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聖なる魔法のつかいかた。  作者: 狩生悠一
第一章  幻の秘境
7/7

第一章6話  『伝説の聖剣』

続きです

 


「ハルト、今日は武器を造るぞ」



 魔力のレクチャーを受けて早数週間。

 おっさんが突拍子もないことを言い出すのはいつものことだが、今日は一段とやる気満々だ。


 なんだこれ。

 なんか、いろんな武器が大量に並べてある。


「武器って……え? 作んの?」


「ああ。そろそろソイツも馴染んできた頃だろうからな」


 ソイツって……この、いつも暇潰しに光らせてた聖鉱石のことか?

 まあ確かに、暇さえあれば握ってたからな。もはや俺の相棒みたいな存在だし、そろそろ名前を付けてやろうかとも思ってる。

 これはもう完璧に馴染んでると言っていいだろう。


「でも、それとこれと一体何の関係があるんだ?」


「ふっふっふ。ハルトよ、聞いて驚け」


「……?」



「――お前の魔力を馴染ませたソイツを使って、ハルトだけが扱える特殊な専用武器を造るッ!!」



「………………ハッ」


 何だそれ。

 カッコよすぎて一瞬理解できなかった。


「え、まっておっさんそんなもん造れんの?」


「フッ……あぁ、造れるとも。崇めるがいい。――だがその前に、お前に合った武器を選ばなきゃな」


 そう言って顎で武器の山を示すおっさん。


  なるほど。

 この大量の武器はお試し用ってことか。


 俺は早速手頃な剣を手に取り、おっさんから基本の型の指南を受けはじめた――。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「うーん、長剣も微妙だなぁ……」


「あれだな、お前は長物は合わねぇのかもなー」


「両手剣とか、すげぇかっこいいんだけどなぁ……」


「わかるぜ、デカい得物は男のロマンだよなー。だが、お前にゃまだ体格的に厳しいな!」


 両手剣を軽々と振り回しながら笑うおっさん。

 くそぅ……バカにしやがって……。


「ま、こればっかりはどうしようもねぇさ。チビの間は短剣あたりで我慢しとけ」


「むぅ……」


 悔しいが、おっさんの言う通りだ。

 ……別に、短剣が嫌いなわけじゃないぞ?

 むしろカッコいいと思うくらいだが、やっぱりデカい剣を振り回してみたい願望が捨てきれない。


 でもまあ無理なものは無理なので、俺は早々に諦めて短剣を手に取ったのだが、



「――――」



 ……なんだろう、この感じ。

 短剣の特性上、ただ扱いやすいだけかもしれないが、なんだかすごくしっくりくる気がする。


「ん、どうかしたか?」


「んー……」


 俺は不思議な感覚を味わいながら、軽く短剣を振ってみる。


 ――特に何もない。普通だ。



「……いや、なんでもない」


「そうか? んじゃ、早速だがまずは構えだ。短剣の場合はこうやって腰を落として――」





「――と、まぁこんなもんだな。……で、どうだ?」


 ひと通り指南が終わったところで、おっさんがそう尋ねてきた。


 正直、自分ちょっと才能あると思います。



「だな、俺から見てもそう思うぜ」


「やっぱり? やっぱ俺才能ある? やっだなぁーゆくゆくは剣豪とか呼ばれちゃうのかなー!!」


「初めてにしちゃいい線いってる、って程度のありふれた才能なんだけどなぁ……つーか短剣で剣豪て……」


 おっさんが何やらブツブツ言ってる気がするが俺には何も聞こえない。

 全然聞こえない。


 いいもん別に。短剣気に入ったし。



「おっさん。俺、短剣極めるから」


「ってことは、決まりでいいんだな?」


「ああ。俺だけのオリジナル武器は――短剣、で決まりだ」


 それを聞いておっさんは満足そうに頷くと、


「おし! じゃあすぐに武器加工に入るぞ。ついて来い」


 ずんずんとどこかへ向かって歩き出した。

 話の流れ的に武器を作る施設に向かってるんだろうけど……はて、この辺りにそんなもんあったっけ?


 ――おっさんの後を追いかけて巨大な木々の間を練り歩いた末に辿り着いたのは、何やら怪しげな場所だった。

 すごく怪しい。

 なんかこう……魔女とかが実験してそうな感じのデカい鍋みたいなのが真ん中に鎮座しているだけのちょっとしたスペースだ。


「着いたぞ、ここが加工場だ。今からここでお前の短剣を作る」


 それだけ言うと、おっさんは端っこの方でゴソゴソしはじめた。


 ……これが、加工場だと……?

 設備、鍋しかなくない……?


「なあおっさん……作んのって、もしかしてこの鍋で?」


「ああ。この鍋で」


「マジかぁ……大丈夫かなぁ……ちゃんとカッコいいのできんのかなぁ……」


「安心しろって、ちゃんとできるから。――つっても、クオリティは完全にお前次第なんだけどな」


「ん、そうなの?」


「そうなの。……と、あったあった。ハルト、ちょっとコレ持ってみろ」


 そう言って、棒状の何かを差し出してくるおっさん。

 俺はとりあえずソレを受け取り、言われた通り握ってみる。


 何なんだろう……この、銀っぽい金属でできた握りやすい何か。



「じゃ、説明始めるぞ。まず、お前が持ってるそいつはこれから作る短剣の『柄』だ。そいつは銀っていって、魔力を通しやすい金属でできてる」


「あ、これグリップか! どうりで握りやすいわけだな」


 本当だ。

 パッと見、握りやすいだけのただの棒だが言われてみれば確かに剣の柄だ。


「んで、ブレード――つまり『剣身』は聖鉱石で造るってわけだ」


 なるほど……

 やべぇ。すごいワクワクしてきた。



「造り方は至って簡単。ハルト、お前の聖鉱石ちょっと貸してみろ」


「あ、うん」


 俺から聖鉱石を受け取ったおっさんは、加工場の真ん中に鎮座していた魔女鍋へと近づくと、


「ポイっと」


「!?」


 放り投げた。

 数週間、片時も離れずに仲を温めてきた俺の相棒とも言える聖鉱石を、得体の知れない鍋の中へと放り投げた。

 ずぶずぶと鍋の中に沈んでいく相棒。

 ちなみに、得体の知れない鍋の中ではマジで得体の知れない液体が蠢いている。

 何、この極彩色の液体。


「な、なんてことを……友達、だったのに……っ!!」


「石が友達とかマジかお前……」


「どうしてくれんだよ、真剣に名前まで考えてたのに!!」


「えぇ……」


「待ってろよ……俺が必ず、お前を助け出してやるからなぁ!!」



 閑話休題。



「で、おっさん。俺の相棒を鍋から救出して真の姿に進化させるにはどうしたらいいんだ?」


「そうだな、まずは鍋の中に柄の先端を突っ込め」


「こうか?」


「そうだ。で、その柄から剣身が生えてる状態を想像してみろ……いいか、頭の中で想像するだけじゃダメだ。今そこに実在していると思え。想像を現実に投影するんだ」


「想像を、現実に……」


 目を閉じ、集中力を高める。

 実は、デザインはすでに固まっており、おかげで頭の中でのイメージは難なく完成した。

 あとはこれを現実に投影するだけなのだが――


「なんだこれ、アホみたいに難しいぞ」



 ――想像以上の難易度だった。


 なんかこう、ぼんやりとした感じには映し出せるのだが、それをはっきりとした線にしようとすると途端に形が崩れてしまう。


 うーん、どうしたものか……



「……ん、そうだ」


 一つ、妙案が浮かんだ。

 名付けて、『この数週間欠かさずやってきたアレを応用すればイメージ掴みやすいんじゃね作戦』。

  おお、なんか上手くいきそうな気がしてきた。思い立ったら即行動だ。


 俺は早速、聖鉱石へと魔力を通したときと同じように銀製の柄に血管を這わせるイメージを浮かべる。

 徐々に徐々に、細かい血管が銀色の柄を侵食していくイメージ。


 ここまではいつも通り。

 問題はここからだ。


 柄をある程度覆い尽くした後――その先端から、そこには存在しないはずの剣身へとさらに血管を伸ばした。

 すげぇ。コレを使うと立体で形を把握しやすい。


「いける、いけるぞ……」


 今のところ作業は順調、このまま一気に仕上げてみせる!

 血管で輪郭の線を描き、それを緻密に編み込んで面を作り、頭の中にしか存在しないはずの空想上の剣身を形作っていく。

 そして。

 細かな血管が大量に寄り集まっただけのグロい剣身が完成した。


 うわぁ……何これキモい。

 このまんまだと完全に欠陥品だな。血管だけに。


 でも、形さえ把握できれば後はこっちのもの。

 俺の妄想力をフル活用すれば、血管の集合体に色と質感を与えるくらい造作もない。


「よし、できたぞおっさん」


「お、もうできたのか? なかなか早ぇな」


「俺の妄想力舐めんなよ。もう鍋に浸かってる剣身がはっきりと目に見えるぜ」


「やるじゃねぇか。これでもう完成したも同然だぜ? なんせ、後は最後の仕上げだけだからな」


「お、マジか! ならさっさと仕上げちまおうぜ!!」


「じゃ、ご期待に応えて仕上げの説明だが……至って簡単、その剣にありったけの魔力を注ぎ込め!! ――全力全開、フルパワーだ!!」


「まっかせろ!! うおおおおおおおおおッ!!!!」




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「おっさん!! まだ!? まだダメなの!?」


「まだだ!!」


「そろそろヤバいんだけど!! 俺そろそろヤバいんだけど!!」


「ヘイヘイまだまだぁ!! まだ全然足りねぇぞオラァ!!」


「ち、ちくしょおおおおおお!!!!」




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「あっ、死ぬ!! そろそろ死ぬ!! マナ切れ起こして死ぬ!!」


「大丈夫大丈夫、死ぬ死ぬ言ってる間は死なねぇから。たぶん」


「たぶんって言った!! 今たぶんって言った!!」


「うるせぇなぁ、口動かす暇があったら全部魔力につぎ込みやがれ」


「んんんんんんんん!!!!」




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 魔力を注ぎ始めて小一時間。

 俺のマナもそろそろ本気で限界が近づいてきた頃、ようやく魔力供給停止の許可が降りた。


「ん、そろそろ限界か。……いいぞ、魔力止めろ」


「っっだあああああやっと終わった!! 死ぬかと思った!! マジで死ぬかと思った!!」


「はっはっは、そんだけ騒ぐ元気がありゃ大丈夫だ!」



 いやもう本当にキツかった。

 最後の方なんか記憶曖昧だもん。


 一周回って逆に元気湧くレベルだわ。



「おい、まだ気ぃ抜くなよ。最後の一工程残ってんだから」


「えー……まだあんの……?」


「ああ、大事な大事な一工程だ。――そいつの名前は、考えてあるな?」



 ……ああ、そういうことか。


 もちろんだ。

 デザインが決まった時点で名前も決まっていた。



「ハルト、お前のタイミングでいい。そいつの名前を呼びながら、そこから剣を引き抜け。それで本当に終了だ」



 なんと。

 この剣の名前にぴったりすぎる演出じゃねえか。

 そう、この構図はまさに石に突き立つ剣。

 そしてそれを引き抜く俺は――


 深く息を吐き出し心を落ち着かせる。


 ……よし、行くぜ。

 夢の専用武器――俺の相棒、誕生の瞬間だ。




「――出でよ!! エクスカリバーッッ!!!!」





更新滞ってて申し訳ありません!

今回はなかなか筆が乗らずめちゃくちゃ時間がかかってしまいました……


4月から新社会人なので、生活が落ち着くまでは更新遅くなるかもしれません

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