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二人で始める命魔法  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一話、魔法使いは魔法書から
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負け惜しみは一生文盲

 寮に戻って数時間、食事を取りに誘いに来たサイルに踊りの最中を見られ、呆れられた以外はつつがなく、俺は契約の魔法とサンダー・クロスを練習した。

 全く、この世界はテレビなどの誘惑がないので無駄に練習に打ちこめてしまう。ダンスを覚える感覚だから速い速い。俺の才能が恐ろしいぜ。


 食事が終ってからも、部屋に戻り、踊りの練習だ。

 風呂を汲んだりなどでサイルも部屋にいたが、事情は説明してあるので変人のレッテルは貼られなくて済んだ。


「契約魔法、ねぇ」


「なんだよ、その胡散臭そうな目は」


「いーえ。そういうの初めて聞いたから、ホントかなってね。そもそもキスして契約とか誰がするっていうのよ」


「でもさ、ほら、サンダー・クロスとかかっちょよさげな名前じゃん、ラ・グってサイルの使ってる魔法だろ? それを使った協力魔法だから強力だって」


「一生使えないんじゃねぇ」


 テーブルの前に座ったサイルは両肘付いて溜息を吐く。


「女生徒の中で気の弱そうなのいるんじゃないのか、そういう子にアタックしてみるよ」


「それは絶対やらせないから」


 チッ冗談の通じない奴め。冗談じゃないけど。


「まぁいいや、それよりちょっと手伝ってくれない?」


「手伝う?」


「サンダー・クロスの振り付け。相手がどう動くかも知っとかないといざって時説明できないし」


「……仕方ないわね。変なとこ触ったらラ・グ連射するわよ」


 一撃でも危険なのに、死ぬぞ?

 それからしばらく、サイルが文句垂れながらも俺に付き合ってくれた。

 サイルの奴、面倒見はいいみたいだな。

 無理に頼んだらキスくらいしてくんねーかな?

 いや、止めとこう、藪から蛇を出す事もあるまい。




「えーと、梶原信太です。よろしく」


 翌日教室に連れてこられた俺はクラスメイトの目の前で自己紹介をしていた。

 好意の目に晒される照れから、当初考えていたカックイイ自己紹介などする気にもなれず、無難な自己紹介を済ます。


 こっちの世界では珍しい名前なのだろう。

 むしろ漢字自体がないのかもしれない。

 あれって何て読むんだとか、かじわらしんた? 読めねーよ。とかのヤジが聞こえた。


 特に大きな声で言ってきたのは角刈りの大男。

 ホントに学生かと思う程に周りの生徒より年老いて見える。

 両腕を前で組み、ふんぞり返るように背持たれている、一目でいけすかない奴と思える男だった。


「では、サイルさんの横に座りなさい」


 男の先生に促され、俺はサイルの隣に向う。

 校長先生の取り計らいか、サイルがフォローしやすいようにしてあるようだ。

 女子の隣である。重要なのでもう一度。女子の隣の席である。イヤッホゥ。


「それでは授業を始めよう。今日は雷撃魔法についてだ」


 無言のまま、サイルが教科書を見せてくる。

 ちょっとグッと来てしまった。

 こいつ、けっこういい奴だ。

 なんて思ったのだが、残念。


 教科書には意味不明の文字が描かれ解読は不能。

 先生が黒板に書くのも意味不明の文字なので、先生自身の声をしっかりと聞くしか勉強としてなりたたないようだ。

 すまないサイル。俺は君の親切を無駄にしてしまったようだ。


「つまり、他系統魔法のように魔力消費に比例して威力を高める力があり、ラ・グを基本術式としてラ・グラ、ラ・グライラと高威力魔術式になっていく。ラ・グ三発分の威力がラ・グラにはあるが、瞬間的な威力で換算すると、ラ・グラで破壊できてもラ・グを何発撃ち込んでも壊せないということもありうる。つまり高威力魔法を扱うということは一撃必殺を覚えるということだ。ラ・グライラの威力で壊れる魔抗石をラ・グで壊すとすればだ、同時間内に何千回というラ・グを唱えなければならない。瞬間的に魔力を集中させるというのはそれほど威力が変わるのだ」


 講義についてはあまり意味は分からなかったが、ようするに大軍アリに踏まれるのと象に踏まれるとの威力が違うとかそんな話だろう。


「なぁサイル、魔抗石って何?」


 小さな声で聞いてみる。


「授業終わったら話すわ。黙ってて」


 にべもない。

 仕方がないので分からない単語とかをノートに書いておこう。

 あとで纏めてサイルに聞けばいいや。




「魔抗石は魔力に耐性のある石よ。様々な種類があって、ある系統の呪文でしか破壊できないの。さらに雷系魔法で壊れる魔抗石でもラ・グで壊れるものもあればラ・グラじゃないと壊れない強度の石もあるわ。そこらへんにもごろごろしてるけど、ある程度は採掘されて学校の備品になってるの」


 授業が終わると、サイルは教科書ノートを片付け、説明を開始した。


「魔法でしか壊れない魔抗石だろ? どうやって採掘するんだ?」


「採掘器具にエンチャントするのよ。この世界のエンチャントはエンチャント魔法に属性魔法を取り入れるのよ。エンチャント+ラ・グでラ・グの威力を上乗せした武具になる。ラ・グライラでもできるから実質三段階強化できるわけ」


「……えんちゃんと……って、なに?」


 物凄く嫌な顔をされた。

 あんたどこまでブァカなのよ? と顔が言っていた。


「エンチャントはエンチャントよ。武具の強化魔法。ラ・グを一緒に使えば雷撃属性の武具にできるし、防具なら雷耐性の防具にできるわ。ただし一定時間過ぎると効果は切れるのよ。わかった?」


「あ、ああ。なんとなく」


 他にもいろいろ聞いてみたかったものの、これ以上聞く危険を感じ、俺は押し黙るしかなかった。


「さぁ、わかったら次の授業の用意しなさい」


「用意……といわれても……」


 机の上に出されたノートくらいしか用意などなかった。


「次って、何の授業?」


「確か薬草知識だったはずよ」


 薬草知識など習って何に生かせというのだろうか?

 俺には全く分からない。魔法に関連するならともかく薬草だぞ?

 ゲームでは、使えば30ポイント程度回復するくらいのどうでもいい草だ。

 そんなものに知識など必要なのか? と思っていると、


「おいサイル、転校生」


 野太い声がやってきた。

※ 役に立たない豆知識


負け惜しみは一生文盲


 人に頭をさげることが嫌いな者は一生知らないままで過ごすことになるということ。

 転じて嫌な顔で怒られそうだからと分からない事を押し黙る事。

 また、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥ともいう。

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