第一章5話 『魔力の使い方』
続きです
「よし、ハルト。今日は魔力について教えてやる」
ついに来ました。魔力。
異世界だし、もしかしたらそっち系もあるのかなーとか思ってたけどやっぱりありました。
密かにテンションが上がる俺。
「まずはお話からだ。魔力、ってのは、空気中に漂う『魔素』と自分の中にある『マナ』を掛け合わせてできるエネルギーのことだ」
「ふむふむ」
「魔力の作り方は簡単だ。使おうと思えば勝手に作られる。……そうだな。なんかこう、掌から魔力的なモノを放出するイメージをしてみろ」
「おっさんちょっと適当すぎない?」
そんなぼんやりした感じで本当に大丈夫なのか……?
まぁ、一応やってはみるけど。
とりあえず、魔力っぽい紫色のモヤモヤしたものが掌から噴き出るイメージを浮かべてみる。
何も起こらない。
「……何も起こらないぞ?」
「まあまあ、今のは準備運動みたいなもんだ。次はコイツを持って、コイツの中に血管を伸ばすイメージで魔力を通してみろ」
そう言って、おっさんは手に持っていた白い石を俺に握らせる。
これは……光ってこそいないものの、たぶん聖鉱石だな。
何やらよくわからないが、俺は言われるがままに目を閉じてイメージを膨らませてみる。
――掌から伸びた血管が聖鉱石を侵食し、張り巡らせた血管に血を通わせるように魔力が流れるイメージを。
すると。
「おお――!!」
すげぇ、光った!!
しかもすごい光量だ。洞窟のそれとは比べ物にならない。
「おっさん! 光ったぞ!!」
「うんうん、聖鉱石は魔力を通すことで初めて光る。これで魔力の扱いについてはオーケーだな」
おっさんの話を聞きながら、試しに光を点けたり消したりしてみる。
どうやら、イメージで魔力の量を調整することで光量も変わるようだ。
「すげー、面白いなコレ」
「んで、使用上の注意。魔素は外から幾らでも取り込めるが、マナはそうはいかねぇ。使い過ぎればマナ切れになるし、使った分は自然回復するまで待つ必要がある」
「なるほど……」
「ちなみに、マナ切れ状態になっても魔力は使えなくなるわけじゃない。……ま、使えないも同然だが」
「……?」
どういうことだろう。
マナ切れ状態でもできることにはできるけど、使い物にならない搾りカス的な魔力ができるってことか?
おっさんは声のトーンを一つ落としてその答えを明かした。
「――精神汚染」
「っ」
思わず息を呑む。
魔力を込めていた手がピタリと止まる。
……答えが予想の遥か斜め上をかっ飛んでいた。
おっさんはそんな俺の様子を見届けると、真剣な表情で説明の続きを語り始めた。
「いいか。魔素、っつーのは本来は毒だ。言ってみりゃ、魔力を作るってのは毒を中和するってことなんだ。その中和するためのマナが無い状態で魔力を使おうとすると――どうなると思う?」
「……純粋な毒を直接戴くことになる、か」
俺の答えに、大きく頷くおっさん。
マジかよ。そんなことを聞いてしまったら使うのが怖くなるじゃないか。
……うん。
廃人にはなりたくない。できるだけ魔力は使わないようにしよう……。
「――ま、だからってビビる必要はねぇ。精神汚染が始まった時点で、普通なら意識すらまともに保っちゃいられねぇんだ。汚染が手遅れになるレベルまで魔力を使い続ける、なんてのはまず不可能と考えていいだろうさ」
安心しろ、と頭をぐりぐり撫でられた。
痛いので抗議するがおっさんは豪快に笑うだけ。わざとなのだろう。
まったく、迷惑もいいところだ。
おっさんの大きな掌から伝わる乱暴な優しさにされるがままになりながら、俺は確かめるように聖鉱石へと魔力を注いだ――。
第一章、あと二話で完結予定。