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二人で始める命魔法  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一話、魔法使いは魔法書から
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渡りに船

 放課後にもなると、俺もだいたいここの学生生活に慣れた。

 さすがに親しい友達はできなかったが、サイルがいるだけでも多少は救われる。

 そのサイルは友人に誘われ遊びに行ってしまったため、俺は教室にぽつんと残される。


 となると、話相手に決められそうなのは同じように居残っているヤツしかいない。

 皆の嫌われ者らしい少女、ルーフィニ。

 彼女はゆったりと帰り支度をしている。ふふ。向こうも俺が声を掛けるのを待ってるみたいだぜ。


 ふふ、素晴らしいシュチュエーションではあるまいか。

 さぁ、俺のトゥルーエンドが待ってるぜ!

 鞄にノートと筆記用具を詰め込み、さぁ、行くぜ!


「えーと、名前聞いたんだけど、ルーフィニでいいんだよな?」


 俺は教室に二人きりになるまで待つと、ルーフィニに声を掛けて見る。

 意外そうな顔をした後、こくりと頷くルーフィニ。

 サイサスとの会話で自分が破滅の声を持つと知られていることには気付いているはず。

 それでも声を掛けて来た俺に驚いているのだ。


「俺、この周辺の遊ぶ場所とか知らないんだ。よかったらオススメの場所とか知らない」


 ルーフィニは散々迷った後、首を横に振った。


「そっか、じゃあさ、よかったら一緒に遊びに行かない?」


 ルーフィニは思わず目を見開いた。


「いやさ、出来れば道案内とかしてくれると嬉しいかなって思ってさ。ダメかな」


 ルーフィニは迷いながらも首を縦に振った。

 おしっ、俺おしっ。やれば出来る子!

 にしても……会話ができないのはきついな……


 何かコミュニケーションができる方法があればいいんだけど。

 このままじゃ、はいかいいえを首振りでしか判断できない。

 会話をできるくらいにしたいところだ。




 学校から出た俺達は、二人会話も無く、当てもなく、ぶらぶらと町を歩いていた。

 なんとも不思議な感覚だ。

 元の世界で女性と二人で歩くことなどなかった。

 今、自分はとても充実した日々を送り始めているのではあるまいか?


「おー、見なよルーフィニ、武器屋だって武器屋」


 俺の指さす方にルーフィニはこくりと頷く。

 目の間にあるのは武器屋、そっと覗いてみるだけでも剣やフレイルが見える。

 武器屋のおっさんが体格がいい上に顔が厳ついので入る気にはならなかった。


「凄いな、普通に売ってるのか。これって許可書とかいらないのかな」


 聞いてみると、ルーフィニは首を捻った。


「あー、許可証とかこの世界にはないか。えーっと、ほら、学生なら学生証持ってるじゃん、そんな感じで武器持つのに必要な何かは無いのかなって。お金さえあれば子供でも買えるの?」


 ルーフィニは少し考え、すぐにコクリと頷いた。

 なるほど、この世界では剣でも銃でも自由に買えるわけか。

 じゃあ剣でも……あ、金ないや。

 日本の金ならあるんだけどな……


「ルーフィニは異世界の通貨とここの通貨換金できる場所って知ってる?」


 これに関しては残念、ルーフィニは知らなかった。

 仕方がないので折を見てサイルに聞いておこう。

 あいつ、後で教えるとかいいながら忘れてるみたいだし。

 にしてもしまったな。金がなければデートもできない。


「んー食事でもと思ったけど金がないか。どっか行きたいトコある?」


 首を横に振る。

 うん、なんとか分かった気がする。

 質問形式であればルーフィニは応えてくれるようだ。


「んー筆談できればもっと会話の幅広がるんだけどな」


 ルーフィニが首をかしげるのをみて、筆談の意味が理解できなかったのだと気付く。


「筆談ってのはほら、用紙に文字描いて言葉の代わりに話をする手段だよ。紙と書く物が常時必要になるけど、全然話せないよりはいいだろ?」


 ルーフィニは目を見開く。どうやらその発想はなかったらしい。


「とりあえずノートとシャーペンってのか? これって鉛筆とは違うみたいだけど」


 前日に貰った筆記用具を取り出す。

 羽の付いたボールペンといったところなのだが、普通に黒鉛筆みたいに書けるんだよなこのペン。

 あのちょっと鉱石じみた味のある黒色がまたなんとも……っと、どうでもいいや。


 試しに書いてもらう。

 そして気付いた。俺は、俺は人生初の大失敗とも言える失態。

 ……しまった。文字が……分からねえっ。


「すまない。根本的に、俺には……この世界の文字がわからない……」


 膝を折り崩れる俺に、ルーフィニは戸惑う。

 まさかこんな初歩的ミスに気付かないとは。

 確かに、ルーフィニはこれで会話できるはずだ。俺、以外と。


「ダメかぁ。こっちの言葉覚えるまでは会話はお預けだな」


 しかし、そんな俺の頭にルーフィニの手が触れる。

 頭を撫でる彼女に、顔を上げると、空いた手で親指を立てて来た。

 前に俺が見せたグッドの手話を覚えたのだろうか。


 ……ん? 手話……? っ!? そうだ。俺はなぜソレを忘れて……って、あれ? ルーフィニ?

 ルーフィニは俺から離れると、周囲を歩く一般人にノートを見せる。

 たまたま選ばれた女性がそれを見て、俺に声を掛けて来た。


「あの、この子があなたの言葉を教えて欲しいって」


「俺の、言葉……」


 それだけ伝え、女性は去って行く。

 力なく立ち上がる俺に、ルーフィニはノートを両手で持って待っていた。


「日本語を、ルーフィニが覚えると?」


 こくりと頷くルーフィニ。薄い笑みがこぼれる。

 俺と仲良くするために、自分が俺の扱う言語を覚える、だと!?

 なんだ? この胸の奥に湧き上がる熱き感動は?

 俺は……この時、契約抜きで彼女と仲良くしたいと、本気で思ってしまった。

※ 役に立たない豆知識


渡りに船


 川を渡ろうとした時、運良く船がある様に都合のいい事が起きるたとえ。

 転じてふと思いついた手話をしようと思ったところへ、相手も自分とコミュニケーションをしたいと申し出て来ることのたとえ。

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