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君の夢の裏側  作者: 鈴鯉
第3章 親友との思い出――それと、現実
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 智と出会ったのは高校一年の時だ。同じクラスで、何かの授業で同じ班に割り当てられた事がきっかけだった。

 緩くウェーブのかかったミディアムの髪と、下がった目尻がとても可愛らしい女子だと思った。同時に――自分には縁のない種類だ、とも。 

 幸野は社交的でない上に、人が思う第一印象と実像が違う。今まで出会ってきたほとんどの人が、幸野を『明るくて運動ができる人』だと決めつける。だが運動はからきし駄目だし、性格は寧ろ暗い。流行りのテレビ番組は見ないし、恋愛経験もない。化粧にも興味がないため、見た目がキラキラした女子達とは絶望的に話が合わなかった。弁当の中身ですら、幸野は梅干しの埋め込まれた白飯が何よりも好物なので、そういう弁当に対し文句を言っている同級生に賛同する事も出来ない。

 幸野と話題や感覚が合わないと分かると、同級生の女子達はすっといなくなる。至極当然のような顔をして、幸野の存在を自分の世界から消し去る。

 だが智は違った。

 授業で同じ班になったその日、昼を一緒に食べても良いかと智から聞いてきた。あまり気は進まなかったが断っても角が立つかと思い、幸野は智と向かいあって弁当を広げた。智がこれまで誰と弁当を食べていたのか知らなかったが、他には誰もいない、二人で食べる事のようだった。

 この日の幸野の弁当が梅干しの入った白飯で、幸野は内心でガッツポーズしながら食べ進めていた。

 不意に智がくすりと笑った。

「すごい幸せそうだね」

 気持ちが表情に出ていたようで、幸野は顔を赤くした。

「おかず、何が好きなの?」

「え、えーと……」

 智の問いに対してちょうど良いごまかしを思いつけず、弁当の中身を見つめながら小さく答えた。

「梅干しと、ご飯……」

 言ってしまった以上、この事実がクラスの女子中の噂になっても仕方ないものと覚悟を決めた。ところが予想に反して智は無邪気に笑った。

「分かる。おいしいよね」

「え?」

 顔を上げて目を瞬かせた幸野に、智は首を傾げた。

「どうかした?」

「うん……、これ言うとみんな大体変な顔するから」

 すると智は大きく頷いた。

「分かる。私もさ、好きなおにぎりはって聞かれて、きんぴらごぼうって言うと変な顔されるの」

「きんぴら……? おにぎりで?」

「うち、お母さんがよく作ってくれたから、それが普通だと思ってたの」

「それ、食べにくくない?」

 智は屈託なく笑う。

「うーん、普通のより小さく切ってあるのかな。全然食べにくくないよ」

 その日以来、幸野は智と一緒に行動するようになった。話してみると、学校での出来事の感じ方や価値観が智とはぴったり一致した。智は幸野の言葉や趣味を否定せず、全て肯定してくれて、毎日他愛のない話を夜中までメールで交わした。こんなに一緒にいられる女子は初めてで、その存在が心地よかった。


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