表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人で始める命魔法  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一話、魔法使いは魔法書から
8/36

案ずるより産むが易し

 授業を終えた昼休憩。

 サイルは友達と食事をするということで、40マゴラを貰ってしまった。

 お小遣いである。

 中学生になって初めての、他人からのお小遣いである。

 重要な事なので二度言いたい。

 お年玉として貰うことはあったけど、お小遣いはまず無かった。


「俺は今、感動している。何かに……」


 握りしめた硬貨はアルミや銅とは別種のモノ。

 緑色に輝く透き通った硬貨だった。

 おそらくエメラルドではなかろうかと、ちょっと邪推してみる。

 これ、日本で売ったら高値にならないかな……

 もし高額で売れるなら、こちらで日本円を100倍に、さらにそれを日本で数倍に……お、億万長者!? 涎が止まりませんな。うぇっへっへ……


「ラ・グ」


 ぎゃああッ!?

 なぜだ、なぜ遠くに離れた俺に電撃が!? サイル、恐るべし……ガクッ。

 ……さ、さて、これで食事をする訳ですが、どうする?


 やっぱり学食に向うしかないだろうけど、一人で食べるのもなんかなぁ……

 辺りを見回してみるが、仲間内で固まっている者しか残っておらず……いた。

 一番隅の方に、影のある女の子が一人で弁当を広げ始めていた。


 これは……いろんな意味で好機!

 俺は勇気を振り絞り人生初のナンパを敢行することにした。

 萌え上がれ俺のコ○モ! あ、違った燃え上がれだ。


「あ、あのさ……ちょっといいかな?」


 近づいた少女はシャギーの入ったショートヘア。

 箸を手にしてのったりとした動きでこちらを振り向いた。

 視線は虚空を見つめるような不思議ちゃん。しかし、それがまた可愛い。


「あのさ、俺、初めてで、食堂行きたいんだけど、場所知らないんだ。よかったら教えて貰えないかな」


 場所は知っていたが、嘘を付かせてもらう。

 さぁ、付いてこい。俺と一緒に食事をしようじゃないか、そして契約を……

 しかし、少女は手にした箸で廊下を差しジェスチャーだけで食堂への行き方を示してくる。


 初め、何をしているのか分からなかった。

 でも、すぐに気付く。学食への行き方を教えてくれているのだ。

 いや、そうじゃない。そうじゃないんだ君。俺は君に道案内を頼んでいるんであって道を聞いてるだけじゃないんだよ!


「い、いやいや、そうじゃなくて、出来れば一緒に来てくれると助かるんだけど」


 少女は少し思案して、箸で弁当箱を差す。

 今、食事中。ということらしい。

 少しくらい話してくれても……いや、いいさ。俺は声を出す程の価値もない他人という事だろう? 見てろ、俺のテクでメロメロにしてやるぜ!


「向こうで一緒に食べない?」


 遠回しな言い方は無理と判断し、直球勝負。

 再び思案する少女は、そのまま弁当を片付け始めると、弁当の包みを持って立ち上がった。そのまま教室を出て行く。


 なぜか背中に大きなウサギの人形が背負われているが、コレは何かのネタか?

 というか、オッケーということなのだろうか?

 俺は遅れて廊下に出る。


 少女はずんずん歩いて行ってしまう。

 その向う先は、どうやら学食らしい。

 まだ半信半疑だが、俺と食事してくれることを了承してくれたと見ていいのだろうか?




 ようやく彼女が一緒に食事を取ってくれることを了承したと確信できたのは、食堂に着いた時だった。


「えっと、お勧めの食事ってある? 40マゴラくらいの奴」


 少女はこくりと頷き片手を上げる。

 人差し指でメニュー札が下げられた壁を指さす。

 そのまま近づいて行き、ある一点に指を合わせる。


「ドラカツ定食……ドラカツッ!?」


 これってまさかドラゴンのカツレツ!? 40マゴラ丁度。

 思わずごくりと喉が鳴った。

 だってドラゴンだぜ? ゲーム史上魔王に次ぐ最高種とすらされているあのドラゴンの肉、それが学食で食べられる。

 これはもう、喰うしかないッ。


 食堂のおばさんにドラカツ定食を注文し、お小遣い全てを注ぎ込む。

 トレイを引っ提げ先に席を取っていた少女の横に座った。

 本当は対面がよかったのだが、残念ながらそこまで椅子に空きがなかった。

 二人分の席を確保していてくれただけマシといえる。


「席、取っててくれてありがと」


 少女に言うと、コクリと頷いて来た。

 どうにも喋らない奴だ。

 今も弁当を開き無言でちまちま食事を開始していた。


 ゆっくりと食べる姿がなんとも庇護欲をそそる少女だ。

 こんな可愛い子と一緒に食事を食べられるなら、やはり異世界に来て良かったと思う。

 というか、こんな近くに女の子がいたことは初めてじゃないだろうか。サイル以外で。


 というか今さらながらこれ、対面に座るより位置が近い。

 もう、少し横に傾くだけで肩が触れ合うくらいの近さがある。

 うぅ、ちょっと緊張して来た。ここに来て女性とのコミュ力不足が露呈しだすとは……いや、まだだ。まだ終わらんよ。


 横目に彼女の顔を見ながら、カツを一切れ口に頬り込む。

 むっ。この味は……

 思わず会話をすることも忘れて掻き込んだ。

 何これ、めっさうまーっ。


「うおおっ、うまっ、凄いなこれ」


 掻き込みながら隣の少女に言うと、少女はこくりと頷くと、少し照れたように顔を逸らした。

 俺は彼女に親指を立て返し、再び食事に熱中する。

 少女が食事の半分も終えないうちに、完食したのだった。


「やべー、ドラカツ定食うまー。これは確かにおススメだぜ」


 気が付けば、隣の少女が食事を止めてこちらを見つめていた。


「どしたぁ?」


 聞いてみると、何故か首を傾げられた。


「いや、予想以上においしくてさ、満足だよ。教えてくれてありがとな」


 言ってほほ笑んだ瞬間、彼女も薄い笑みを浮かべる。

 その顔に思わずドキリとしてしまった。

 あ、そうだ。パートナー。そうだよ。俺は彼女に契約して貰おうとしてたんだ。あまりに美味しくて忘れていた。


 でも、さすがにこう周囲に人がいてうるさい時に言うのはちょっと嫌だな。

 放課後にでも聞いてみるか。

 うん、今はただ良い印象を与えるに努めよう。


「そういや、悪かったな。食事に誘っときながら先に食べ終えちゃってさ」


 少女は首を横に振ると、再び食事を開始する。

 うん、話しかけると休憩終了までに食事できなさそうだし、隣で見守るに留めとこう。

 物静かでいい子だね、この子。

 ……あ、名前聞いてない。っていうか、教えてくれるだろうか。声出さないし。

 サイルにでも聞いてみるか。




 教室に向うとカンガとサイサスが近づいてきた。


「なんだ転校生、サイルの次は死神の魔女に手を出すか。底抜けのアホだな」


 死神の魔女!? この子のことか!?

 なんかすごい意味深な設定来たぞ。

 これはまさか、ゲームでいうラブエンドフラグ発動という奴か?

 皆から恐れられる少女を俺だけが気にかけ彼女は心惹かれていくという伝説級フラグの発生なのかっ。


「せいぜい殺されないように気を付けなぁ」


 嫌味に笑うカンガはそのまま自分の席に戻って行った。


「あー、サイサスだっけ、ちょっといい?」


 カンガの後ろを付いて行こうとするサイサスを呼び止め、俺は死神の魔女の名前を聞いておくことにした。


「そ、そいつの名前?」


 顔はわりかし二枚目風味のサイサス。

 おどついているせいで三枚目にしか見えない。


「ルーフィニだよ。ルーフィニ=サクリファイ。黒魔術専門と破滅の声を持つ女だよ」


 破滅の声?

 思わずルーフィニを流し見る。

 声を出さないのはその破滅の声がでるからってことか。

 よくは分からないが言葉の意味からして声を出すと破滅につながるとか、そういう設定か?


「おいサイサスッ、さっさと来いッ」


「は、はいっ」


 カンガに急かされ、サイサスはカンガの元へ、ルーフィニもその間に自分の席に付いてしまっていた。

 ふふ、なかなか面白い学園生活になりそうだ。

 俺の中の厨二パワーが疼き始めているぜ。

※ 役に立たない豆知識


案ずるより産むが易し


 お産前は酷く不安がるが、案外容易く産めるというたとえ。

 転じてあれこれ作戦を練ったり遠まわしにいうよりもストレートに誘った方が上手く行くというたとえ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ