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君の夢の裏側  作者: 鈴鯉
第1章 図書館で遭った白い嵐
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 幸野が萎れた様子で先ほどの本棚の列に向かおうとすると、

「ちゃんと返すまで見てるからな」

 背中に低い声が刺さった。

「はーい……」

 諦めて返事を返し、本棚に行くと、本は幸野が置いたままになっていた。それを貴城が傍らに立つ返却棚まで持っていき、腰高の棚に揃えて立てて置いた。

 ちらりと彼の方を見遣ると、きつい目つきのままだが満足そうに大きく一度頷いた。

 その時、軽い足音と共に、

「貴城君」

 小柄な女性が、後ろに束ねた髪を揺らしながらこちらに駆け寄ってきた。胸に名札がついていたので、図書館の職員だと今度は分かった。

 女性は、貴城を軽くねめつけて腰に手を当てた。

「また一年生怒鳴ってるって?」

「はあ……まあ」

 幸野を怒鳴りつけた勢いは消えて、バツが悪そうに貴城は頭を掻いた。

「もう、四月から何回目?」

「いや、でも、三田(みた)さん。返却棚の事はこれで何人目だと思います? ちゃんと教えてんすか?」

「入学してすぐの案内で言ってるんだけどね。ねぇ?」

 三田(みた)と呼ばれた職員の女性が突然幸野に水を向けてきて、幸野は慌てた。

「え、あ、はぁ……」

 曖昧にしか頷けなかったのは、その案内の内容を覚えていなかったからだ。

「聞いてなかった奴がここにいますけどね」

 貴城に図星を突かれて、幸野は反論できなかった。

 三田は幸野に向かって苦笑混じりに頭を下げた。

「ごめんね。一年生だよね? この人、LAの貴城君、仕事熱心なんだけどちょっと厳しいところがあって」

「あ、いえ……」

 答えながらも、なるほどと思う。もう既に何人か同様に怒鳴られているから、気にせず素通りする人もいたのだ。

「怖がらずにこれからも図書館使ってね。そんな堅苦しい所じゃないから」

 言った三田の笑顔は、幸野を安心させた。

「はい」

「じゃ、俺、配架の続きやってきます」

 貴城は三田にそれだけ告げて身を翻した。幸野には一瞥もくれなかった。

 その事に対してムッとしないでもなかったが、それよりも幸野は聞いておきたい事があった。

「あの、すみません」

 辞去しようとした三田を呼び止めた。

「あの……、『LA』って何ですか?」

 三田は拘りなげに微笑った。

「ああ。ライブラリー・アシスタントね。毎年、大学院生にアルバイトをお願いしてるの」

「へぇ……」

 なるほど、大学院生なのか――納得して幸野は頷いた。あの髪色に誰も何も言わないのか疑問はあったが、いきなりあれこれ聞くのは良くないかと思い、言葉を飲み込んだ。

 三田は優しそうな笑みを浮かべる。

「また何か分からない事があったら、いつでも聞いてね」

 幸野もつられたように笑んで、事務所に戻る三田を見送った。

 嵐のような時間が去って、残されたのは手つかずの課題のレポートだけだった。

「そうだよ、レポート……」

 深い溜息を吐いて、もう一度本を探しに行くことにする。

「なんか……薄くて、絵がたくさんで、字が大きいの、ないかなぁ」

 周りに迷惑にならない程度の声で呟いて本棚を見上げる。レポートをやらなければ、とは思うのだが、先ほど本を広げてみても全く分からなかったことを思い出すと、他の本を手に取る気にならなかった。

 不意に携帯が振動する。

 またメルマガかと思いながら受信したメールを開いて驚いた。待ちに待ったメールに幸野は目を見開き、急いで文面を読み進める。

 親友からのメールには、連絡できなかったことを詫びる文章と共に、次の休日に会えないかという内容が書かれていた。

 画面を見ながら幸野は満面の笑みを浮かべた。

「――っしゃー!」

 自分が今どこにいるのかも忘れて、大きな声とガッツポーズで喜んだ。

 智、私も会いたい――逸る気持ちを抑えながら、休日は空いている旨を返信しようと携帯の画面を操作する。

 そこに、

「――ぉおらぁ!」

 怒気を露わにした白い髪の青年が幸野に向かって走ってきていた。

「静かにしろって書いてあるだろうがぁ!」

 言っていることとやっていることが一致していない青年の怒声が幸野の耳に届くまでには、数秒の間を置かなくてはならなかった。

「……ん? え? うわあぁ!」

 幸野は一日に二度も――しかも二度目は更にきつく、同じ先輩学生から怒鳴りつけられることとなった。

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