第一章3話 『光の洞窟』
続きです
デンゲキノコをしっかりと堪能した後、俺はおっさんと手を繋いで(俺が珍しいものを見つけても飛びつかないように)森の中を散策した。
近場の要所要所を回った後に向かったのは、おっさんが本拠地にしているという洞窟だった。
聞いたところ、本拠地にしているくせに帰ることはほとんどないらしいが。
「この川をずーっと下ってったら、最終的にその洞窟に辿り着く。どうだ、迷子になんざなりようがねぇだろ」
川に沿って歩きながら、自慢気に笑うおっさん。
この森には川が一つしか存在しないため、違う川を辿ってしまう心配もないらしい。
確かに、それなら迷いようがないが……。
「でも、川っていったら海に続いてるもんだと思ってたけど」
「全てがそうってわけじゃあねぇのさ。何事にも、例外は例外なくある」
「……それって矛盾してない?」
「それもまた例外――ってな! がははは!!」
なんなんだ。
例外例外言い過ぎてゲシュタルト崩壊してきたじゃないか。
あれ、結局なんだっけ。
例外はあるって話だっけ?
「お、アレだアレ。見えてきたぞ、我が家だ」
「え?」
どうやら、変なことを考えている内に結構な距離を進んでいたらしい。
前方を遠く見やると、俺たちの進路を阻むかのような形で聳える壁が見えたのだ。
険しく高い、まさしく絶壁が。
……いや、もしかして壁が高いのではなくこちらが低いのか?
なんというか、この森の範囲だけ地盤ごと沈んでいる感じがする。
ともあれ。
これ以上は、右か左かに曲がって壁に沿って歩くしかなさそうだった。
あれ? 行き止まり?
「我が家って……行き止まりじゃないの、これ」
「何言ってんだ、よーく見てみろ」
「んー……?」
先述した通り、険しく高い絶壁だが。
より詳しく言うと、結構ゴツゴツとした感じの岩壁で、もうここが森の最奥地なんじゃないかという印象を受ける。
ちなみに、川は壁と垂直に交わるように伸びている。その川と壁のぶつかるところには小さな穴がぽっかりと口を開けており川はその中へと――
「……ん? ああ! 洞窟だ!!」
「やっと見つけたか。お前目ぇ悪いのか?」
いや、これは視力うんぬんの問題ではなかろう。
壁の巨大さに対して洞窟が小さすぎるのだ。
ここからじゃ点にしか見えない。
それからしばらくの間歩き続け、俺たちは洞窟の入り口に辿り着いた。
辿り着いたのだが……
「お、思った以上に、遠かった……っ!!」
「はっはっは、壁のデカさに惑わされたな?」
「ほんとだよ……歩いても歩いても近づいてる気しなかったもん……」
汗を拭いながら、上を見上げる。
遠くから見たときは険しく高い絶壁だったが、近くでみるとなんじゃこりゃだった。
えげつないデカさである。
あそこからでは点にしか見えなかった洞窟も目の前までくるとかなりのものだった。
入り口の幅は約10メートル、高さはその半分ほどといったところか。
ちなみに、川は洞窟の左端を流れているようだった。
「ま、とりあえず入れよ。中も案内してやる」
「あ、うん」
おっさんの後に続いて洞窟の中へと入る。
入り口付近はそれなりに明るいが、やはり奥は光が届かないらしい。見るからに真っ暗だ。
道幅は十分にあるが、うっかり川に落ちないように注意しなければ。
そうして歩くこと数分。
いよいよ何も見えなくなってきた。
辺りを見回しても、至近距離にあるおっさんの背中がうっすらと見えるだけ。
暗い。暗すぎる。
「なあ、おっさん。本当にこんな真っ暗なとこ本拠地にしてんの?」
こんな何も見えないようなところで生活が成り立つのか、と。
ふと浮かんだ疑問をおっさんに投げかけた途端、おっさんが急に立ち止まった。
至近距離を歩いてたため背中にぶつかる。
「ぶっ!? きゅ、急に止まんなよおっさん!!」
「ふっ。ハルトよ」
背を向けたまま、意味ありげな感じでそう呼びかけるおっさん。
それから溜めに溜めて、こちらを首だけで振り向くと、
「いつからここが真っ暗だと錯覚していた?」
「えっ?」
いや、真っ暗じゃん。
そう喉まで出かかったところで――すっ、と。
おっさんが俺の視界から外れるように、まるで背中で隠していた景色を見せつけるかのように体をずらした。
そこには――
「う、わぁ……!!」
――薄蒼色の淡い光に覆われた洞窟が広がっていた。