俺の彼女がおかしいんぐ
はじめまして。人生初の小説発表となります。
「お前の笑顔を他の奴に取られたくない。結婚してくれ。」
中学からの長い付き合いで土曜に泊まりで遊んで行く事も多い彼女にそろそろかなと思いちょっとカッコ付けて求婚した。俺は彼女の目を見ながら片膝を付き右手を差し出した。暫く沈黙が続き彼女は口に両手を当てて顔を赤らめている。そして両手を下ろしたと思ったら、
「分かった。それじゃあ都内の一等地に牧場が出来るくらい広い土地と屋敷が欲しいなっ!」
「はっ?、なっ、おっ、お前はあほかっ!」
テンションの高い満面の笑顔で彼女が言い放ち、俺は思わず立ち上がった。
「これくらいで怒っちゃダメだよ。こんなの今どき普通だよ?」
そんな事をのたまう。こんな奴だったかな。おかしい、どこで間違えた。
「ふっ、普通か。そんな物どうやって手に入れるんだ。」
気を落ち付つかせようとソファーに体を投げ出す様に座りコーヒーを口にした。
「はふん。簡単だよ、大使館を立てればいいんだよ。」
「ぶっはっ、げほっ、けっほっ」
盛大に噴き出したコーヒーは目の前に居た彼女に思いっきりぶっ掛かる。
「きゃーー!! 何するの!! やーん、お風呂っ、お風呂っ!」
そう言って彼女は手を頭の両脇でバタバタさせながら風呂場に直行し、俺は咳が落ち着くのを待って居間を片付け始めた。まさかそう来るとは思いもよらなかったがまあ、都内の一等地と来た時にぶっ飛んだ答えが来る事も予測しておくべきだったか。それにしても何処からあんな発想が来たのやらとコーヒーを淹れ直しながらそんな事を考える。
■
小一時間経ってバスタオルを巻いた彼女が居間に戻って来た、と思ったら素通りしてキッチンに向かう。冷蔵庫を開いて牛乳パックを取り出し、まるで銭湯の瓶入りコーヒー牛乳を飲むように空いた手を腰に当てて体を大きく反らし一気に飲み干した。あんな小っちゃい体の何処に入るんだか。彼女がカウンター越しに言う。
「あー、おいし、んぐ。」
唇の回りをぺろっと舐める仕草がちょっとエロいんぐ。
そして突然怒りだす彼女。
「酷いじゃない! いきなりぶっ掛けるなんて!」
「ちょ、っとその言い方気を付けような。」
「なにが?」
「えー、そこから?」
「あっ、そういう事ね、気を付けます。じゅるり。」
「・・・」
なんか野獣が餌を前にした様な目付きをする彼女。危ないので話を戻そうとしたがこっちもまたおかしな方向に話が進むのは明白だ。しかしこれはきちんとしないといけない問題なので回避不能である。なんてこった。
「話を戻すけどなんで大使館なんだ。」
「あー、そんな話してたっけ、忘れてたよ。てへっ☆」
てへっ☆ じゃねーだろ忘れんなっ! っと、思うが口にはしない。我慢が必要だ。こんな女でも愛してる。
「それはね、大使館なら都心の一等地にデーンと建っててカッコいい警備員やSPや可愛いメイドさんが居るからだよ!」
「ちょっとまて、それは何処の大使館だ?」
「え、ちょっと待ってね。」
そう言って彼女はクローゼットの扉を少しずつ開けると少しだけガサッと音がした所で止める。隙間から覗き込み手を差し入れて分厚い冊子を取り出すと押し込む様に扉を閉めて少女漫画雑誌を持ってくる彼女。
「いまクローゼットから持って来たよな?」
「ん? そうだけど?」
ソファからゆっくり立ち上がりクローゼットの前で深呼吸する。クローゼットをゆっくりと少しだけ開けて隙間から中を見ると少女漫画雑誌が山になっている。先月掃除した時は無かった筈だが。こんなの何時の間に持って来たんだ。
「えっと、俺には漫画本が山になっている様に見えるんだが、しかもホントに山で崩れそうにも見えるんだが、見間違ってないか?」
「そうだね。大丈夫安心して。」
両手を握り「ガンバっ!」と言わんばかりのポーズをする彼女。
「まあいいか。後できちんと整頓しておいてくれ。」
「了解であります、提督っ!」ビシィッ
漫画は諦めた。提督というのも良く分らんが諦めた。ソファに座り話を進める。
「それで、この漫画本がなんだって?」
「ほら、ここ、ここ。」
正面に座りローテーブルにグッと身を乗りだし、テンション高めの彼女が本を開いて指さすそれは『間違って大使館で働くことになりました。てへっ☆』と長いタイトルがデカデカと書かれている。内容をパラパラと流し見したが、確かに少女漫画によくある美少年と美少女ばかりである。しかも主人公に対して常に敬意を払う優秀な部下に囲まれ国の大事に関わる難事件を解決するという物だ。少女漫画は読んだ事が無いので良く分からないが、これって普通なのか?
しかしちょっと待てよ。ある部分で彼女が頻繁に俺と漫画を交互に見てつばを飲み込む大きな音がした。彼女を見る。彼女は俺をなにか卑猥な物でも見る様に見つめる。漫画を見る。そこには男VS男の戦い、ではなく「あー!」なシーンが濁して描かれていた。
「大使館、良いよね!?」
「どの辺りが良いのか具体的に指させ。」
「えー、それ見れば分かるじゃん。」
「いや、分らん。全体的に良いと言うなら特別どの辺りが良いのか示せ。」
「ん。(ごくり) ここ、かな?」
「あー!」な部分だった。
□
どうしたものか。今日の彼女はプロポースのせいか、おかしなスイッチが入ってるようで何時もの普通の会話が成立していない。
「それは却下。」
「えー、なんでなんでなんで、いいじゃん!」
「お前、俺と他の美男子がくっ着くのが良いわけ?」
「誰もそんな事いってないじゃん。」
「それじゃ、さっきの何か期待した様に見ていたあの眼差しはなんだ。」
「なんの事かな。」
「・・・。 それじゃお前が美少女メイドさんとこんな感じになるのを俺が求めたらどうすんだ。」
「あー!」の部分をちょんちょんと指差す。
「え・・・、 そういうのが、いいの?」
俺を見開いた目で見つめたまま顔を赤らめて口に手を当てている彼女。
「そういうのが、いいんだ・・・。」
そう言うと斜め右下に目線を逸らしてからこちらをチラチラとみたりする。バスタオル一枚でその言動はどうかと思うが。
「俺にその気はないからな? でもお前がそう望まれたら?」
ちょっとだけ意地悪してみようか。そんな事を考えたがまさかの返答が来た。
「そしたらメッチャ可愛がる。」
赤ら顔で真剣な目付きをして即答しやがった。おーい、俺がプロポーズしてるの忘れてるのかと聞いてみたい。もうこいつの中は所謂腐の感情が蔓延しているのだろうか。というか、大前提として大使館とかおかしいから!
「まあ、実際に大使館なんて無理だからそんな事もない訳だが。」
持ち上げて、落とす。ここで大使館の流れを絶ち切る。
「やだ、絶対大使館がいい。」
「く、未だ諦めず食い下がるのか。」
それじゃ仕方ない、どうやってそんなものを用意するのか聞いてやろうか。
「仕方ない、それじゃどうやって大使館を手に入れるんだ?」
「やった! ついに和解の時が来たようだね。」
得意満面の彼女。頭痛い、すこし落ち着こうか、コーヒーコーヒー。
「そうね、まずは独立国家の樹立かしら?」
両目を閉じて人差し指を立てながらふふんっと言う感じで言い放つ彼女に、口にする直前のコーヒーが入ったカップと皿がプルプル震える。危ない、またコーヒーを吹き出すところだった。軽く深呼吸してコーヒーを一口飲むとテーブルに戻した。成長したな、俺。
「ふむ、どうやって。」
理解の在る所を見せながら話を聞き、最後に問題点を列挙して誤魔化そう。
□
「まずは国民希望者を募集する。」
「ふむふむ。」
「希望者にお金を払って貰って土地購入!」
「希望者のメリットは。」
「大使館で働ける?」
「国の財源は。」
「希望者の寄付でっ!」
タックスヘイブンで資金稼ぎする某国みたいな危うさを呈してきたぞ。しかも都内一等地に国を構える気満々でイケメンと可愛い女の子を雇うとか、敵対国家から支援受けそうでマジでヤバイ。
「お前、国から目を付けられない様に言動には十分気を付けろよ?」
「もちろん秘密裏に進めるよー。」
「そうじゃねぇぇぇぇぇ!」
「なんてね。」
ん? なんてね? 突然どうした。突然流れを変えてきたな。何を企んでるんだ。
「実はですね、プロポーズされるの分かってたんだよね。」
なっ、こいつエスパーなのか!? と思ったが、
「一月くらい前から寝言で何度もプロポーズされてたんだからね。その度に真面目に答えてたんだから、ばかっ。」
なんだってー! 全部だだ漏れだったとかマジで!
「だからこれはお返しですっ。」
そう言ってはにかみVサインを決められて暫く呆気に取られてしまったが、いつもの彼女に戻って少しほっとした。
「それは済まなかった、心労お察しします。ぶふっ、それで返事はどうなったのだろうか。」
少し頭を下げ謝罪し、改めて返事を聞いた。
その言葉に彼女は「それはね・・・」と幅の狭いローテーブルを跨ぎながらゆっくり焦らす様にして俺の腕の中にやって来る。
◻
「んぐっ、んぐっ。」
今日の彼女はやっぱりおかしい。それから朝まで長い夜をゆっくり確かめあった、んぐ。
最後まで読んで戴き有り難うございます。楽しんで頂けたでしょうか。拙い文章でヒヤヒヤしておりますが次回作が少しでも楽しめる物になれたら良いなと思います。
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