知らぬ男
タイトル変更しました。
「おい、チビワイバーン。何勝手に俺の食料が俺以外に食われようとしてんだよ。それに目を瞑るの減点だ。死を受け入れる前に抗えよ」
徐々に閉じていく顎門を抑え込む腕は筋張り悲鳴をあげる。
「なにすればいいか……わからないなら……ただ走って逃げればいいんだよ……簡単だろ」
苦鳴を洩らし、攻煌神体の方へ多く魔力を注ぐ。
ゆっくりと開かれる顎門、硬護身体の纏う魔力が少なくなり牙が手に食い込む。
掌から滴る血液が血の池へと落ちていく。
ポチャンッ、と跳ね上がった血を見て騒ぐチビワイバーン。
グレイは顔を歪め、横面に蹴りを入れる。
「こうやって、隙を作ってな!!」
グレイのいれた蹴りは大きく開かれた瞳を穿ちワイバーンは叫び声を上げる。
ワイバーンはグレイから離れ周りの樹木を尻尾で薙ぎ倒し暴れ回っていた。
両の目は閉じられており、左の瞼からは血の涙が流れていた。
「よしっ、さっさっと帰るぞチビワ……。まぁ、どっちでもいいけど付いてくるか、逃げるかするなら今だぞ。俺はタマゴを持って直ぐ逃げるからお前を縛る時間はない。
早く決めろよ」
身を翻し話し掛けたがチビワイバーンが付いてくるとは限らないことに気付き、落ちたタマゴを拾いに行きながら話を続けた。
「キュア!! キュア?! キュア!!」
「その鳴き方は付いて来ないっていうことだな」
拒絶する様な鳴き声に心なしか悲しそうな声音を出しながら振り返るグレイ。
視線をチビワイバーンにむけるがチビワイバーンはこちらの方を見てはいなかった。
驚愕に見開かれた瞳を時々後ろに向けて、這々の体で逃げていた。
グレイはチビワイバーン向けている視線の方に視線を送ると振り回していた尻尾がチビワイバーンへとあたるところであった。
「ガハッ……」
いつのまにか走っていた。ワイバーンのタマゴを放って。
攻煌神体に送る魔力を最大にして全速力で走った。
硬護身体は魔力の供給がストップし、徐々に魔力の霧散が始まっていた。
背中に打たれた鞭のような強靭な尻尾。
鋭い痛み。
跳ね飛ばされたグレイは再び木を倒し続け、地面へと転がった。
「キュキュア!? キュア!?」
グレイの腕の中にいたチビワイバーンは、グレイの頬をペチペチと叩く。
身体は言う事を聞かなく、呼気も浅い。
「おや? こんな所に子供がいるなんて、ふふっ。おかしいものですね」
朦朧とした意識の中、男の声がした。姿はぼやけてよく見えず。ただ、紫色の長髪を認識することしか出来なかった。