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猿の樹木

  崖を登ったグレイは森の方を見やる。視線を巡らせ猿達を探したが姿は見えない。


  「あれだけ石を俺にぶつけておいて……そうだ、あれだけお土産をくれたんだ。お返ししないのは失礼に当たっちゃうよな」


  眉尻を震わせ、口角を無理矢理上げ森を睨んだ。壁を降

るため攻煌神体と硬護身を纏っていた魔力は怒りで霧散していた。


  その事に気が付いたグレイは再び纏わせる事はせず、鼻にだけ魔力を循環させた。嗅覚を強化する為に。身体強化である攻煌神体こうこうしんたいも同様の効果もあるが鼻にだけ集中して魔力をコントロールする事で、更に広範囲の香りを選別する事が出来るのだ。


  感情によって霧散する魔力操作はまだグレイの腕が未熟なものだと分かるものであった。


  今現在修練中である、2つの流派同時行使が霧散した事に舌を鳴らしたグレイは鼻を鳴らしながら猿のにおいを探った。


「さっそく、見っけ」


  2つにおいの出所がある事に不思議がるが、1番匂いの強い居場所を把握した事に嬉々と獰猛な笑みを浮かべた。その姿は獣のようであった。


  深く息を吐き、昂る精神を落ち着かせ魔力を循環させ再び攻煌神体こうこうしんたいを纏う。四肢に力が入り、地を穿ち走った。


  森へ入り匂いの方へと向かうと、石と石をぶつけ合っているような甲高い音が聞こえる。


  目的の猿の匂いが強くなると共に耳をつんざく音が鳴り響く。


  グレイは気配を殺し、樹の幹から居るであろう樹を覗いた。


  視線の先に見える猿に悪い笑みを浮かべるが、すぐにその表情は崩された。それは、周りに他の仲間がいない1匹の猿が手に収まらない程大きな石を持ち、卵を何度も叩いている姿を見たからだった。「テメェ、俺の卵になにしようとしてんだよ」と心の中で呟くと同時に、樹の裏から飛び出す。


「割れないなら手伝ってあげるよ。まぁ、割るのはテメェの頭だけどな!」


  グレイは猿の頭を掴み地面へ叩きつけた。頭を打ち付けられ脳震盪を起こしたのか、猿は抵抗する事なく伸びていた。


  その様子に気付いていないグレイは、地面に熱いキスをしている猿の頭を持ち上げ、再び地面とのキスをさせるという所業を繰り返した。


  「これがあの時投げられた石の分! これが俺の卵を殴った分だ!」


  一通りお返しが出来たのか。魔石を取り、後処理を始めた。始めて見る魔物を持ち帰りたいが他にもやる事があるためこの魔物を処理する事に決めたのだ。


  「あっ、卵」


  猿の事を考えていて忘れてしまっていた卵に視線を向ける。あれだけ石を叩きつけられていたはずなのに目立つ傷が1つも見当たらない綺麗な状態だった。


  卵が割れていない事に安堵し1つ息を吐く。


「これ持ってワイバーンを倒してから帰るだけでもいいけど、腹の虫は収まらねぇな」


  崖を降る途中で見上げた光景を思い出し、卵を側に巻き付いていた蔓を切り背後せなかに卵をくくりつけた。


  なんどか飛びまわり落ちないことを確認すると、もう一方のにおいのする方へ体を向け。


  「よしっ、残りも倒すか」


  笑みをこぼすのであった。


 〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆


  「7匹目、8匹目」


  襲い掛かる猿達をグレイは袈裟懸けに切り捨てて歩く。


  ときより当たる上からの投石を腕で弾き流し、目的の場所まで進む。


  グレイが辿り着いたのは一際ひときわ大きな樹木を囲むように乱立した猿達の木の巣であった。枝木や蔓があちらこちらに巻き付いており、その上には数十匹の猿達が見下ろしていた。


  白い鋭い歯をむき出しに威嚇をしている猿や蔓に揺れながら甲高い鳴き声で威嚇する猿の姿が見えた。


  グレイはあの時の猿達の居場所を特定しており、その場所を見据えていた。


  「あのデッケェ木にいるのかよ」


  一際大きな樹木を見上げ感嘆する。においは眼前の樹木から発生されており、中腹の枝葉にタマゴが包まれているのが小さいながらも見えることから確信へと変わった。


  「だけど、その前にガヤがうるせぇんだよなぁ」


  左右に乱立している木の上で騒いでいる猿達を横目に、地面に落ちている小石を拾った。


  「あいつとあいつかな?」


  片手で投げて掴みを繰り返し弄んでいた小石を左右の猿へと投げた。


  勢いよく額に当たった猿2匹は枝の上から弾き飛ばされた。鈍い音が鳴り、先ほどの猿が地面に当たった事を知らせる。


  その音を耳にした猿達を静寂が包み込んだ。先ほどまでは聞こえなかった風にそよぐ葉音まで聞こえてきそうなほどの静寂であった。


  グレイは樹木へと静かに踏み出そうとしていたその時、めざとくその姿を見つけた猿が叫んだのを皮切りに、再び鳴き声の合唱が始まる。


  その最中、下へと降りてきている猿達の姿が見えた。


  「正解!」


  グレイは指を鳴らし、おりてきた猿と枝の上にまだ居

る猿達をみた。降りてきた猿は左右に存在しており、こちらへ興奮したように襲い掛かってきた。


  その猿達は先ほどの落ちた猿のすぐそばにいた猿。


  右から7匹、左から8匹の猿が統率もなくバラバラに襲ってきた。


  「やっぱりリーダーがいるな」


  グレイの予想通り司令塔となるリーダーがグループの中に存在している。今襲ってきている左右の敵はリーダが別々であり、そのリーダーがグレイが倒したあの猿であったことが確定した。


  「あの猿2匹少しデカかったからな」


  グレイは枝の上にいる猿の中のリーダーの探しながら地上の猿達の攻撃をかわしていく。


  「みっけた」


  枝の上で投石している猿達の中に身体の少し大きな猿が2匹混じっていた。


  枝の上の猿達は小石や石、何かの食べカスなどを投げ付けてくる。


  速度は速いが命中率がすごく低く当たる回数は少なく硬護身こうごしんを纏っているグレイには当たってもそれほど痛くはない。大人の本気のデコピンを当たったぐらいである。打ち所が悪いと村人なら亡くなってしまう強さなのだがグレイにはよくわかっていない。


  「時間ないし早く終わらすか」


  手にある石を全て猿へと当たった。小石の数が少なかったのか枝の上の猿を全部倒すことは出来なかったようだ。数匹の猿が逃げだし枝の上には猿が見えなくなった。


  「じゃあ、残りの敵も倒すか。 1匹目、2匹目……」


  地上の敵を倒し終わり辺りが所々赤く染まった。無造作に倒れている猿達は処理など施されておらず、まだ魔石も抜いていなかった。


  「こいつらは後から片付けるとして、お待ちかねのプレゼントのお返しに向かうとするか」


  まわりの樹から樹木へとつたいあの時の猿が居るであろう樹木の頂上へと猿のように登るのであった。



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