第一章1話 『第一山人発見』
続きです。
「どこだ、ここ」
思わず、そんな言葉が口を突いて出た。
目が覚めてから辺りを軽く見渡してみたが、目に入るのは木、木、川、木、木……。
それも見たことのない大きさの大木ばかりだ。川もかなり大きい。
こんなド迫力の景色、一度見たら忘れるはずもない。
つまり、全くもって見覚えがない。
そもそも何でこんなところにいるんだっけ?
俺はその原因を探るべく、腕組みをして思考の海へとダイブする。
「うーん」
「お、目ぇ覚めたか」
「うーん……」
「おい、おーい。目ぇ覚めたかー」
「うーーん…………」
「――無視かよっ!!」
はっ。
しまった、人がいたのか。
思考に耽っている間に声をかけられていたらしい。
とりあえず無視してしまった謝罪はしておこうと、俺は急いで体を起こして――
「……おっさん誰?」
「お前の命の恩人だよクソガキ」
謝るつもりだったのに、その人物の風貌を前に思わずそう言ってしまった。
だって、白い布を一枚纏っただけのガタイの良い白髪金眼のおっさんだぜ?
こんな変態、いきなり見せつけられたら誰だってビビるじゃん?
……って、ちょっと待て。このおっさん、さっきなんて言った?
「命の、恩人?」
「そうだ。感謝しやがれ」
腕を組んで得意げに鼻を鳴らすおっさん。
……おっさんには悪いが全く覚えていない。なんだ、俺は死にかけてたのか?
「覚えてねぇのか? お前、そこの川で溺れて死にかけてたんだぞ」
「川……溺れる……?」
あ、思い出してきた。
確か俺は、気がついたら水の中にいて、朦朧としながら水で深呼吸して地獄を味わったような……
――ぞくり、と。
遅まきながら、俺は死の恐怖を実感した。
あの時はいろいろとハイになっていて、まともな思考ができてなかっただけだ。
怖くないはずがない。死ぬの超怖ぇよ。
ともあれ、このおっさんがいなかったら、俺は本当に死んでしまっていただろう。
全てを思い出した俺はふるふるとおっさんの方へ顔をむけると、
「お、おっさぁん!!」
「うおっ!? な、なんだ急に元気になりやがって!! やめろ、鼻水拭くんじゃねえ、服で拭くな!!」
俺は見知らぬおっさんの胸に飛び込んでわんわん泣いた。
何でもいいから、今は縋る相手が欲しかった。
おっさんの白い布が涙やら鼻水やらでビショビショになってしまっているが、俺だってまだ子供なんだ。許せ。
――もう二度と、あんな怖い思いはごめんだ。
「ったく、俺の一張羅がぐちょぐちょじゃねぇか……。おい、もういいだろ? いい加減泣きやめ」
そう言って、おっさんは俺の頭をぽんぽんと撫でる。
そのおかげもあってか俺もだいぶ落ち着いてきた。最後に白い布で鼻をひとしきりかんでからおっさんから離れた。
「……お前はきっと大物になるよ」
おっさんは呆れたようにそう言った後、鼻水まみれになった服を脱いで川で洗い始めた。
マッパだった。
本当に白い布一枚しか着てなかった。
あれだけ止まらなかった涙がたったの一瞬で引っ込んだ。
「うわぁ……」
「おい、子供がしちゃいけない目ぇしてんぞ」
「誰のせいだと思ってんの?」
「これが一番洗うの楽なんだよ、仕方ねぇだろ」
そう言って、おっさんは洗濯を終えた白い布を軽く絞ると、そのまま着てしまった。
「干さなくていいのか? それ」
「着てりゃ乾くだろ。それよりお前、名前は?」
おっさんにそう言われて、俺はまだ自己紹介もしていなかったことに気がつく。
俺としたことが。いくら相手がこんなおっさんでも、命の恩人相手に名乗らないのは失礼すぎるだろ。
俺はすぐにでも自己紹介を始めようと、喉の調子を整えてから口を開く。
「うん。俺の名前は――」
「ふむ」
「俺の、名前は……」
「名前は?」
「なまえ、は……」
……あれ?
不意に目眩がして、俺はその場にしゃがみ込む。
「お、おい。どうした、大丈夫か?」
おっさんが心配そうな顔でこちらを覗き込んでくる。
俺は目眩に頭を抑えながら、なんとか今の状況を整理する。
そして、確信した。
「……どうしよう、おっさん」
僅かな焦りと共に、おっさんに今の俺の状況をそのまま伝えた。
「何も、思い出せないんだけど」
先の構成を練りながらなのでかなりペース遅いですが、次回も読んでいただけると嬉しいです。
……感想なんて待ってなんかないんだからねっ!!