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第三章:14【頼もしき仲間たち】

 捜査の資本は、足である。

 そこに、町の人間に顔が利く人気者がいれば尚良い。


 かつて異世界で皇帝を務めていた人間の徳は地球に来ても健在で、グヤンヴィレド・ベル・オウルの魅力、“天然の人たらし”と呼ぶべき才覚が田中の指揮の下最大効率で生かされた。


「ぉおうグヤン坊! なんだ、今日は休みか? 事前に言えよそういうことは! 宴会にも準備が必要なんだから! 待ってろ、暇人共を集めるから!」

「はっはっは、いやいや、誘いは実にありがたいのだがね。これでも立派に仕事中だよ、都村の旦那。実は今、訊いて回っていることがあってね。松衣を愛するものとして、ひとつ、協力してくれないか?」


 道を歩けば歩いただけ、老若男女問わず親しげに声を掛けられ言葉を交わす。

 温かな笑顔で相手に元気を与え、彼と触れ合ったことを活力にする。


 田中が一人だけで活動していた昨日もそれなりに順調ではあったものの、今日は輪を掛けて出逢う人出逢う人の口の滑りがいい。今オウルが世話になっている家の繋がりからか、特に地元商会関係者が積極的に協力してくれる。


 唯一問題らしい問題があるとしたならば、彼が何かをするでもなく、ただそこにいるだけで向こう側から情報が集まって来る為、中々他所の場所に移動し難いことか。

 ……ふと、思いつきで口にした。


「地球に来てから色々とやってみてる、って話だったけど。アイドルとかも向いてそうだよね、オウル」

「そんな、畏れ多い……! この世界の、取り分けニホンのアイドルというのは歌唱演奏舞踊は勿論、農耕漁業害虫駆除に重機の操作、様々な分野の伝統的技能の数々にまで精通し、最終的には村や島などを開拓し新たなる世界を創り上げた者に与えられる努力の果ての称号だというではないですか。私如きの若輩にはまだまだ知識も功績も、何より年季が足りません」


 あの人たちはかなり特殊で豪腕な事例なんだよ、という言葉を田中はあえて飲み込んだ。いつの日かその域に達する彼を見てみたいという、確かな好奇心の判断で。


「おい。そこな老婆よ、尋ねたいことがあるのだが」

「あらあら。何かしら?」


 そこをすると、天使は一点特化型だ。

 オールマイティな層にウケがいいオウルと比較して相手は選ぶものの、取り分けシニア層に強い。


 強気で、ともすれば失礼に当たる物言いも、松衣の御老人方と相性がバッチリなのか、決まって【元気がいい】とか【しっかりしてる】とか、とにかく好意的に判断される。


 いつの時代も井戸端会議ご近所ネットワークというのは侮り難いものがあり、確かなもの怪しいものどうでもいいもの要調査のネタまでも、天使は身一つで飛び込んだ先からごっちゃりと持って帰ってくる。目下、田中の仕事といえば、そんな玉石混合の中から検討に値する情報を選り分けることだった。


 天使の口から次々と吐き出される情報はまるでベルトコンベアだ。それも彼女の感情に比例して速度が上がる。時折田中はその目まぐるしさに窮して言葉を挟む。


「ま、ま、待った、天使さん……! ちょっとストップちょっとストップ!」

「む。何だ、自分はいいがこれでもう五度目だぞタナカ。この調査はどの程度の長さかもわからぬ道程だ、なればこそ出来うる限りに急いだほうが良くはないか?」

「僕もそう思うのは山々なんだけどね、考えなきゃいけないことがいっぺんに押し寄せて来過ぎてどうにも……!」

「はあ、軟弱な」

「う、うぅっ……。だ、だからさ、申し訳ないけど天使さん、ある程度『これは無意味そうだな』って情報は、そっちで最初から除外してくれたら助かるんだけど、」

「? 別にいいが、本当にいいのか?」

「――――ごめん。僕が無茶を言いました、はい」


 何事も、効率を良くすることと、ただ楽をするということは違うのだった。

 出来ること、やれること、求めることの幅が広くなり得られる情報の質も良くなった分、それを正しく活用しようと思ったならば頭をひたすら回さなければならないのもまた道理。

 結果として田中には、協力者がいなかった昨日よりも、頭脳面では数段増しの負荷を受けることになったのだった。


「だ、大丈夫ですか、タナカさん」

「死人の顔だぞ。しっかり生きろ」


 午後三時、食事休憩及び情報整理の為に立ち寄った蕎麦屋で、田中は二人に心配される勢いでレポートを纏めていた。


「オウルに、天使さん。こちら、確認をお願いします」


 二人が丁度蕎麦を食い終わった頃、食事そっちのけで作業していた田中がようやく書き終わり、遅れてざるを一枚注文する。

 後に課長へ提出する調査報告書の草稿を兼ねるそれは、実に明解で、読者各々に前提とする情報を求めない。


 事件の起こりは、二ヶ月前の五月六日。

 発生した現象は、行方不明者の増大化。

 総計十二名の行方不明者の年齢層は九歳から十四歳。いずれも未成年で、男子が七名、女子が五名。性別での極端な偏りは見られず、住所も松衣の各所に散り、通っている学校も別々。


 一見、無関係な少年少女たちには、しかし。

 ひとつ。

 共通する、特徴があった。


「……ふむ、」


 そこに注目するきっかけになったのはやはり、昨日、田中の身に起こった出来事だ。

 これまでは無かった視点。裏を返した考え方。

 

 ――――行方不明の子供たちは、本当に【被害者】なのか。



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