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トドメの哲! ~ディベートで青春を!~  作者: Richard Roe
2:即興ディベートと立論 ~中学生以下の携帯電話の使用は禁止されるべき~
8/10

「……皆さんこんにちは! 否定側第一スピーカーによるスピーチを始めたいと思います。反論、そして立論の順番で行きます」


「反論から! 犯罪に巻き込まれる、大量請求に困る、という意見がありましたが、どっちも関係ないと思います。まず、怪しい書き込みや回したくなる課金ガチャがあったとしても、我々は学校の授業で『~~はダメ』だとか教えられています。それに、そういた子達って子供のうちに自制心を育てておかないと大人になってずぶずぶ嵌ってむしろ悪くなるのでは、と思います」


「万が一ですよ、万が一自制の利かない子供がいたとしましょう、そういう子の場合は親が止めます。携帯も与えないでしょうし、あるいは厳しくチェックするでしょう。肯定側のいうトラブルは、全部親の監督不行き届きの場合に起きる被害だけです。ある意味親の責任です」


 俺はかなりの手ごたえを感じた。反論。なんだ意外と出来るじゃないか。

 ディベートをしながらとく先輩とアキラ先輩を見ると、意外そうに驚いていた。「反論はからきしだと思っていたんだが」という声が聞こえてきた。

 上手く行った、と俺は思った。ならば後は立論のみ。覚悟を決める。


「立論です! 三つの理由から私たちは中学生以下の携帯電話使用禁止に反対します」


「一つ目。中学生以下の携帯電話を禁止すると子供の安全が守れなくなります。例えば現在、塾などに通ったりすることで帰宅が遅い子供たちがいるかと思います。彼らはいつどこにいるのかをリアルタイムで教えられる携帯電話を持つことで、安全を保障されているのです。

 例えば、二つの例を挙げます。帰り道に異変を感じたらすぐに110番に通報できる、そうすれば子供は少しの間走って逃げるだけで警察に助けてもらえるでしょう。

 他にも。子供が塾から『今から帰ります』と連絡してから、あれいつもより三十分遅いとなったときにいち早く警察に通報したりできる、この迅速さが子供の命の明暗を分けることも少なくないでしょう。

 また、夜に道を徘徊する誘拐犯や変質者も、道行く子供たちが携帯電話を持っているかもという恐れから犯罪をためらう効果も若干見込めるでしょう。これらを失わせる論題の採択は認めがたいものです」


「二つ目。友達たちとの連絡を取ることが難しくなります。周囲の友達と簡単に連絡をとれる携帯電話は非常に有益です。風邪で休んだ日の宿題を聞くこともできますし、いつどこで遊ぶのかをメールでやり取りできます。携帯電話がなくなると、例えば夜十時にうっかり宿題を思い出したときとかに電話を掛けるのは友達の家族に失礼だから諦めないといけなかったりしますが、携帯があればすぐに確かめられるでしょう。それらを失わせる論題は非合理的です」


「三つ目。携帯電話にある便利なツールを一斉に失ってしまいます。携帯は今や英単語アプリや電卓など、数多くの便利なツールを備えるようになりました。思い出を残すカメラ機能とかも携帯のものです。それらがなくなるのは子供にとって大きな不自由ではないでしょうか。論題はそういう子供の権利のためにも受け入れがたいものです」


「以上です」


 語り終えると「ナイス」ととく先輩とアキラ先輩が返してくれた。ディベート中に相手からこういう一言をもらうとはと一瞬驚いた。

 練習試合だからねと、とく先輩は笑っていた。

 その合間に、すでにアキラ先輩は教壇の前に立っていた。


「では、肯定第二立論を始める。初めに反論から。面白いことに三つの意見はいずれも重要ではなかった」


 アキラ先輩のスピーチはかなり過激な文句で始まっていた。


「子どもの安全性。これについては我々は既に対案を示している。地域のパトロール強化及び送迎バスなどが有効だろう。それほど心配ならGPS機能付き・警察通報機能付きの防犯グッズ販売などを検討しよう。防犯ブザーもあるし、もしも家に連絡を入れたいならば塾が保護者に何時に終わったかを報告すれば良かろう」


「友達との連絡。どうしても重要なものであれば夜に恥を忍んで電話で連絡できるし、そうでないならば、例えば宿題忘れなどは自己責任だ。つまり携帯電話がなくても取り返しの付かない事態にはならない、あくまで自己責任の範疇に留まるということだ。……携帯電話で夜遅くに打ち合わせること自体我々としては推奨されない行動だ。立論で後に述べよう」


「便利なツールも同様。そもそも学校が校内で携帯を使用するのを禁止している場合が多く、便利云々思い出云々の話は放課後や校外の話になるだろう。その時は代用品がたくさんある。いくらでも電卓を使い英単語帳を使うといい。ピクニックや修学旅行の時にはデジカメを持っていくものだ。問題はない」


 さくさくと流れる反論。


「再反論。否定側の反論は重要な部分を親の責任、で押し切っている乱暴なものだった。親も人の子、判断ミスもすれば子供に甘くもなる。社会人として忙しいし、監視能力を期待するのは酷だ」


「否定側の携帯擁護の論理は実は穴だらけだ。

 学校ではダメなことはダメだと教育している、大人になったとき自制できなくなるとむしろまずい、親が監督すればいい、監督出来なければ親の責任、だから携帯認めてもいいんじゃないか? という謎理論。

 何と、パチンコや競馬、深夜のゲーセンやカラオケも全て当てはまってしまう。

 パチンコや競馬、深夜のゲーセンやカラオケなどは、学校ではだめだと教育している。大人になって自制できずにはまりすぎると、まあ問題だろう。競馬も深夜のゲーセンも親が止められるし、弊害が起きたとしてそれはそんな所に行く子供を止められなかった親の監督不行き届きによる親の責任だ。

 つまり、パチンコや競馬、深夜のゲーセンやカラオケを子供に認めてもいい……ということだろうか?

 否定側の理屈が正しいというなら、同様の理屈でこれらもまたOKとなるのだが、これは正しいというのか?」


「否定側の理屈で、もしそういう犯罪リスクや金銭トラブルを止められるというのならば、現状これらも子供たちに認可されているはずだ。

 しかし実情は違う、たとえ禁止しているにも関わらず毎年幾人か学生が深夜のゲーセン利用などで補導されたり犯罪に巻き込まれたりしているのだ。子供の好奇心はそれほどに大きく、自制心はそれほどに信用ならない。大丈夫だという理論は空虚だ」


「理由や線引きは何だ? 我々は既に線引きを示した。そういう利便性・娯楽性にリスクが伴う場合は本人に責任能力があるかどうかで許可しようと。パチンコ競馬、深夜のゲーセンカラオケがその実例だ。子供にリスクなどを自己判断できる責任能力がない以上、禁止しないと多くの人が被害に遭ってしまうから禁止したのだ」


「否定側は無条件ですべてを許可しようとしているのだろうか。否定側の論理に則ると、パチンコ競馬、深夜のゲーセンカラオケも許可されるべきものになるだろう。それを証明できない限り、あるいはこの矛盾への合理的な説明のない限り否定側の反論は我々の立論の重要性を否定できないだろう」


 再反論を聞いて俺は驚いてしまった。

 こんなやり口があるというのか。お前の論理を当てはめるとこうなる、という技法。

 ストローマンの技術に近く、しかし論理的には正しい。どうやら上手くいなされたらしい。


「最後に立論。中学生以下の携帯電話禁止は、生活リズムの良化を促すだろう」


「中学生以下というと体の発育に重要な期間であり、睡眠時に出される成長ホルモンは身長の伸びや身体機能の発達などに大きく寄与する。また、中学生以下は義務教育期間であり、高校に進む進まないの進路の別れを考えると、ある意味、全ての国民が生活リズムを整えるための最後のチャンスとも捉えられるだろう」


「携帯電話は夜更かしにつながった。親に隠れてこっそりゲームをしたりskypenやlinerで連絡を取ったりしやすくなり、睡眠時間を惜しんで生活リズムを崩したまま育つ子たちが急増しただろう」


「近眼の子たちは増え、頭痛持ちなどもしばしば目立つ。ゲーム依存症になったり携帯依存症になったりと良くない面ばかりが見受けられる。子供たちは携帯を持つことで何か道徳的あるいは教養的進歩を得られただろうか? 得られていないのだ」


「我々肯定側は、彼らから携帯を離させて、健全な生活リズムをまず体に染み込ませてから与えるべきだと主張する。物の扱いには責任能力が伴うものだ。酒やたばこなども健康被害と依存性から年齢制限がある。携帯もまたそれらに近しい存在なのだ」


「犯罪、金銭トラブル、依存性のリスク。同時に文明の利器としての利便性・娯楽性は否定しない。要は責任能力が彼らにあるかどうかだ。義務教育期間中とはつまりまだ教育が必要である、社会に出るにはまだ未熟であるという意味なのだ。彼らの責任能力がない以上、欲望を駆り立てるようなものを無闇に側に置いて、自制心を試すような真似をするべきじゃない。何人かの子供がつい誘われて、それで人生を歪めるような被害を被るのだから」


「以上」


 立ち去るアキラ先輩。やはり彼らは先輩なのだ。後輩である俺たちよりも一段も二段も上の実力者だ。

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