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第四章(急):10【追憶旅程Ⅰ 中学二年の嫌悪/就職前夜の告白】



                            順番を失くす。


           整頓が崩れている。


     支離滅裂に混ざり合い、


             法則を飛び越えながら、


 乱れた主観が羅列される。


 胡乱。

   明瞭。

     混濁。

       逆順。    


    少年は、

  青年は、

         学生が、

          公務員が、


       記憶の中で、


              旅を

              する。



                 ■■■■■



「センパイって、人殺しみたいな目ぇしてるっすよねー!」

「…………」

「ねねねねね、センパイ! あたしにだけ、こっそり、ひとつ打ち明けちゃーもらえないっすかね? 大丈夫っす、絶対誰にも言いませんから!」

「…………」

「何処に埋めました? 鶴寄あたりの山っすか? それとも松衣で水葬っすか? 教えてください、見に行きますんで! 後学の為に!」

「違う」

「え、」

「土の下でも、水の中でも、どこでもない。この世界には、死体は無い。きっともう、何処にも無いんだ。僕もわからない。知らないし、知ったこっちゃあない。ただ、出来るだけ惨酷であればと思う。無惨であれば、と願ってる」

「……えっと、それって」

「なあ、美記翠。君は、どう思う。一体――――神様ってのは、死んだら、何処へ行くんだろうな? そこは、人間と同じ場所なのか? だとしたら、参ったな。あんなやつらといっしょだと、かあさんが、安心出来ないじゃないか。そっちに行って、追い出してやらないと、いけないよな?」

「ぃ、…………やったぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ! っせ、せせせセンパイに! ついに、名前を呼んでもらえましたーーーーーーーーっ!!!!」

「なあ」

「はいっす!」

「君、消えろ」

「あ、それムリっす! ごめんなさいっす!」



 中学時代。

 放課後の教室。

 田中は、奇妙な興味で距離を詰めてくるやたらとタフな後輩を、呪いそうに疎ましい眼で睨んだ。



                 ■■■■■



「おや。おやおや。おーやおやー? なにやら仏頂面ですね。わかった、緊張してますね。大丈夫大丈夫、リラックスなさってください」

「…………」

「負い目はあるでしょうし、遠慮も迷いもあるでしょう。けれどね、そういったものを抱えながらでも、抱えていると知りながら、その道を選んだのはあなたでしょう? 過去に向き合い、清算する為に。見極めて、答えを出す為に――異世界転生に関わる、と決めた。自らを苛み続ける傷の原因を、正しいものとして行っている組織の内側に入り、協力することを」

「…………」

「ほら。最も勇気が要る瞬間、困難で苦しい場面は、とうに乗り越えてしまったというのに、今更何を、入所式程度のことで硬くなる必要があるんです? 観て貰いましょうよ、田中さんの晴れ姿。大学に入って以来疎遠だった御義父上――浩幸課長にも、ね」

「……だから、じゃないか。工藤さん」

「む?」

「今更、僕が、どの面下げて。迷惑ばっかり掛けてきた、あの人と向き合えってのさ」

「あはは。そんなの、決まっています」

「、」

「背筋を伸ばして、胸を張る。迷惑ばっかり掛けてきた息子が、こんなに立派になりました――ってのを、どーんと示してやりましょう。申し訳ないなら尚更に、ここは、逃げられない場面だと思いませんか?」

「……前から、ずっと思ってたんだけど」

「はい」

「どうして工藤さんは――ネフティナは、僕を、こんなに支えてくれるのかな。高校の時から、七年間も」

「それは勿論、これがお仕事だからですけれど? 穏やかなるべき世暦の、【異世界和親条約】の危険因子たるあなたを、何年かかろうとつきっきりで矯正していくのが、異世界公安ネフティナ・クドゥリアスに与えられし任務なので」

「……」

「ああ、あと私の趣味ですかね。くふふ、田中さんってば、からかい甲斐のあるマジメな子ですので。こんな面白い関係、そう易々と手放せません」

「――――ほんと、きみ、いっつもそれだ。立派になったなんて言いながら、その癖いつまで経っても人をコドモ扱いで。僕も――俺ももう、二十二だぞ。いい加減、そういう扱いはやめてくれ、ティナ。あんた、一体いくつなんだっけ?」

「ちっちっち。甘いですねえ、田中さん。【十七歳】というのはね、そういった実年齢の主張なんて一切合切意味を持たない、影響を受けない、関わらない不変の立場――【永遠のおねえちゃん】の象徴、不滅の数字なのですからっ」

「あぁ、はいはい、了解了解。ったく、本当、確かにそうだ。いくつになってもきみには口喧嘩で勝てる気がしないよ」

「ふふふん」

「でも、ま。それも何だか、悪い気がしないな。きみとのそういう関係が、うん。これからまた始まって、続けられるんなら――異世界転生課の生活、使命感とかだけじゃなく、楽しくなるに違いないから。御指導御鞭撻、どうぞよろしくお願いしますね。異世界コンサルタント、工藤貞奈先輩」

「――――――――――――ずるいです。急に、そんな、攻めてくるのは」

「はい?」

「びしばししごいてやるから覚悟しておけと言いましたっ!」


 守月草異世界転生課、正式入所前日。

 それから行き着けとなる飲み屋にて。

 田中は、何かと自分をからかってくるが忌憚無く尊敬する先輩と、希望に満ちた祝杯を交わした。



                 ■■■■■



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