼が微かに細められ、森へと身を反転させた。


  その背中にグレイはジジイの事を話し始める。


  「ジジイは空腹な俺にご飯をくれ、力無い俺に力の使い方を教えてくれた。薄汚い格好の俺に綺麗な服をくれた。俺のことを救ってくれた数少ない1人なんだよ」


  「そこまで尊敬するに値する人なのですかね?」


  静かにこぼす底冷えのする低い声はグレイには聞こえない。


  「そうなんですね。そんなに尊敬できるジジイさんには一度会ってみたいですね」


  底冷えのする声とは一転して通常と同じ軽薄そうな口調で話す紫髮の男。


  グレイはシルバーズに対する誤解が解けた事に安堵して、動かせるようになった身体を起こし近くの木にもたれかかった。


  「可哀想に、真実を知らないなんて」


  「どういう事だっ––––」


  グレイの張り上げた声はいきなり首を絞められたように出なくなった。


  「少し静かにして下さいよ」


  震えるほど気温は低くないのにグレイの身体は小刻みに揺れ冷や汗が背中を伝う。

 

  遠くからはワイバーンの鳴き声が聞こえ、空へと向かう為の羽音が森に響く。


  「やっと静かになりましたね。では教えましょう……その服あなたのために買われたものではありませんよ」

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