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第三章:25【ようこそ異世界見学会:大人たちの場合】


[ 前回までのあらすじ!

  異世界の女神の挑戦を受け、緊急結成された、異世界捜索藤間少年探検隊!

  彼らを待っていたのは、危機また危機の大スペクタクルだった!


  次々と立ちはだかる難所・怪物・甘い罠!

  迷い惑わす横道・抜け道・回り道!


  負けるな藤間少年探検隊!

  戦え藤間少年探検隊!


  四方八方から呼び止められる誘惑(サービス)だらけの町を抜け、灼熱の陽が降り注ぐ紺碧の海を越え!

  王城の地下にて待つボスを打ち倒し、特産品を手に入れろ! ]


「ということだね要するにつまり」


 大助かりなことに、天照が頼れる上司っぷりを発揮してくれた。

 十二人の少年少女、通称藤間少年探検隊と違い、大人組ルートはそこそこに洒落にならない。


 懐かしの、というより率直に言って【女神が作成したものの田中の指摘でボツになったデータの使い回し】に他ならないモンスター連中が、中々にえげつない頻度でエンカウントしてくるも、その度に天照が指先ひとつで蹴散らしてくれる。


 おかげで、田中にはまるでお鉢が回らない。

 いつだったかの特産品モンスターがぽーんとやっつけられた後モチーフと同じ物品を落とす様を見て、【ああ本当にこいつら落とす(ドロップする)んだ】と、彼にしかわからない感慨に見舞われている。


「…………はっ。わかりましたよ、天照主祭神」

「んー?」

「これ、アレですね。物語序盤で主人公よりやたら強いゲストNPCに助けてもらってる気分ですね!」

「うむ、言いたいことはすげーわかるがやめるんだ田中職員。それじゃぼくがぬわっちまうパターンだろー?」

「トンヌラ」

「サトチー」


 天照が誇る神様の神的アイテムで以て、二人は少年探検隊組の状況を、鏡を通して確認している。

 だからこそ交わせる軽口で、息抜きだ。


 ――最初は、どうなることかと思いもしたが。

 蓋を開けてみれば、実に立派にやっている。

 

「しかし、成長したものだねえ」


 藤間少年の飛び蹴りで撃退された、ヨロイのモンスター。

 ガッツポーズをするリーダーの頼もしさに、パーティが鼓舞されている。


「ぼくが目を通していた報告では、あの女神様はちょいとばかし加減というか、難易度設定が壊滅的に苦手だったものだが」


 経験が、認識を培う。

 先だっての工藤への憑依体験や、田中が付き合い続けてきたテストプレイ。

 それは、何も知らなかった女神の中に、少しずつ【基準】を創り上げていった。


「中々どうして。人に合わせるということが、出来るようになってるじゃないか」


 子供組は、子供組の。

 大人組は、“その中に神を含む”ことまで把握した範囲内で。

 それは見事に、絶妙な具合で調整がしてあった。


 藤間少年以下十一人の子供たちは、それぞれがそれぞれの趣味・嗜好・願望に沿った【探検隊装備】を天岩戸売店で選んでいたのだが、彼らが与えられた時間ぎりぎりまで熟考し、その後田中たちが異世界見学会用書類を用意して持ってくるまでの短い時間で、女神は各々への【聞き取り調査】と、それを踏まえた上での【イベント設定】を完了させた。


 まるで、精緻にして芸術的なパズルのようだ。

 十二人の子供全員に、“自分にしか出来ない”うってつけの活躍の場がある。誰もがスターになり、話題の中心になり、ヒーローになれる状況がある。それがまた緊迫感を与え、熱中の渦に巻き込み、冒険にのめり込ませる。


 結束はより深まり、互いを認め合い、自分に自信を持ち、表情はどこまでも生き生きとしていく。

 この異世界見学会は、言わば彼ら専用に創られた、彼らの為のゲームだ。苦難の人生を送ってきた子供たちへの、メッセージの篭もった御褒美だ。


 彼女が、【何を与えたい】のかを。

 仕掛け人として、大人たちはもう聞いている。

 

「ふむ。ぼくは太陽神だから、基本的には割り振られた役を最大限にこなすのが仕事で、こんなふうな、【創造と配置】にはそう明るくないのだけれど。彼女、駆け出しの創造神に、次なる課題があるとしたならば」


 それはオリジナリティの問題だろうね、と天照は苦笑した。

 さもありなん。

 田中もこれには頷くばかりだ。何たって、そのあからさまさ(・・・・・・)といったら、とてもじゃないが言い訳できない。


「飲み込みが早いというべきか。或いは、底抜けに素直で、率直で、いいと思ったものを真っ直ぐ伝える主義なのか」


 冒険の、主な舞台。

 石造りの町、紺碧の海。

 それはどこからどう見ても――彼女が訪れたグヤンリーや松衣の景色を、影響を受けたというレベルを超えてそっくりだった。


「なあ、田中職員。ぼくが今夏、この松衣に来たのはさ。ここの町の、華やかさと素朴さが隣り合わせに一緒になった町の気風が、どうにも愛おしくってたまらない、お気に入りの土地であるからなんだ。神宮とは比べるべくもないとはいえぼくを奉る分社もあるし、そこの神主は、これが丁寧に奉じてくれていてね」

「……う。も、もしかして、こうはっきりと模倣されるのは、癪ですか?」

「ふふ。いやいや違うよ、そうじゃない。しかしきみ、大胆と思ったら小心なところもあるな、田中職員」


 ぽてぽてと走ってくる、動く木彫りの像。「どうだい、そろそろ自分でやってみたまえ」と渡された木刀をがむしゃらに振るってぶっ叩けば、「ぽむん」と煙を発して、像をちょこんと手のひらサイズに縮めたものが現れた。


 これは、確か。

 松衣の旅館や宿場町でも見たのに似ている、


「自分が好きになったものを、他の誰かも気に入ってくれる。それはやっぱり、悪い気分じゃあないのさ」


 稲穂の束をモチーフにした、ゆるキャラの人形。

 拾ったそれを頭の上に乗せ、太陽神は嬉しそうに笑う。


「――主祭神、」

「ただし版権で揉めるのは異世界の創造神だろうと絶対にNGだからこのあたりはきっちり注意しておくけれどな! 各種キャラクターコンテンツ、ゲームにマンガにアニメに映画に小説に特撮に、人間の生み出した文化を愛する者として公的機関の責任者としてッ!」

「主祭神……ッ!」


 それは本当に僕からも言っておきます、と田中は素早く頭を下げた。



                 ■■■■■



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