鏡像と認識
6 鏡像と認識
出撃から数時間後、ヨミではポルックスが率いるアガルタの群れと、ウサ・セイジ中佐が率いる大隊が激戦を繰り広げていた。
次々と襲い掛かってくるアガルタに、兵士たちは果敢に向かっていく。上方から襲ってくるビーに対し、機械化歩兵達は機関銃を浴びせ、牽制する。戦闘支援小隊が設置した荷電粒子砲がそれを貫き、殲滅させた。地上からはワームとツチグモが襲ってくる。外骨格の硬いそれらには、特殊機械化兵が突貫していく。三十ミリ機関砲を近距離で浴びせながら近づき、パイルバンカーを突き立てた。パイルバンカーはアガルタの外骨格の固有振動数を読み取り、情報をフィードバックさせ貫徹した。青い液体が飛び散り、アガルタは沈黙する。人型遠隔操作機体と人型戦車は縦横無尽に戦場を駆け回り、味方の支援要請を適宜受け、どんどんアガルタを殲滅していく。フェアリーのスピカとアルタイルは宙を自在に舞い、腕を荷電粒子砲とブレードに変化させ、砲火を浴びせ、斬撃を加える。キリシマ・カストル搭乗機のウガヤも羽を生やし、空中を浮遊しているが、まだうまくそれぞれの融合と同調がとれていないのか、少し動きがぎこちない。
それにはヨミの大気も関係していた。大気の粘度が高いため、空中を舞うというより、水中を漂っている感覚に近い。故に、動きは地球環境下の水中での動作のように鈍重にならざるを得ない。また、速度に対し冪乗的に圧縮熱が増大するという特殊環境下では、機動時に発生する圧縮熱が更にその機動性を奪っていた。ヒヒイロカネを多く使っているとはいえ、外部装甲や外部部品は既存の金属そのままである。熱処理がうまくいかない。既存兵器の、人間の技術の持つ限界がそこにはあった。
しかし、それでもなお、ウガヤは高い能力を発揮した。荷電粒子砲に変化させたヒヒイロカネ製の荷電粒子砲は、フェアリー単体のそれと戦闘支援小隊のそれを軽く凌駕した。一発発射されるごとに、アガルタの群れを蹴散らし灰燼に帰す。
フェアリーのように高速機動は未だできないが、その代わりに強大な攻撃力を持つ。ーーー鈍重で巨大だが一撃は驚異的なほどに重い。ーーーウガヤはそんな存在として今ここに在る。
空中より放たれるそれはまさに神なる一撃である。そのベース機体が冠する名にふさわしい稲妻の如き威力を誇った。
しかし、それでもなお、人類側は劣勢に立っていた。フェアリーの存在と新たなヴェノムが彼らを襲っている。今までヒヒイロカネを使用しているイワツツ・ヘラクレスにしか見られなかった精神汚染が一般作業員や機械化歩兵に見られている。今までのそれとは違い、フェアリーの傀儡にはなってはいないものの、次々と倒れていく。彼らには何の外的損傷も見受けられない。
ーーー新しいヴェノムだ。精神汚染だ。
ウサ・セイジ中佐はそう判断した。撤退を指示すべきかどうか勘案する。しかし、ヴェノムの精神汚染によって倒れた作業員や兵士達のバイタルサインはまだ出ている。彼らを捨て置くか?
ーーー否。救出を優先する。彼らがいきなり傀儡と化し、敵となる可能性は?
ーーー否めない。しかし捨ておくことはできない。もう二度と、もう二度と部下を失うのは沢山だ!
イワツツ・ヘラクレスの着用者にはまだヴェノムの精神汚染は見られていない。アマテラスとのデータリンクが上手く機能しているのか?いや、それでも新しいヴェノムがいつ襲ってくるかわかったものではない。
ーーー撤退だ。ウサ・セイジ中佐はそう判断した。
ウサ・セイジ中佐は各員に撤退命令を出した。一般機械化歩兵は即座に撤退を。そして、イワツツ・ヘラクレス着用者には戦場に残された作業員並びに一般機械化歩兵の救出命令を出した。
新しいヴェノムによる精神汚染被害を広げないために、増援要請は特殊機械化歩兵と人型戦車のみに留めた。圧倒的に手数が足りないが仕方がない。
救出に人手が一気に取られ、人類側の攻撃力が一気に下る。後方に位置する戦闘支援小隊の荷電粒子砲とレーザーによる支援と人型戦車四機と二体のフェアリーの攻撃力のみが頼りだ。
撤退戦は苛烈を極めていく。アガルタの数も今まで以上に多い。それに統率が今まで以上にとれている。それが救出作業と撤退に大きな影響を与えた。救出に向かった兵士も次々と倒れていく。この統制のとれたアガルタの動きは何だ?フェアリーか。カストルの双子のポルックスによるものか。
ウサ・セイジ中佐は考える。人類が初めて対峙したフェアリーには思考というものがなかった。ただ、人の形をしているだけで、そういう意味では他のアガルタと何の代わりもなかった。しかし、カストルを見るに、フェアリーは進化していると考えられる。出奔当時のカストルには何の感情も、人らしい思考も存在しなかった。しかし、今や人間の様に振舞い、感情も持ち、論理的思考も持ち合わせている。これが、ポルックスら、ヨミ側のフェアリーにも当てはまるとしたら?
ポルックスらも人間の戦術思考を学んでおり実行し始めているに違いない。そう判断した。
今この戦場には人類側にフェアリーが三体 カストルとスピカとアルタイルが 居るものの、ポルックスが率いるフェアリーは十数体にも及んでいた。ワーム、ツチグモ、ビーに対しては、善戦しているものの、今まで以上の数の多さと若干向上が見られる統制力に人類側は苦戦を強いられている。
ウサ・セイジ中佐は指揮権を副官に移譲し、指揮車から離れ、前線に出て行った。人手が足りないのだ。自らも戦闘に積極的に参加し、救出に向かわなくては。倒れている者を見つけた。急いで救出する。抱き起こした瞬間、身体に衝撃を感じた。
「ハァイ?人間さん。ごきげんいかが?」
それはウサ・セイジ中佐が抱き起こした者の手だった。
ーーーポルックスだった。兵士に偽装していたのだ。鋭いブレード状になったそれはウサ・セイジ中佐の身体を貫いた。ウサ・セイジ中佐は膝から崩れ落ちた。
「これで三人目。戦闘能力を失っている者をわざわざ回収する意味がわからないわ。感情というものか。戦闘には不要ね。なのにそれに囚われ絶命する………人間は度し難い………さて、人間の行動研究はこれくらいにして………」
ポルックスは上空を見つめ、次の標的を見定めた。ーーー空に浮遊する人型戦車〈ウガヤ〉に。
「〈堕天〉したあの子が求めたのはこれなの?我が同胞ながら、ますます度し難いわ。」
◆
「トウマ。ポルックスが来るよ!警戒して!」
キリシマ・トウマはカストルに言われるまでポルックスの接近に気づけなかった。いや、気づけたとしても間に合うはずもなかった。それは、このヨミの大気粘度を物ともしない高速で接近してきたのだから。
ウガヤは回避行動をとるが、間に合わない。ポルックスのブレードが左肩部装甲を貫き、ヒヒイロカネに置き換えられた部位をも傷つけた。
「っつっ!」
衝撃でキリシマ・トウマの意識が飛びそうになる。しかしすぐさまカストルと意識を同調させ、右手をブレード状に変化させ、ポルックスに向けて振りぬく。
しかし、ポルックスには当たらない。ポルックスはブレードを躱し、後退しながら荷電粒子を左手から放ち距離を取る。
「鈍い。鈍いぞ、カストル。お前が纏うそれはなんだ?感情だけでなく更に余計なものを身につけて。何になる?何になるというのだ?」
キリシマ・トウマはシールドでそれを防ぐ。なんとかすべての攻撃を防いだがしかし、
「痛い痛い!痛いよトウマ!ポルックス!」
カストルが声を上げる。痛覚が?キリシマ・トウマはそれに驚いた。フェアリーに痛覚が、痛みという感覚があることを初めて知った瞬間であった。同時に、ウガヤとカストルが完全に融合していると言う証明でもあった。
遅れて、キリシマ・トウマの左肩に痛みが走った。唐突に感じた痛みに思わず声を上げ、左肩を押さえた。
「トウマ!」
カストルが声をかける。
「大丈夫だ!問題ない。痛みだけだ。」
キリシマ・トウマの左肩には何の損傷も見られない。しかし、痛覚はウガヤとカストルと同調しているようだ。
(これがウガヤか。俺とカストルとタケミカヅチの異なる存在が融合していっているというのか?)
ウガヤとカストルと同様に、融合し、今や同一の存在になっていこうとしている。ウガヤが左肩部に受けた損傷が遅れてカストルに、そして自分に伝わってきているのか。ラグは数秒。存在を隔てる数秒。
その直後、ポルックスが声を上げる。
「っつっ!!!!!なんだこれは!?」
ポルックスの身体に、カストルの意識が、感情が、痛みが、何もかもが流れ込む。彼女達フェアリーは様々な情報を心象粒子を利用して共有していると考えられている。今まさに、それが起こっているのだろうか?とキリシマ・トウマは思いながら次の攻撃に備える。
ポルックスは気を取り直し、再び、攻撃に移る。荷電粒子砲を連射しながら接近してくる。鈍重なウガヤはそれを避けられない。シールドは破損し、荷電粒子の群れがウガヤを貫く。遅れて、ポルックスがすれ違いざまにブレードで切りつける。
ウガヤの左腕上腕が切り落とされた。
遅れて痛みが、カストル、キリシマ・トウマに伝わってくる。
「痛い痛い、痛い痛いよ!」
「ぐうっ!」
「ーーー」
その痛みはポルックスにも伝わってくる。しかし、ポルックスは痛覚を、痛みを痛みとして受け取る感情を初回の攻撃後に既に切り離していた。カストルの〈痛い〉という感情は流れこんでくるが、ポルックス自身に痛みは生じない。
「ーーーカストル。」
ポルックスが攻撃の手を止め問いかける。
「なぜお前は堕天した?我々はアガルタだ。人間の敵だ。なのに何故お前は人間側に付くのだ?」
「自分自身のことを、何故人の形をして自分が形作られたか知りたかったからよ!」
「姿形に意味など無い。ただ、我々は人間の遺骸から情報を読みとり、たまさかそうなっただけの存在にすぎない。人間が忌避する。攻撃を忌避する鏡像として立ち現れただけの話だ。」
「私はそうは思わない!自分が、人の形をして生まれた意味は必ずある。それを知るために人間に接触したのよ!」
「その結果がこれではないか?痛覚を感情が戦闘能力を割いている。我々アガルタはただひたすらに、悉く侵入者を、人間を滅ぼすための存在だ。」
そう言って、ポルックスは再び攻撃を開始した。次々とウガヤの装甲が削られ、その手足をもぎとり、破損させていく。
「ぐっっああああああああああっ!」
キリシマ・トウマの身体に激痛が走る。ウガヤの損傷が、その程度がキリシマ・トウマにそのまま襲いかかってくる。ウガヤの損傷は深刻だった。勿論、その痛みを体に受けるキリシマ・トウマも。
ーーー限界だ。もう次の攻撃には耐えられない。
「トウマ!」
カストルはポルックスからのフィードバック情報を見習い、痛覚を切って対処しはじめた為、既に痛みは感じていない。ポルックスはそれを確認している。しかし、ポルックスにはカストルの〈痛み〉の感情が未だに流れ込んでくる。
「何故?お前は人間の〈痛み〉を感じるのだ?痛覚はとうに切っているだろうに?」
「わからないの?ポルックス?私自身は物理的に〈痛み〉を感じなくても、トウマの、他人の〈痛み〉を想像し、自分の〈痛み〉として感じる事を?」
「他人の〈痛み〉?そんなものが?自分自身の〈痛み〉でないのに何故それを自分のものとして感じるのだ?そんなものに融合しているからなのか?身体の共有が起因しているのか?」
ポルックスはそう言ってウガヤに再び襲い掛かる。
「違うわ!」
そう言うと、カストルはウガヤから分離し、ポルックスの前に正体した。ウガヤは羽根を失い、ゆっくりと地面に向かって下降していく。
ポルックスとカストル。双子のフェアリー。向い合う二人はそっくりだ。ただひとつ違うのは表情だ。カストルにはそれがあり、ポルックスにはそれがない。唯一の、しかし決定的な違いだった。
ポルックスはウガヤに向かって攻撃を加えようとするが、カストルが阻んだ。二人は両の手をブレードに変化させ、互いに剣撃を繰り返す。そのさなか、カストルは言う。
「〈感情〉よ!私達アガルタが持ち合わせていなかった感情がそうさせる。私はトウマと、人間と共に行動することで多くのことを学習した。そして、意味を見出そうとしている!『我々はどこから来たのか?何者なのか?どこに行くのか?』を。」
「〈感情〉。それは私達アガルタには必要ないものだ。戦闘においてそれは障害にしかならない。現に人間どもはその感情に振り回された結果、私に殺されたよ。捨て置けばいい戦闘に於いて無能になったものをわざわざ回収しようとしてね。」
「それが!人間なのよ。自己完結していない存在。他人が居て、初めて自己を認識できる。それが人間なのよ。其のために感情が存在する。他人の感情を推し量り、自分の感情を投影して自己を確認する。私達だってそうでしょう?ポルックス。あなたは私。私はあなたじゃない。私の学習した人間の情報を分析することであなたはここにいる。あなたは決して自己完結している存在ではないのよ。」
「痛みもそれか?其の人間の痛みを想像して何になる?なんになるというのだ?」
「わからないわ!でも私は人間とともに生きて行きたい。この感情を、他人を鏡として自己を認識するという構造を、私は追求して行きたい!」
「解せん。解せんな、カストル。我が双子。何故にお前はそこまで………!?」
瞬間、ポルックスを下方から弾丸の雨が襲った。
ーーーキリシマ・トウマだ。痛みを何とか堪え、腕部固定兵装機関砲を作動させたのだ。
「ーーー小賢しい。」
ポルックスはひらりと躱す。が、砲火はウガヤからだけではなかった。荷電粒子砲が二方向からポルックスを襲う。
ーーースピカとアルタイルだ。
(何故あいつらが?他のフェアリーは何をしている?数から言ってもこちらが優位だ。なのに何故救援に来れるのだ?)
そして下を見やる。人類側の増援が到着していた。特殊機械化歩兵と人型戦車がアガルタを再び駆逐し始めていた。ポルックス麾下のフェアリー達はそれに対応するのに精一杯といった様子だった。今まで劣勢だった状況が改善の兆しを見せ始めている。一番の要因は、後方からの戦闘支援隊による荷電粒子砲の支援砲火が正確に、ワーム、ツチグモ、ビーを捉えていたためだった。
それは、息も絶え絶えになりながらも、前線に残り、アガルタの行動パターンを先読みし、正確な砲撃位置を指示し続けた男による成果だった。
(何故だ?何故このようなことが?)
ポルックスは下を見やり、他のフェアリーから情報を受け取り状況を把握する。
(あの男か!何故だ?何故まだ生きている?何故アガルタの餌食になっていない?)
ーーーその男とは、ウサ・セイジ中佐だった。
ウサ・セイジ中佐はまだ生きながらえていた。ポルックスはとどめを刺さなかった。行動不能にしてさえ置けば、じきに他のアガルタが始末するだろうと思っていた。だがそうはならなかった。ウサ・セイジ中佐の周りには特殊機械化歩兵のイワツツ、ヘラクレス、そしてユーリ・サハロフの操るムクロが円形防御陣形を組み、守っていたのだ。
自らを守りに来た部下たちに、ウサ・セイジ中佐は怒鳴った。「何故俺を守りに来たんだ!俺はもう助からない!救助の必要はない!命令に従い、直ちに撤退せよ!」と。しかし、兵士たちは拒否した。ウサ・セイジ中佐の人望が、今までヨミの世界で培ってきた人望が部下達を自発的に動かしたのだ。
「いい部下を持ったね、ウサ。」
ユーリ・サハロフが言った。
「………まったくだ。しかしここももう持たん。俺もじきに死ぬ。」
ウサ・セイジ中佐を守る特殊機械化歩兵は次々と倒れていった。アガルタの数が多すぎた。今やこの場に居る特殊機械化歩兵は二名。そして、ユーリ・サハロフのムクロが三機のみだ。彼らは完全に取り囲まれ孤立していた。
「サハロフ。」
ウサ・セイジ中佐が言った。
「あいつらを、お前のムクロで空中輸送して離脱させてやってくれ。抗命は許さんぞ?『借りは必ず返す』主義なんだろう?今がその時だ。」
「ハ・ハ・ハ。わかったよ、ウサ。『借り』を今返そう。」
そう言うと、ユーリ・サハロフは抵抗する特殊機械化兵を力ずくで引っ張りあげ、アガルタの包囲網から離脱させた。
残るはウサ・セイジ中佐とユーリ・サハロフのムクロ一機となった。
「サハロフ。貸しの二つ目だ。もろともにするぞ。お前のムクロのパワーリソースを暴走させてアガルタ共をもろともにする。ギリギリまで引きつけてからやれ。」
「なんとまあ………よかろう。君と一緒に散ってやろうではないか。人殺しにうってつけの役目だ。そして、君の最期を見届けよう。」
そう言ってユーリ・サハロフは笑った。ウサ・セイジ中佐も笑った。お互い、顔は見えないが、確かに笑っているとお互いが感じていた。
アガルタがどんどん近づいてくる。罠とも知らずに。どんどんと。ユーリ・サハロフは故意にパワーリソースを暴走させる。ウサ・セイジ中佐はパイルバンカーをユーリ・サハロフにあてがった。固有振動数を読み取る。あとは少し力を加えるだけだ。
「行動不能にしただけで、とどめを刺さなかったのが裏目に出たなポルックスよ。アガルタ共め。これ以上俺の部下を死なせはせんよ。俺はじきに死ぬが志は受け継がれる。そしてこの戦闘のデータもまた引き継がれる。他人を意識できないお前達にはまだまだわからんだろうがな。ちょっとばかり人間の知識を得て、ちょいとばかり戦術らしきものを組んだとて、所詮は力技よ。まだまだ甘いわ!ヨミ開拓初期からの古参兵を、人間を舐めるなよ!」
ウサ・セイジ中佐はアガルタがギリギリまで近づいたのを見計らった後、パイルバンカーをムクロのパワーリソースに突き立てた。
ーーー閃光と轟音があたりを包んだ。
ポルックスは、下の状況を見やり、撤退を判断した。
かなりの数のアガルタが爆発で消失した。
(とどめを刺さなかったのが敗因か。くそ!………?なんだ?この感覚は………?敗北の感情?人間の、感情………?)
ポルックスは自身の心に去来する〈なにか〉に胸を掻き毟られつつその場を離脱した。
ゆっくりと降下するウガヤからコックピットが強制排出される。脱出装置が起動したのだ。それをカストルが回収し、ハッチを開けた。
「帰ろう、トウマ。私はいつもあなたとともにある。」