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聖なる魔法のつかいかた。  作者: 狩生悠一
第一章  幻の秘境
3/7

第一章2話  『新生活』

続きです。

しばらくおっさんと二人のお話が続きます。



「うおおおーっ!! おっさん、おっさーん!!」


「ど、どうしたハルト!! 何があった!!」


「お、おっさん!! 早く!! 早く来て!!」


「待ってろすぐ行く!! クソ、何があったってんだ……!! ハルトのあの騒ぎよう、ただ事じゃねえぞ。……ま、まさか、自分じゃ動けないほどの大怪我でも……ええい、んなこと考えたって仕方ねぇ!! 今はただ、ハルトを助けることだけを考えろ!!」


「あ、おっさん!!」


「は、ハルト!! お前大丈夫か――」



「――見てよこれ!! こんなデカいカエル、俺見たことねえよ!!」



「はぁんっ!!」


「お、おっさん!? 大丈夫か、派手にズッコケて顔面で地面滑ってたぞ!!」


「誰のせいだ誰の!! んなことでっ!! いちいち呼ぶなっつってんだろうがっ!!」


「それでも毎回来てくれるあたり、おっさんって俺のこと大好きだよな……あ、なんだあのキノコでっけー!! 超柔らかそう!!」


「べっべべ別に好きとかじゃね……あっ、おい待てそのキノコは――」


「――あぎゃあーーーー!!!!」


「ハルトぉーーーーっ!!!!」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「うっ……」


「ようやっとお目覚めか」


「おっさん……」


 目が覚めると、おっさんの声が聞こえた。

 顔をそちらに向けると、おっさんがいつもの呆れ顔で俺を見下ろしながら火を焚いていた。

 ……まあ、おっさんの呆れ顔が「いつもの」になってしまっているのは、他でもない俺のせいなのだが。


 ――あの日から早三日。

 俺はおっさんと二人で、この森で暮らしている。

 あれからどうしたのか、だって?

 とりあえず、記憶の大半を失っていた俺は、まず、おっさんに名前を付けてもらった。

 それが『ハルト』だ。俺の名前だ。結構気に入ってる。

 歳も見た目から推測して決めてもらった。

 10歳になった。

 ちなみに、おっさん曰く、俺は基本的にガキだが見た目の割に老成してるところがあるらしい。比較対象が記憶にも周りにもいないのでなんとも言えないが。

 誕生日も決めたかったが、「何月だとか何日だとか、ここに来てから気にしたことねぇからなあ」ということなので、それはまた別の機会にすることにした。


 ――とまあ、今のところはこんな感じだ。


 記憶を失っていたショックもあることにはあったが、意外と取り乱すほどではなかった。


 そして、もう一つ分かったことがある。

 それは――ここはたぶん、異世界なんだろうなということ。

 記憶喪失とはいえ、なんとなく一般常識的なことは覚えているのだ。

 後に説明するが……ここは、あまりにその常識から逸脱しすぎている。



「ったく……、いいか? あのキノコはだな――」


 そして、俺はいつものように危険な動植物に関するレクチャーを受ける。

 この森には、危険な動植物がいっぱいいる。

 おっさんから大まかな説明は受けているが、どうやら俺には知らないものを見つけるとテンション上がって突撃する癖があるようで、それでいつも痛い目をみる。


 おっさんの話によると、あのキノコは『デンゲキノコ』という代物らしい。

 色は真っ白で、大人でも腕を回しきれないほどに大きくなる。どういう仕組みかはしらないが、常日頃傘の部分に電気を蓄えており、衝撃を加えると一気に放電するという危険なキノコ。溜め込むときはとことん溜め込む習性があり、そのエネルギー量は雷レベルにまで達する個体もあるという。


 ……俺は、愚かにもそんな恐ろしいモノに向かって思い切りダイブをかましてしまったのか。

 流石は異世界なんて言ってる場合じゃない。下手したら消し飛んでたじゃん。


「あ、でも食ったら美味いぞ」


「えっアレ食えるの? 死なない?」


「一旦放電させちまえばしばらくは安全だから、その間に収穫すりゃいいんだ。別に毒持ってるわけでもねぇしな」


 おっさんはそう言うと、ほれ、と木の枝を差し出してくる。

 なるほど、火を焚きながらコレを焼いていたらしい。

 俺は体を起こして、おっさんと一緒に調理を始めた。……焼くだけだが。


 木の枝の先にはデンゲキノコの切り身が刺してあり、それを直火で炙っていく。

 しばらくこねくり回していると、だんだん焼き色がつきはじめた。


「お、おお……」


「どうだ、美味そうだろ」


「うん……、超美味そう」


 ごくり、と喉を鳴らす。


「だが、まだだ。まだベストコンディションじゃねぇ」


「う、うん……」


 涎が垂れないよう気をつけながら、くるくると木の枝を回して丁寧に炙っていく。すると――


 じゅわり、と。

 肉汁が滲み出てきた。


「う、うおー!!」


「おしおし、こんなもんでいいだろ」


 焼きあがったそれを、一口で頬張るおっさん。

 すごい美味そうに食うな、このおっさん。


「かーっ!! うめぇ!! お前も早く食え、アツアツの内に食わなきゃ損だぞ」


「う、うん!!」


 いくらアツアツが一番美味いとはいえ、このまま口に放り込むと火傷してしまいそうだ。

 俺はふうふうと息を吹きかけて軽く冷ましてから、がぶりと食いついた。


 ――その瞬間。


 旨味たっぷりの濃厚な肉汁が口の中に爆発的に広がり、キノコ独特の芳醇な香りが鼻腔を支配した。

 焼け目のさくさくとした食感と香ばしさがアクセントとなってジューシーな肉が口の中で絶妙なハーモニーを――いや、もうこれはオーケストラだ。口内オーケストラが大合奏している。


 ヤバい。

 美味すぎる。


「――――」


「美味ぇのは十分伝わったから恍惚とした表情で泣くな」


「おっさん……こんな美味いの、俺初めて食ったよ……!!」


「ま、昨日まで食ってたのは言わば保存食みてえなもんだからな。新鮮なもんとは比べ物になんねぇだろ」


 そういえば、ここに来てからずっと干物系しか食べてなかったな。

 干し肉とか魚の干物とか……。

 あっ。あのしわっしわのキノコみたいなやつ、コレを干してたのか。

 干すの大好きだなこのおっさん。


「干すしか保存方法知らねぇんだ、仕方ねぇだろ。それよりさっさと食っちまえ、今日はここら一帯の案内をしてやる」


 おっさんはそう言って立ち上がり、焼かずにとっておいたキノコを干すための下拵えをすると、出発の準備を始めた。

 俺はその様子を眺めながら残りのキノコを頬張り、しっかり味わって食べた――。




……もちろん、可愛い女の子も出てきますよ?


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