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二人で始める命魔法  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一話、魔法使いは魔法書から
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砂上の楼閣

 サイルが面倒臭そうに振り向いたのを見て、俺もそちらに視線を送る。

 やってきたのは大柄の男だった。

 金髪角刈りのその男は耳を塞ぎたくなるような大声で言う。


「随分と仲がいいじゃねぇかサイル。男女のクセに珍しく発情かァ?」


「誰……こいつ?」


「ああ、カンガという名前の山猿よ。気にしなくても良いわ。ただのゴリラだから」


「あ~なるほど、クラスに一人はいるよね、小山の大将だっけ? 井戸の中の蛙? まぁどっちでもいいけど」


「そうね、どうでもいい。それより薬草について……」


「どうでもよくねぇッ」


 俺とサイルの会話に、ついにカンガが怒鳴りつけた。

 耳を押さえつつ再びカンガに意識を向ける。


「いいかサイルッ。テメーは俺様の妻なんだからなッ、他の男にケツふってんじゃねーぞッ、わかったか」


 妻とな!?

 驚く俺の間横で、バヂリと雷が弾けた。


「ラ・グッ」


 問答無用でサイルは魔法を放つ。

 不意打ちだったカンガは顔面から直撃され、そのまま気絶して倒れた。

 後ろからやってきた男子生徒がカンガを抱えて教室から消えて行く。


「妻……って、ワイフ?」


「馬鹿の妄想よ。酒の席で父が言ったことを真に受けて未だに……ね。私があんなオスゴリラに惚れると思う?」


 頷きかけて、装填済みの魔法を感じ、首を横に振っておく。


「あのちっさい男は誰だ? カンガ引っぱって行った奴」


「サイサス? 一応カンガの友人らしいわ。見たとおり腰巾着」


 ふぅと溜息を吐き、サイルは俺に視線を向けた。


「カンガとは余り関わらない方がいいわ。単細胞バカだけど魔法に関してはかなりできるし、名家の出だから。敵対しないならそれに越したことは無いわ」


「サイルはどうなんだよ?」


「私は天才魔法使いだから」


 なんてね。とサイルは笑う。

 悪戯っぽい笑顔は、なぜだかとても可愛かった。




 なるほど、薬草知識が必要な訳がよくわかった。

 授業を聞くまでは疑っていた俺だったが、これがまた素晴らしい。

 魔法は万能ではないし、覚えてない魔法で回復出来るはずもなし。


 回復役の仲間がいなければ、必然的に必要になるのが薬草知識だった。

 毒消し草があれば解毒できるし薬草があれば回復ができる。

 ただ、薬草といってもどんな草にどれほどの効力があるのか、どうやって使うのか、それを知らなければ意味がないのだ。

 その扱い方、毒草との見分け方を教えてくれるのが薬草知識の授業だった。


 物凄くためになった。

 思わず時間も忘れて聞き入っていた程に先生は話が上手かったのだ。

 俺は、初めて先生と呼べる人に出会ったのかもしれない。


「どうしたの? なんかすごい顔してるけど」


「感動しているのだよサイル君。俺は、運命的な師匠に出会った気分だ」


「あー、薬草知識の先生ね。確かに話上手よね。聞いてると薬草って物凄く大事って思うわ。でもさ……」


 と、溜息を吐いてサイルは懐に手を伸ばす。


「これ、なんだと思う?」


 そして、取り出した小瓶を振って見せる。

 中には青色の液体。振られるたびにちゃぽんちゃぽんと音がなっている。


「なんだそれ? まさか、伝説の馬鹿につける薬かっ!?」


 そうなのかっ。アレが伝説とすらされた馬鹿を直すと言われる薬だというのか?

 それを使って俺が薬草を褒める馬鹿さ加減を直すと!?


「あんたが馬鹿でしょ。これはヒールポーション」


 ヒールポーション? それってまさか……


「薬草を幾つか潰して抽出した飲み薬。当然だけど回復量は桁違い。なんとお安く30マゴラ」


 マゴラ? ああ、この世界の通貨単位って奴か。


「ちなみに、日本円だと1マゴラ1銭くらかしら」


「銭? 1000円じゃなくて? ってことは1円が100銭だっけ。だから……30銭かよ、1円切っている!? 安ッ!?」


「あ、そうだ。日本円との通貨交換できる場所あるから放課後教えたげるわ」


「マジで、そりゃありがたい」


 日本のお金なら財布にしっかり入ってる。

 母さんから貰った諭吉さんが五枚と110円。


「つまり、薬草わざわざ見つけなくてもヒルポで十分なのよ、万能薬はちょっと高いけど私たちなら大量買いできるわ」


 つまりは日本人だから。1円が100マゴラくらいになるのだ。

 1万円なんて替えたら……うえっへっへ。


「こら、その顔やめろっつってんでしょ、他の人の前でやったら引かれるわよ」


「おっと、そんなヤバイ顔してたか」


 思わず我に返って顔を引き締める。すると……


「おい男女」


 またもカンガがちょっかいをかけて来た。


「じゃあ、あたしちょっとトイレ行ってくるから」


 俺に断り入れて立ち上がるサイル。カンガを無視して横を通り過ぎる。


「何無視してんだコラッ」


「どいてくれない? デカい図体が物凄く、邪魔。なんだけど」


 最後の邪魔。の部分だけ強調して、サイルはカンガを押しのける。


「おい、待てよサイルッ」


 サイルの暴言にカンガは思わず去りゆくサイルを引き止める。

 伸ばされた手がサイルの肩に触れた瞬間だった。

 サイルはすばやくカンガに振り向き手を払う。

 さらには両手をカンガに向けて……


「ラ・グラ・グラ・グラ・グラ・グラ・グラ・グラ・グラ・グラ・グラ・グラ・グラ・グラ・グラ・グラ・グラ・グラ・グラ・グ……ラ・グッ」


 相手に魔法防御すらさせないノーモーションからのラ・グ連射。

 立て続けに発射される電撃にカンガの身体が面白いくらいに飛び跳ねる。

 お、鬼だ。悪魔がここにいる……


 サイルの容赦ない雷撃の雨に、カンガは成す術なくサンドバッグとかしていた。

 お、俺じゃなくて良かった。

 心底俺が対象に入って無くてよかった。


 これが、これが前に言っていたラ・グ連射という奴か。

 サイルの容赦ない魔法は途切れることなく続き、身体に触れただけのカンガは、まるで暴漢に襲われた様な痛手を負って気絶してしまった。

 ……死んだんじゃないのか、あれ……


 ようやく止んだ魔法の雨に、カンガの友人、サイサスがそそくさとカンガを連れて逃げ出した。

 カンガ、厳つくてあまり好きになれない男だが、お前の為に俺は祈ろう。

 どうか、生きていてくれ。これで死んだらあまりにも切なすぎるから……

※ 役に立たない豆知識


砂上の楼閣


 砂の上に建てられた見事な楼閣は基礎が弱く崩れやすいというたとえ。

 転じてどれほど大切そうに誇張して説明しても薬草は薬草。基本性能が低いので大した効果は無い。

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