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タマゴ

 

  「ここにいるのか」


  正面からは見えなていなかった裏側に大きな樹洞を発見した。


  中に入ると天井には枝葉が覆っているだけで日光がほどよく入ってきており樹洞は暖かい光に包まれていた。


  中央では車座になって何かを食べているのか猿達が騒いでおり。グレイには気が付いていないようであった。


  「あの時のお返しを持ってきました。だから、しっかり受け取れよ! “ストーンボール”」


  こちらの詠唱に気付きグレイの方を見た猿達。ひときわ大きな猿が大きく息を吸い仲間へ指示を飛ばそうと鳴きだそうとした瞬間その猿はグレイから放たれた石が顔面にめり込み樹木の壁にまで吹き飛び体液を壁に付け、落下した。


  残りの猿達は混乱することなく床に置いてあった武器を持ちだした。


  錆びた長剣や錆びた盾。触れただけで折れてしまいそうな錆びた細剣。その中にはグレイの見慣れない、赤い魔石の埋め込まれた木の杖を持っている猿もいた。


  「そう慌てるなって、ちゃんと平等にお返しはあるからよ」

 

  グレイはストーンボールを射出させ猿達を壁の模様へと変えていった。


  「あとは猿達の後処理とタマゴの回収、そしたらやっとワイバーンだな!」


  グレイは壁に固まっている猿達を回収し地面へと投げ捨てた。


  「ほかに猿はいねぇよな?」


  グレイはあたりを見渡し他の魔物を探すが魔物は1匹もいない。グレイは視線を何気なく中央へ向けるとそこには光り輝く金色の卵黄を乗せた白身の雲があった。それは優しいにおいを発してグレイの鼻腔をくすぐり、口には唾液の分泌がとめどなく行われた。


  「腹へったし、ちょっとぐらいいいよな」


  グレイは生唾を飲み込みタマゴの前に座った。熱せられた石の上に乗せられたタマゴを掴み一口かじる。


  「めっちゃうめぇー!! 」


  ハフハフと息を漏らしながら1人感想を叫んだ。


  「こいつはこれ以上にうめぇのかな」


  蔓を緩め、下ろしたタマゴを掲げその味を夢想していたその時タマゴが揺れだし気を抜いていたグレイの手をするりと抜けると床へと落ちてしまった。


  驚きの声が漏れると同時に床へ当たったタマゴが鈍い音を鳴らすと再び揺れが激しくなった。


  タマゴに上から下へと亀裂が入りさらに揺れの激しさを増していく。


  「キュアキュアー」


  タマゴの殻を破り、銀色のワイバーンが産声をあげた。


  初めて見る景色を楽しんでいるのか鳴き声をあげながら周りを見渡していた。

 

  そのとき固まっているグレイを発見したワイバーンは好奇心か、それとも鳥が生まれて初めて見たものを親だと思い込む刷り込みみたいなものなのかわからないがつぶらな瞳をグレイへ向け前足にあたる飛膜のついた腕と小さな後ろ足を使いグレイの方へゆっくりながら近づいていた。


  「俺のタマゴが割れたぁあ!! 食いたかったのに! このタマゴ以上にうまそうだったのに!! 」


  グレイの気迫のこもった言葉にワイバーンは動きを止める。

 

  「いや、まてよ。 タマゴはまだ外にあるしワイバーンの肉は肉でうまそうだな?」


  「キュア!? キュキュア!? キュア!」


  ワイバーンはグレイの言葉を理解しているのか後ろへと逃げようと一生懸命飛膜を広げ動かしていたが全く飛ぶ気配は無く何度もよろけてひっくり返っている。


  背中に付いている小さな翼もパタパタと必死に動かしていたが、意味がないように感じる程度の微弱な風しか発生していなかった。


  「なんでも若い肉の方が柔らかくてうめぇってジジイが言ってたしな。だけどなぁ、こんなに小せえとすぐ無くなっちまうしなぁ」


  ワイバーンは飛ぶのを諦めて、覚束ない四肢を動かしグレイに気付かれないように逃げだそうとしていた。


  「よしっ、俺が食べ頃になるまで育てるか! 大きくなったら腹一杯に食えるよな」


  ワイバーンの身体を片手で持ち上げ暴れまわるワイバーンを蔓で背中にくくり付け、タマゴを再び食べ始めた。


  「いたっ、いてぇわ!! これでも食って大人しくしてろ」


  バシバシと尻尾や腕でグレイに抵抗するワイバーンの鼻先にタマゴの切れ端をあてる。


  鼻を動かし鼻先に出されたタマゴを食べる。


  「キュア!? キュアキュア!! 」


  タマゴの味がよほど美味しかったのかバシバシとグレイを叩きタマゴを要求し始めた。

 

  「うめぇか? さっき産まれたばっかなのに食欲旺盛だな」


  「キュア! キュア!」


  「いてっ、今ちぎってるだろ! 少し待ってろよ! 分かった!分かったからほらっ黄身の部分もうめぇから食っとけ!」


  グレイがタマゴを小さくちぎりワイバーンから要求がなくなるまで食べさせたのだった。


 〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆

 

  「やっと静かになったと思ったら寝ちゃってるな。 結局タマゴは半分以上食うし、小分けしてちまちまあげてたから時間はかかるし、はやくこいつ大きくならねぇかな?」


  樹木の壁を下っているグレイは太陽が沈み始め、黄昏時になってしまった空を眺めながらそんなことを独り言つ。


  ワイバーンは夢の中でもグレイに食事を要求しているのか背中をパシパシと時々叩いているが攻煌神体こうこうしんたいを纏っているグレイには猿の攻撃よりも痛くないため気にすることなく心地好さそうに寝ているワイバーンを起こさぬように静かに本来の目的である樹木の側面に置かれていたタマゴの回収を行おうとしていた。


  「ここにあるタマゴ持って帰って今日はもうワイバーンは諦めるか。家に着く頃にはもう真っ暗だろうからな」


  タマゴの置かれた木の枝葉の上で2つのタマゴを小脇に持ちもう1つを服の中にいれ蔓で腰元をぎゅっと縛った。


  「あれ? 足りねぇ。 猿達は5匹でタマゴを巣から取ってったんだったよな。だからタマゴは元々5個あって、1つはこいつになったから4個になってるはずなのに3個しかねぇじゃねぇか。落としちゃったのか?」


  下を覗き込むがタマゴが落ちて割れた痕跡は見当たらなかった。


  「まぁ、3個もあれば十分だし。さっさと帰るか」


  グレイは樹木から降りシルバーズのいる家へとワイバーンの様子を気にしながら復路を走るのであった。



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