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準備

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  「さて今日の修行は、っと言いたい所なのじゃがな」

 

  朝食中、シルバーズは話を切り出した。ここ最近は、食事の会話がてらに修行内容を発表するのだが、今日は違うようだ。


  シルバーズと出会って早1年が過ぎ去った。3日に1日のペースで修行を繰り返し、3日に1日の休みは各々自由に過ごし、時々シルバーズから遊びのお誘いがあるのだが、今日は3日に1度ある休みの日ではない。


  グレイは手を合わせ終え、肉へと進んでいた箸を止めた。


「そろそろ儂の兄弟弟子が来るのでな、グレイには食材を取ってきて欲しいのじゃ」


  食材要求と来訪者の話。食材要求は何時ものことだが、来訪者の話は初めての事である。

  人など居ない山奥のログハウス。森から聴こえる魔物とログハウスの2人の声を除けば常時、静寂に包まれているであろう。

 

  グレイは、箸を口に咥えながら小首を傾げた。

 

「兄弟弟子?」


「そうじゃ、儂の弟弟子でな。一応、3人の後継者の1人でもあるのじゃよ」


  グレイはシルバーズの言葉に疑問を覚え、聞く。


「なんで、一応なんだ? 剣神が選んだ3人の中の1人なんだろ? 」


「そうなんじゃがの」

 

  シルバーズは、腕を組み。唸る。その様子をみたグレイは向けていた視線を外し、眼前の肉に固定し、集中的に肉を食べ始めた。


「こうゆう事は、あまり言っちゃいけないのじゃがのう」


  グレイが、大皿に盛り付けられていた肉を食い終わり、白パンへと手を伸ばした時。シルバーズは声量を抑え、顔をグレイに近づけた。


「あやつは、魔法を飛ばせないんじゃ。それに硬護身こうごしん魔法刀身まほうとうしんも使えん。不器用なのじゃ」


「なぁそれ、声潜めて言う必要あるか?」


  グレイは半眼でシルバーズを睨み、止まっていた手を動かし白パンを掴んだ。シルバーズは、周囲を見渡し。


「誰に聞かれるか、わからんじゃろ」

  と、神妙な顔で言った。


「俺とジジイ以外、誰もいねぇだろ!!」


  グレイは掴んだ白パンを口に咥えながら言う。


「冗談じゃよ。冗談。じゃがのう、周りに人がいないからといって、人の苦手な事や得意な戦いなどを広めるのは、あまり良いものじゃないのじゃよ」


 シルバーズは顔を離し、淹れてから時間が経ち、湯気が昇らなくなった湯呑みを掴み、啜る。


「それは、なんとなくわかるが、なんで硬護身こうごしん魔法刀身まほうとうしんの使えない奴が剣神に選ばれたんだ? 3つの流派を覚えてねぇ奴なんて選ばねぇだろ。普通」


 シルバーズはお茶を啜るのを辞め、ニヒルな笑みを浮かべた。


「もちろん。3つの流派を覚えた奴を、普通は選ぶじゃろうな。じゃが奴は、それを補う程に攻煌神体こうこうしんたいに特化しておったのじゃ。さらに膨大な魔力を持っておる魔力馬鹿じゃしの」


「で、その魔力馬鹿が、なんで来るんだ?」


  グレイは、鱈腹食べたお腹をさすりながら聞く。食卓には空になった銀食器が並んでおり、残っているのは銀食器に色鮮やかに乗せられた野菜だけであった。


  「まぁその事は、彼奴が来てからのお楽しみとするととして、本題に戻るとじゃな」


  湯呑みを置き、グレイを見据えたシルバーズは厳かな雰囲気を醸し出しながら言う。


「今回、取ってきて欲しい食材は、ワイバーンの卵じゃ」


「ワイバーンの卵!? 」

 

  グレイは、椅子から勢い良く立ち上がった。顔は驚愕に支配され、今度はグレイが顔を近づけた。

 

  そんなグレイを気にすることなく、続ける。


「そうじゃ、ワイバーンの卵じゃ。この前取りに行って貰った魔力草の群生地よりも奥の方に、ワイバーンの巣があるでな。そこから1つ卵を取って来るのじゃ」


「ジジイ、本当かよ。本当に良いんだよな!? 」


  グレイは、シルバーズの返答を聞き満面の笑みを浮かべた。

「ああ、もちろんじゃ。ワイバーンは月に一度しか、卵を産まぬからのう。そろそろ巣の方に卵がある頃じゃからの。更に、今朝方巣から飛び立つ姿を見かけたばかりじゃて、当分帰って来ぬじゃろう」


  シルバーズの要求は毎回、魔力草の群生地よりも手前にあるものしか言わず。グレイは森の奥に入った事はないのだ。

  群生地前にいる敵は山犬やグリーンゴブリンなど、弱い魔物しか出てこないのでグレイは、3つの流派を使い分けながら倒し終えていた。


 そんな、グレイが喜ぶ理由は1つ。


「なぁ、なぁ!! ジジイ!? もし、ワイバーンに出くわしちゃったら、戦って良いよな!!」

 

  ワイバーンと戦いたい、ただ1つであった。


「もし、本当に偶然に出会ったなら、戦って良いが。探してまで戦いに行くでないぞ。お主では、まだ勝てぬかもしれぬからの……今更言っても無駄じゃったかのう」


  戦って良い事に舞い上がったグレイは話を聞かずに、使い終わった銀食器を手に、井戸へと向かっていた。


「儂も、朝食を済ませるかのう……」


  そう言い、見下ろした机の上にあるのは、瑞々《みずみず》しい新鮮な野菜が乗せられた皿がポツンと置いてあるだけであった。


  シルバーズは、1つ深い溜息を吐き出すと、息を吸い込み。井戸にいるであろうグレイへ叫ぶのであった。


「グレイ!! あれほど野菜を食べなさいっと言ったじゃろ!!」


「うるせぇ、ジジイ!! ジジイがあんな不味い魔力草なんか入れるからだろ!!」


「魔力草を入れなかったとしても手をつけぬ癖に、言い訳ばっか言いよって!! 魔力草はじゃな、魔力保有量向上の効果があってのう、成長時に食べれば、沢山の魔法が使えるようになるぞい!」


  「だったら、ジジイが食べれば良いだろ!! じゃっ、ワイバーンの卵取りに行ってくる! 」


  グレイの足音は徐々に消えていき、森閑とした。森へと入ったのだろう。


「さて、儂も準備するかのう」

 

  立ち上がったシルバーズは、誰も手を付けていない野菜の入った銀食器を持ち上げ、野菜をつまみながら目的の物を取りに出掛けるのであった。時々、顔が渋くなるのは魔力草に当たったからだろうか。魔力草を避けて野菜を食べ始めたシルバーズの姿は、まるで好き嫌いをする子供のようであった。


  「これじゃ、グレイの事を叱れんな」


  そう呟いたシルバーズは、残った魔力草を一口で頬張るのであった。

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